第3話 ロディ、ギフトを授かる

 この世界では、全員が何らかのギフトを授かる。


 ギフトとは、いわばその人の生まれ持った固有の特技、と言えるだろうか。

 よくあるギフトとしては「剣士」「農業」「商人」などがある。

「剣士」は、体を使うことが得意で特に剣の扱いが優れていることから、このギフトを得たものは国の兵士やあるいは冒険者になるものが多い。

「農業」はもちろん農作物を育てることを得意とするギフトで、生命の根幹である食料を作成するうえで重要だ。


「商人」は商売や計算に長けており、経済の発展に寄与できる職業である。

他にも「体術士」「建築士」「鉱物士」などがよくあらわれるギフトだ。

また、授かる人は少ないがギフトとして非常に能力が高い、いわゆるレアギフトといわれるものもあり、例えば「鑑定士」「錬金士」「剣豪」など、聞くからに凄そうなギフトもある。

さらには『魔法師』というギフトもあり、これは一般に魔力が高い人が就く傾向がみられる。


 そう、この世界には”魔法”がある。この”魔法”についてはあとで述べる。


 12歳となった子供は、暦の上で春の1日目にギフトを得る。なぜギフトを得ることが出来るのか、なぜ12歳の時なのか、それは誰にもわかっていない。ただ『12歳で全員ギフトを授かる』ということが分かっているだけだ。

 不思議なことにギフトは12歳以前では誰も現れす、鑑定をしても『ギフト無し』としか出てこない。そして12歳になると現れるのだ。


 そのため春の1日に各地の教会で一斉に鑑定の儀が行われることが慣例行事となっており、そこで子供たちは今後の一生を左右する自分のギフトを知るのである。この鑑定の儀は、貴族だとか市民だとかの身分は全く関係なく、すべての12歳児が一堂に集められてギフトを調べることになっている。


 12歳になるロディも、ギフトを得るために当然鑑定の儀に参加する。

 ロディは身長、体形とも平均的、茶色い髪と黒い瞳の少年だ。顔だちは整っていて、成長すれば確実に”イケメン”と呼ばれるだろう。もうすでに一部の女の子たちから注目を集めているのだが、本人はそういうことに無頓着で全く気付いていない。

 ロディは教会に向かって街を歩きながら周りを見渡して、少し気落ちしたようにつぶやく。


「みんないい服着てるな。」

 

 教会に向かう子供たちの多くは、一生に一度の儀式ということもあって普段よりも着飾っているのが分かる。しかしロディはそんな一張羅のような服は持っているはずもなく、普段着と思しきくたびれた服で参加していた。ロディは服装の違いに気後れしながらも、彼らと一緒に教会に向かっていった。


 ここメルクーの町の教会は通常の住宅の10軒分くらいの広さがあり、領主館を除けばこの町で最も大きな建物だ。中央には時計塔もあるため、街中のどこからでも見えるのが特徴だ。


 その教会の一室に子供たちが集められている。この街の12歳の子供は全部で100人くらい。その全員が入れるくらいの広さがある部屋だ。

 部屋の正面には子供の胸くらいの高さの台が置かれ、その上には厚みのない黒塗りの箱のようなものが置かれている。これがギフト鑑定を行うための「魔道具」なのだろう。

 その台と魔道具の奥には一人の神父が立っている。60歳くらいの、厳めしい顔をした人だ。子供たちはその神父と台に向かう列を作っていた。


 鑑定の儀が始まった。

 神父は一人ずつに話しかけ、そして子供たちは魔道具に手を当てている。


「君のギフトは『剣士』です。」

「やった!剣士だ。」


「君のギフトは『農業』です。」

「え・・・『農業』・・・。」


「あなたのギフトは『裁縫』です。」

「裁縫!私得意なのよ。」


 子供達は順々に神父の前に進んで魔道具に手を置き、そして神父は次々に鑑定結果を教える。そこ鑑定結果を聞いて、子供たちは”いいギフトをもらった”と喜んだり、”欲しかったギフトじゃない”と落ち込んだり、悲喜こもごもだ。


 ロディはそれを見ながら、自分にどんなギフトが授かるか楽しみにしていた。


「どんなギフトがもらえるだろう。冒険者になれるようなギフトがいいな。剣士とか、魔法師なんてもらえたらすごくうれしい。」


 実はロディには冒険者になりたいという願望があった。男の子たちは多かれ少なかれ冒険にあこがれるものだが、彼の場合はその思いが強く、将来冒険者で生計を立てたいと希望していた。しかし、彼は首を振ってその思いをすぐに封印しようとした。


「・・・おっといけない。すぐに仕事に就いて稼げるようなギフトをもらう方がいいんだった。」


 ロディはとにかく仕事に就いてお金を稼ぎたいという想いも持っていた。冒険者では収入は不安定で、安定して稼げるには成長せねばならず、当然時間が必要だ。それを嫌い、まずは普通の仕事でもいいから安定してお金を稼ごうと考えていた。


 鑑定の儀は進み、やがてロディの順番になった。彼は神父の前に進み出る。


「ではここに手のひらを置きなさい。」


 ロディは、神父の目の前にある、真っ黒で四角くまるで分厚い本のような魔道具を見た。その表面には、円の中に様々な模様ある不思議な図が描かれてた。

 ロディは言われた通りにその黒い魔道具に手を触れた。すると、手の周りがぼうっと淡い光を放ち、そして黒塗りの表面に文字を浮かび上がらせる。


(すごい、こんな風になるんだ。この文字が「ギフト」名なんだろう)


 ロディは初めて見る魔道具の不思議な光景に驚きながら、神父が自分のギフト名を告げるのを待った。

 しかしロディのギフト名はなかなか告げられなかった。

 魔道具に浮かび上がった文字を見た神父は少し目を見張り、しばらく言葉を発しなかった。何か驚いたような顔を箱に近づけてさらに文字を見つめる。


(?なんだろう、他の子にはそんなことしなかったのに?)


 やがて顔を上げた神父は、ロディを見つめた。まだ口を開かず、何事か考えこんでいるように顔をこわばらせている。

 さらに少しの時間が過ぎ、ロディが不安になってどうしたのかと訪ねようとしたときに、ようやく神父はおもむろに口を開いてロディのギフト名を言葉にした。

 そのギフト名は、ロディがまったく聞いたことが無い名前だった。


「君の授かったギフトは、『修正』です。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る