第17話 ロディ、妹と団らんする
家に戻ったロディは一目散に妹の部屋に向かった。
「あ、お帰りお兄ちゃん。遅かったね。ごはん温めなおすよ。」
エマは兄の帰宅に気づいて部屋を出てキッチンに向かおうとした。
「ただいま。それどころじゃない、エマ。聞いてくれ。ギフトが使えるようになったんだ。」
「え、ギフト?」
少しの間話が呑み込めなかったエマだが、ようやく理解して、ロディに向けて満面の笑みを浮かべた。
「本当!お兄ちゃん、やったね。ギフトが使えるようになったんだ。嬉しい!」
エマがロディに向けて突進し、ロディはよけきれず抱きつかれる。
「わ、バカやめろ、恥ずかしい。」
しかし喜ぶ妹を無下に振り払うわけにはいかず、ロディは仕方なくされるがままにしていた。
しかし、しばらく抱きついて騒いでいたエマだったが、急におとなしくなったかと思うと、胸にうずめていた顔を上げてロディを睨む。
「・・・女の人のにおいがする。」
(ギクッ!)
「お兄ちゃん、どうして女の人のにおいがするのかな?しかもなんだかすごく匂いが濃いんだけど。まるでくっついてたみたいに。」
(ギクギクッ!)
「これどういうこと?ギフトが使えることが分かったその夜に遅くまで何をしてたのよ?うれしくって、女の子とはっちゃけてたの!?」
「怖い怖い!やめろその顔。やましいことは何もしてないぞ。」
ロディは怒るエマをなだめながら、一連の出来事を必死で説明するのだった。
「そっか。リーセさんか。」
ロディの説明でようやく落ち着いたエマはふうっと一息ついた。
「リーセさんがお兄ちゃんのギフトを見つけてくれたのね。感謝しなくちゃ。」
「そうだな。感謝しなくちゃ。」
「でもよかった。お兄ちゃんがギフトが使えるようになって。これで悔しい思いをしなくて済むよね」
「本当にそうだな。」
ロディはこれまでなかなかギフトが現れなかったため、心無い人からは「クズギフト」「ほんとはギフトもないんじゃないか」など言われ続けていた。
でもこれでギフトのことでとやかく言われることは少なくなるだろう。
(お兄ちゃん、本当によかったね。おめでとう。)
嬉しそうな笑顔の兄を見てエマは心から祝福した。
自分を孤児院から引き取り、2年間一人で頑張ってくれた兄に、エマは感謝しかなかった。
そして今、ギフトの鑑定の儀以来笑顔の中にもどこか陰があった兄が、本当に何の陰りもなく楽しそうな顔を見せている。このことはエマにとってこの上なく嬉しいことだった。
「でもその前に、お兄ちゃんが今一番しなきゃいけないことがあるよ。」
「ほかにもあるのか?」
「それは、晩ごはんを食べることです!」
「・・そうだった、まだ食べてなかった。気付いたら一気に腹ペコになっちゃったよ。」
二人は笑いあってリビングへと向かうのだった。
「それで、お兄ちゃんのギフトってどんな風になるの?」
すでに夕食を食べ終えていたエマは、ロディの食事中に一緒にテーブルに座り、興味津々な様子で尋ねてきた。
「うん、間違った文字があると、そこにぼんやりと赤いしるしが出てくるんだ。」
「赤いしるし?」
「ちょっと説明すると、」
ロディはメモ紙を取り出して、そこに何か書いた。
「この文、わざと間違えた綴りの単語を書いたよ。どう、わかる?」
エマは紙を受け取ると文字を眺め、すぐに顔を上げた。
「うん、分かるよ。ここが間違ってる。」
「そう、その単語だ。で、俺が見ると、その単語の部分だけぼんやり赤くなっているのが見えるんだ。」
「へー、私には見えない。ということは間違いなくお兄ちゃんだけに見えてるってことね。やっぱりギフトが仕事していることで間違いないわ。」
エマが納得したように頷く。
「そのギフト、少し考えただけでもかなり便利よね。書類作業には間違いなく重宝されるわ。やっぱりお兄ちゃんのギフトは使えるレアギフトだったんだ。良かったね、お兄ちゃん。」
「ありがとう、エマ。」
