第4話 ロディ、どうしたらいいかわからない

(・・・『修正』・・僕のギフトは『修正』っていうのか)


そう告げられたロディは、しかしそのギフトが何なのかを理解できずに戸惑った。


「神父さん、『修正』ってどんなギフト?何ができるの?」


 ロディの質問は至極当然だった。聞いたことが無いギフトに、どのようなことが出来るのかと問うロディ。やや戸惑う様子の神父は、しばらくしておもむろに口を開いた。


「そのギフトの効果は・・分かりません。」

「え!?分からないって・・?」


 まさか神父の口から「わからない」という言葉が出て来るとは思いもよらず、ロディは驚いて目を大きく開いて神父を見つめた。神父は厳めしい表情をさらにこわばらせて口を開いた。


「『修正』というギフトは、見たことがありません。これまで過去に発現されたギフトは王国全土の教会で記録されていて、私は事前にその記録を見ています。なので希少なギフトを含めて、過去に発現したギフトは分かるはずですが・・・。残念ながら『修正』というギフトはその中にはありませんでした。」


ロディは神父の説明に驚いた。国の記録に無いギフトらしい。


「つまりそれは・・・。」

「国中であなただけの唯一のギフト。レアギフトと言っていいでしょう。」


 神父にレアギフトと言われたロディは天にも昇る気持ちだった。自分だけの唯一のレアギフト。ならそのギフトを使ってすごいことが出来るんじゃないか。有名人や大金持ちになれるかも。


「じゃあ、特別なギフトなの?なにかすごいことができますか?」


 ロディは喜びながら神父に聞いた。しかし、神父はロディの興奮とは正反対に、冷静に言った。


「残念ですが分かりません。これまで誰ももらったことが無いギフトですから、当然そのギフトの詳細は誰も知りません。」

「え?」


 特別なギフトと聞いて膨らんでいたロディの希望が、急激にしぼんでいく。神父の反応からは「いいギフト」を得たとはとても思えなかったからだ。


「じゃあ・・・じゃあ、どうすればギフトがつかえますか?」

「分かりません。自分で探していくしかありません。」


神父は目をつぶって首を振り、今日何度目かの言葉を口にするだけだった。


「そんな・・・」

「私にはこれ以上の話は出来ません。さあ次の者、こちらに来なさい。」


神父は無情にもロディとの会話を打ち切り、儀式を進めようとした。


「でも神父さん、・・」


 ロディは必死に食い下がろうとしたが、神父はロディの言葉には答えずに後ろの少年に声をかける。


「次の者、こちらに来なさい。」


 神父としては、ロディ一人に時間を取られるわけには行けない。子供たちはまだたくさんいるのだ。ロディの質問は強制的に終わらされ、ロディは待ちわびていた次の子供に押しのけられ、仕方なく鑑定が済んだ子供たちの所に移動するしかなかった。


 ロディは呆然と子供達の横を通っていく。

 彼への子供たちの視線は複雑だった。「修正」はレアギフトであるものの、その効果は全く分からず、もしかしたら役立たないギフトかもしれない。子供たちはどう反応していいかわからず、小さな声で話したり気の毒そうな視線を向けたりしていた。


 当のロディは、ギフトの正体さえわからないことにただ混乱したまま、鑑定の儀を眺めながら考えていた。

 「鑑定の儀」は、『将来の職業を選定するイベント』としての側面を持つ。それぞれのギフトが判明し、それぞれに適した職業もおのずとわかるからだ。なので、ロディに限らず他の子供も大部分はロディと同様に、ギフトを得たらすぐに職を探してそれにふさわしい仕事に就こうとする。これはこの国では普通の話だ。

 子供たちの中には「親の仕事を継ぎたい」という者も少なからずいる。その子たちはギフトがどうであれ親と同じ仕事をしていく。


 しかしロディは孤児のため、当然「親の仕事」などというものはない。なのでロディは鑑定の儀で授かったギフトを”元手”にして仕事を得るしかないのだ。


 「剣士」だったなら冒険者が適しているかもしれない。あるいは「商人」「農業」「船員」でもいい、そのギフトを有効に使える仕事に就く予定だった。

 けれど判明したロディのギフト「修正」はその能力が一切不明で、何の仕事で効果を発揮するか分からなかった。


 ギフト名『修正』なので何らかの「間違いを正す」効果があるのではと思うが、「何に対し」「どのように」効果があるのか全く未知。まずはそれを見つけ出さねばならないのだが、何から手を付けるべきかわからず、まるで深い霧の中を歩くように感じる。


(これからどうしよう。ギフトはどうしたら使える?どんな仕事がギフトを活かせる?・・・わからない。)


 ロディは考えれば考えるほどゴールにたどり着けない迷路にはまっていくような感覚に陥るのだった。

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