第18話 ロディ、ギルド長に呼び出される
ギフトの効果がわかったロディは、それ以降冒険者ギルドでの仕事が少し変わった。リーセさんがロディのギフトについてみんなに伝え、その効果について喧伝して回ったことによる。
「彼に書類を見せると文字の間違いを見つけてくれるので、怒られずに済むわよ。」
みんな最初は半信半疑だったが、実際に書類を見てもらって間違いを指摘されると、大いに喜んでロディに感謝するのだった。
ただ、おかげで『この書類をチェックしてほしい』という依頼が1日20件以上も来るようになり、ロディはてんてこ舞いになっりながらギフトを使用する毎日を送らざるを得なくなった。
だがそれが功を奏したことがある。大量にギフトを使用したおかげか、彼の修正ギフトもその性能が日に日に向上した。
まずギフト使用のON/OFFの切り替えができるようになった。
ロディのギフト発現以来、常に少しずつではあるが魔力が減っているようで、仕事終わりにはとても疲れた気分になる。
それがどうやらギフトの影響であると気づいたロディは、
「必要な時だけギフトを使用できないかな。」
と考え、試しにギフトを使わなイメージを思い浮かべると、書類に”赤いしるし”が現れなくなった。
もう一度、今度はギフトを使えるようにイメージすると今度は”赤いしるし”が現れた。
「やった、ギフトが操作できた。これで魔力を節約できるぞ。」
ロディはギフトを自分でコントロールできたことを喜んだ。
さらに、多くの書類を見続けていたロディは、”赤いしるし”のぼんやり感が少なくなり、だんだんと輪郭がはっきりしてきた。
「なんだろう、なんだか線の組み合わせみたいだけど。もしかして・・・」
さらに使い続けるていくうち、ロディにははっきりと分かってきた。
「そうか、これは”文字”だったんだ。赤いしるしは”正しい文字”を示していたんだ。」
ロディのギフトは、間違いの箇所だけでなく、その正しい文字を表すことが出来るようになっていた。
このように、ロディはギフトの成長を実感しながら、忙しいながらも日々喜びをかみしめるのだった。
◇◇◇
そんなある日、ロディの仕事場に一人の男がやってきた。
「ロディ君はいるかい。」
「アルメイダさん。はい、何でしょうか。」
アルメイダと呼ばれた彼はユースフの秘書のような人で、ギルド長室でユースフの仕事の補佐を行っている。
年齢は30代くらいでユースフより少し若いくらい。身長はやや高く、顔は目が少し細いくらいでこれといった特徴は無い。黒い髪をユースフさん以上にオールバックに流して整えている。秘書というより執事といった印象だ。
ロディはアルメイダとこれまで直接話したことはなく、名前もやや遅れて思い出したくらいに接点は少なかった。
アルメイダはニッコリ笑ってロディに近づいた。
「実はロディ君に頼みたいことがある。ロディ君は書類の間違った部分を見つけることが出来ると聞いたのだが。」
「あ、はい。出来ます。」
「少しこの資料を見てもらえないかね。」
アルメイダはそう言うと手に持った紙をロディに渡した。その紙は10枚ほどあり、通常のギルドで使う紙質より上質にみえる。
ロディは受け取った書類を見つめ、およそ2分くらいかけてすべてに目を通した。その間アルメイダはロディの様子をじっと見つめていた。
「・・・終わりました。」
「早いな。で、間違いはあったかい?」
「はい。3か所ありました」
「・・・3か所もあったのか。場所を教えてもらえないかね」
彼は少し驚いた様子でロディに近づき、ロディが指し示した場所を確認すると、食い入るようにしばらく書類を見つめていた。
ロディはその真剣な様子を、答え合わせを待つかのように少しドキドキしながら眺めていた。
やがて、納得したように顔を上げたアルメイダは、ロディに顔を見向けて言った。
「ありがとうロディ君。君のギフトは実に優秀なのだな。」
彼は礼を言って書類をまとめると、くるりと後ろを向いて去っていった。
一瞬のことであっけにとられたロディだったが、次第に喜びがこみあげてきた。あまり面識が無かった人から「実に優秀」と言われたことはとても価値がある。