ロディにとっては、やはりエマに「ギフトが有効」と思われたことがとてもうれしかった。
直接的ではないにせよ、エマにもロディのギフトや魔法の事で陰口を言われてつらい思いをしていたかもしれない。
でも今回の事でそれも次第に少なくなっていくだろう。そう思えば、ロディにとってギフトの発現はそれだけもで意味があることだ。
「それに、ギフトは今日使えるようになったばかりでしょ。もっと使っていけば、もっといろんな使い方があるんじゃない?」
「そう。このギフト、まだわかんないことだらけだ。いろいろと調べなきゃな。」
『修正』はこれまでになかったレアギフトだ。そのためそのギフトで何ができるか、どこまでできるか、まったくわからない。そしてそれは自分で調べるしかないのだ。
今回、ギフトを授かってから2年もたってからようやく発現している。ギフトの中では成長させないと効果がわからないものもあって、この「修正」もどうやらその部類らしい。
今回ギフトの効果が現れたのは、おそらくパッシブギフトのように文字を見るたびに無意識に魔力を使ってギフトを成長させてきたからだろうと推定していた。
(ならばこの後どんどん文字や文章を見てどんどんギフトを使い続けて成長させていこう。そうすればさらにギフトは成長し、さらにいろんなことが出来るようになるんじゃないか。いや、きっとできる!)
ロディのギフトにはまだまだ広がりがあるかもしれない。その可能性を考えると、ロディは心が浮き立つのを感じずにはいられなかった。
「これからやることがいっぱいで大変になるぞ。魔法陣の試験もやらなきゃならないし。」
大変だという言葉とは裏腹に、ロディの表情はとても明るかった。
「がんばってね、おにいちゃん。」
「ああ、がんばるよ。」
「ところで、エマのギフトってどんな感じだ?」
自分のギフトの説明がひと段落したところで、ロディは話題を変えてエマのギフトについて聞いた。
エマのギフトは「狩人」。冒険者に、特に斥候などに向いているスキルだ。
「うん、いろいろと使えるし、やってて楽しいよ。」
「うらやましいな。最初から効果があるなんてな。」
「そんなこと言わないの。お兄ちゃんはこれからよ、これから。」
エマのギフト「狩人」は一般的な中でも少し珍しいくらいのギフトで、その効果はすでに知られている。
狩人は、まず武器として弓の適性が高い。そして、索敵や罠設置、罠解除も出来るようになる。また目も良く、遠くの敵を見つけることにも長けている。
「パーティの女の子たちとはうまくやってるか?」
「うん、順調よ。まだ採取クエストくらいしかしてないけどね。」
「危険なクエストは絶対だめだぞ。まだ1年目だからな。」
「もーわかってるって。森の浅いところしか行かないし、他の子たちもまだ危険なクエストはしないって言ってるし。」
エマのパーティは4人構成で、全員同年代の女の子だ。ギルドで紹介され、会って意気投合してパーティを組んだらしい。
「私の役割は護衛ね。他の子が植物を採取している間、危険が無いか索敵で気を配ってるの。このあいだグレーウルフが出てきたけど、私とナスタシアで軽く撃退したわ。あ、ナスタシアって「剣士」の子ね。」
グレーウルフは初心者向けの魔獣だが、その中でもやや難易度は高い。単体ならそれほど困難ではないが、集団になると厄介な敵になる。
「グレーウルフくらいならいいが、集団は気を付けろよ。特にゴブリンなんかは集団でいることが多い。本当に森の奥には行くなよ。」
「しつこいって。行かないから心配しないでよ。」
ロディがこのようにエマを心配して小言を言うのはいつもの事。エマは兄の心配癖にうんざりしながらも、兄が夕食を食べてる間は一緒にいて、会話は途切れることはない。
二人の食卓は、いつものように明るい笑顔と会話で満ちているのだった。
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