第6話 ロディ、調査される

 あのあと、ロディだけ残された別室に連れていかれた。


 別室には神父や魔術師らしきローブを着た老人、学者風の中年など5人の大人がいた。彼らは”魔法陣が消えなかった”ロディを調べるために集まっていたのだ。


 そこでロディはその5人から様々なことを調べられた。

 いくつもの質問に答えることから始まり、魔力の測定、さらに別の魔法陣での確認などが行われた。

 魔法陣は、「水球」「送風」などの簡易な魔法陣から、さらには少し上位の魔法陣についても調べられた。


 しかしいずれの魔法陣もロディの手の中から消えなかった。


 ロディが危惧した通り、彼は魔法を全く覚えることが出来なかった。調査が進むにつれ、ロディの気持ちは暗く沈んだものになっていった。


 おおよその『調査』が終わったあと、大人たちの中で一番年長らしき白髪で長い白髭の人がおもむろにロディに語った。


「どうやら君は、魔力が外に出ていなくて、そのため魔法陣を受け取れないようじゃな。」

「魔力が、出てない?」

「そうじゃ。人間はだれでも魔力があって、体から魔力を出すことも出来るんじゃ。君も体の中に魔力があるのは分かった。しかし君の体からは魔力が出てきていないのじゃ。」


 魔力を測ることが出来る魔術具を特別に用いて体内の魔力量を測定すると、ロディの体内には問題なく魔力は有った。それも通常の人よりかなり多い魔力量らしい。

 しかしロディから放出される魔力が極端に少ないことも同時に分かった。


「魔力があっても、出てこない。だから魔法が覚えられない、ってことですか?。」

「そうじゃ。魔法は魔法陣に魔力を流すことによって覚える。しかし魔力が出て無いと魔法陣が反応しない。これが君が魔法を覚えられない理由じゃろう。」


老人とは別の学者風の人が、老人の言葉を継いで言った。


「このような症状は、例が無いわけではない。古い記録には同じように魔法陣を受け付けず魔法が使えなかった人の記録がある。」


彼の言うことは歴史上の事実ではあったが、ロディが求める言葉ではなかった。


「何とか魔法を覚える方法はないんですか?」


ロディが最も知りたいことを彼らに聞いたが、反応は芳しくなかった。


「それはのう、残念じゃが儂らでは無理じゃ。というより誰もそんな方法は知らんのじゃ。」

「そんな・・・じゃあ、僕はずっと魔法が使えないままってこと?」

「・・・そういうことになるのう。」


老人は申し訳なさそうに言った。


(僕は魔法が使えない。みんなの中で僕だけ使えないなんて・・・。)



ロディは心の中で自分の不運を嘆いた。希少とはいえ、悪いほうの希少。こんなものはいらない。


「まあ普通の人は簡易な生活魔法しか使っていないから、生活していけないことはないだろう。」


別の人が、慰めにもならないようなことを言う。


「それに文献では「魔法」は使えなくても「ギフト」は使えたとある。ならばギフト固有の魔法やスキルは使うことが出来るはずじゃ。そういえば今日鑑定を受けたのじゃろう?何というギフトじゃったかな?」


老人がロディを見て問う。


「僕のもらったギフトは『修正』です。」

「『修正』・・・はて?聞いたことが無いが・・・。」

「鑑定した人も知らないと言ってました。今まで誰ももらったことが無いギフトだと。」

「それは珍しい。ではそのギフトは今使えるかの?」

「・・・いえ、誰も使ったことが無いので、僕もどうやればいいかわからない。」

「なんと・・・そりゃそうか。」


老人は自分の白髪に手を当てて頭を掻いた。


「しかし、ギフトが使えるようになるまで苦労するかもしれんが、使えるようになれば大丈夫じゃろうて。気を落とさずにな、少年よ。」


 その言葉で、ロディの検査は終わった。

結局、ロディは魔法が使えないということが分かっただけ。


 魔法は使えない、ギフトは良いか悪いかもわからない。そもそもギフトを使う方法も知らない。そんな状況で気落ちしないことなどロディにはできない。ロディの気分は最悪だった。