(俺のギフトはやっぱりすごいんだ。きっと将来みんなの役に立てるギフトに成長するはずだ。)
ロディは素晴らしい予感に上機嫌で仕事に戻るのだった。
◇◇◇
「おーい、ロディ。ギルド長が呼んでるぞ。部屋に来いってさ。」
「え、ギルド長が!?」
アルメイダと別れて1時間くらい後の事、ロディは突然ギルド長に呼び出された。
(なんだろ、なんかまずいことしたかな?それともさっきの書類で何かミスでも・・・)
これまでの2年余り冒険者ギルドで仕事をしていて、ギルド長にはもちろん何度も顔を合わせていた。たまに世間話程度に会話することもあった。しかしギルド長室に呼び出されたのは初めてだ。
ロディはギルド長室の前に着くと、不安と緊張の面持ちで部屋の扉をノックする。
「ロディです。お呼びでしょうか」
「入り給え。」
「失礼します。」
ロディが恐る恐る扉を開けると、執務机に座り書類に何か書き込んでいるギルド長が目に入る。
彼の名はユースフ。2年前ロディを目にとめ採用したあの時のギルド長だ。彼は今も変わらずこの街のギルド長をやっている。
彼は書類に何やら書き込んでいる最中だったが、すぐに目を上げロディを視界に入れると、にっこりと笑ってペンを置いた。
「よく来たロディ。その椅子に座りなさい。」
彼はそう言って立ち上がると、部屋の中央にあるソファーに移動して腰を掛ける。
ロディは高級そうなソファに、しかもギルド長と座っていいかと戸惑っていると、
「気にせず座りなさい。遠慮はいらんよ。」
と催促され、ロディはおずおずとユースフの向かいに座った。
ロディの前にテーブルがあり、その向こうにユースフが座っている。もう一人、ユースフの斜め後ろに男が立っている。ユースフと共に仕事をしている秘書のアルメイダだ。
アルメイダとはさっき書類の間違い探しの依頼をされたばかりだった。ロディは、今回呼ばれたのはそれと何か関係があると感じた。
「さてロディ。最近仕事はどうかね。」
ユースフが口を開き、他愛もない普通の質問から会話が始まる。
「はい、忙しいですが充実しています。」
「そうか、充実しているか。それは良かった。ところで、聞けばロディは最近ギフトが使えるようになったそうだね。」
「はい。『修正』のギフトの効果がようやくわかりました。ギルド長があの時採用していただけなかったら今もギフトの事は分からなかったと思います。ありがとうございます。」
ロディは今でもあの時の事を鮮明に思い出せる。前半のいやな思い出ではなく、ギルド長に声をかけてもらって以降の事を。ロディはギルド長に感謝しきれないくらいの恩を感じていた。
「そんなことは無い。ギフトのことは君の努力のたまものだよ。私が何かしなくてもいずれギフトを使えるようになっただろう。」
ユースフはそう言ってロディを見つめなおした。
「ところで君が良ければだが、教えてくれないかね。そのギフトの効果はほかの人には見えないと聞く。君にはどんな風に見えているのかね。」
大恩あるギルド長のお願いに、ロディが断る理由はない。彼は、ギフトが発現した時に間違っている文字の上に正しい”赤い文字”が見えること、意識すればギフトのON/OFFもできるようになったことを実体験を交えて伝えた。
ロディの話を静かに聞いていたギルド長は、つぶやくように言った。
「面白い。実に興味深いギフトだ。とても役に立ちそうなギフトだ。だがそれだけではないような気がするな」
「・・といいますと。」
「根拠は無いが、君のギフトはもっと成長するのではないかと感じる。きっと大きく成長してさらに国中の人の役に立つようになるだろう。」
「そう、ですかね。」
ロディはギルド長の「修正」ギフトに対する評価の高さに驚いた。ロディもギフトがもっと成長すると考えてはいたが、ロディの思う成長の度合いと、ギルド長のそれとは違いがあるように感じた。
「どうしたロディ君、不安そうな顔をして。」
「すみません。ギルド長の期待が高くてうれしいんですけど、本当にギフトがそこまで成長するか自信がなくて。」
ギルド長は少し身を前に乗り出し、不安顔のロディを見つめた。
「君のギフト『修正』は、ほかにだれか持っているかね。」
「え?いえ、これまで記録がないらしく、誰も持っていません。」
「そうだ、誰も持っていない。君しかもっていないんだ。君の「修正」ギフトはレア中のレアギフトなのだよ。」
「え?」
「当然だ。歴史上一人しかもらっていないギフトが、役立たずなギフトのはずはない。きっと大勢に人の役に立つ、そういうギフトだと私は確信しているよ。君は自信を持っていいんだ。」
レア中のレア”というギルド長の言葉に、ロディは目の前にあった霧がが一気に晴れたような気がした。ギフトが発現してその効果がわかっても、ロディにはまだ『これ以上成長しない、大したことないギフトだったらどうしよう』という不安が少なからずあったのだ。
だが、ギルド長の言葉は不安をかき消した。
(そうだ、自分のギフトは今まで誰も持ってないレアギフトだ。自分がギフトを信じなくては。)
この時からロディは彼のギフトを信じることが出来るようになった。
「おっと、まだ君を呼び出した本題に入っていなかったな。」
ユースフはわずかに背を伸ばし、ロディはソファで姿勢を正し、続く言葉を待った。
「君のギフトは書類作りに重宝されていると聞いている。みんなから書類の誤字チェックを頼まれているそうだね。」
「はい。」
「ただ、みんなに頼られすぎてロディ君の本来の業務が回らず忙しくなっているとも聞いている。」
「はい、でもみんなの役に立てればそれでいいと思っています。」
「それはいかんな。」
「え?」
思いがけない言葉にロディは驚いてユースフを見る。ユースフは先ほどとはうって変わってまじめな表情で語り始めた。
「ロディが悪いと言っているわけではない。ロディのそのギフトをただ乗りで利用している他の職員の事だ。書類の間違いチェックはロディの仕事ではない。それをロディにやってもらうということは、ロディだけ人の仕事を押し付けられて、君本来の仕事にしわ寄せがくることになる。実際、最近帰りが遅くなっていないかね。」
「・・はい、その通りです。」
「文書などに書き間違いがあることは仕方が無い。また、それを訂正して正しい文章にすることも必要だろう。けどそれは間違った本人が気づき、反省して、次に生かすようにしないと、人は成長しないのだよ。」
「・・・・」
「『ロディに頼めばいい。ロディなら間違いを見つけてくれるから楽でいい。』それが普通と考えてしまうと、その人は自分のミスを軽視することになりかねない。なので組織としては、ロディは人からのチェック依頼を簡単に受けない方が良いんだ。」
ギルド長の話は正論だった。
そうか、みんなの為にやっていることでも、その人の為にならないこともある。何も考えずむやみやたらにギフトを使っても、いいことばかりじゃないのか。
「ギルド長、すみませんでした。」
ロディは頭を下げた。
「いや、謝る必要はないよ。君のギフトは素晴らしいものだ。その素晴らしさに人が群がってくるのも無理もない。」
ユースフは柔らかく言い、ロディの謝罪を不要とした。
「とはいえ先輩たちの依頼を断るのはロディ君には難しかろう。悪くすると恨みを買ってしまうかもしれん。そこでだ、君のギフトに箔をつけようと考えている。」
「箔、ですか?」
思いがけない言葉に、鸚鵡返しに言葉を返すロディ。
ユースフは一呼吸おいて、聞きなれない言葉を口にした。
「ロディ、君を『文章校正担当』に任命しよう。」
文章校正担当、一体何だろうかとロディは頭をひねった。
「文章校正担当・・聞いたことがないです。」
「当然だ、君のために新設する役職だからな。」
「え?新設・・・僕のために、新設の役職!?」
「そうだ。君のための役職だ」
「えええ!?」
ロディが驚きの声をあげる。ユースフの顔には、サプライズが成功したようないたずらっぽい笑みがわずかに浮かんでいた。
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