「僕、これからどうなるんだろう。」


 ロディの心の不安は、心だけに留めておけずに自然に言葉となって外に漏れていた。しかし、その問いに答える者は誰もいなかった。




 ロディにとって時間の無駄になった調査も終わり、彼はとぼとぼと教会を出る。


 教会の正面の石畳の広場には大勢の人だかりがあった。

 今日鑑定を終えたばかりの子供たちを取り囲むようにして多くの大人たちがいて、そして何やら叫んでいる。


「『商人』はいないか?ルーベル商会のものだが、最初は見習いとして商売の勉強をさせてやるぞ。」

「お前、『大剣士』じゃないか?もしそうならば我が騎士団にスカウトしよう。」

「私は三番通りの『海空食堂』で仕事しているんだけど、『料理』のギフトを持った子が欲しいのよ。誰か知らない?」


 12歳でギフトを授かった子供を目当てにしたいわゆる「スカウト」の人たちが、出てきた子供に我先にと群がって声をかけているのである。スカウトは少しでも仕事に有利なギフトを持つ子供を雇おうと躍起になっている。これも鑑定の儀の日特有の光景だった。


 本来ならロディも他の子供達と一緒にここに居て、スカウトから勧誘を受ける予定だったのだが、いろいろなアクシデントや調査に時間を取られて、出だしから遅れてしまったのだった。これは良い仕事を探したいロディにとって最悪といえる状態だった。


(全く、何のもならない調査のために仕事に就けなかったらどうしてくれるんだよ。)


 ロディは心の中で悪態をついたが、表面には出さず、今からでもできることをやろうとして周囲を見回した。

 どうやらすでに大半の子供はすでに仕事が決まっているようで、残っている子供はかなり減っていた。それでもまだ結構な和のスカウトが残っているようだ。


「あ、君!君はどんなギフトを授かったのかい?」


 遅れて出てきたロディを目ざとく見つけた一人の男の声に、他の皆が一斉に振り向く。

 その視線にさらされたロディはおびえたように立ちすくんだ。ギフトは正体不明で、しかも魔法は使えない、こんな子供を雇ってくれるひとがいるのか?そう思うと、、いっそこのまま駆け出して逃げたい衝動にかられた。

 けれどロディはどうしても職を得たい。出来るだけ給料の良い有利なところで働きたい。ロディにはそうしなければならない理由があった。ロディは自分を奮い立たせ、みんなの前で声をあげた。


「僕は『修正』というギフトをもらいました。」

「『修正』!?・・・聞いたことが無いが、どういうギフトだね?」


 ギフト名を聞いたものはみな、同じように首をかしげている。その姿は今日ロディが何度も目にしてきた光景だった。


「よくわからないけど、何かを「修正」することが出来るはず。神父さんがレアギフトだって言っていました。」


 ロディは自分とスカウトの不安を打ち消すように、はっきりとした声で答えた。


「おお、レアギフト!レアギフトか・・・ふむっ。」

「修正って、何か修正することができるのか?使えるか、使えないか・・・」


 レアギフトと聞いて大人たちは一瞬色めき立ったが、そのレアギフトは一体どういうものなの不明の為、仕事に有効かどうか判断できず躊躇していた。


「レアだがよくわからんギフトか・・・。どうするかな。」

「僕、働きたいんだ。雇ってもらえたら一生懸命働くよ。だから誰か僕を雇ってくください。」


 ロディはここぞとばかりに力説した。ギフトがどうであれ、やる気を見せなければスカウトも興味を示さない。


「ふむ、意気込みはありそうだな。」


 ロディの必死のアピールが大人たちの気持ちを動かし、幾人かが興味ある面持ちでロディを見つめていた。

 これなら仕事に就くことが出来る。そうロディは手ごたえを感じた。


 しかし、ロディが必死になって作ったその場の雰囲気を打ち破る者がいた。

その者の声は、ロディに対して悪意や嘲笑を含んでいた。


「そいつは魔法が使えないんだ。やめた方がいいんじゃないか。」

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