第10話 オレンジ電車乗車

「はぁ~っ!疲れた~。」


男性は地面にお尻をぺたんとついた。


「兄ちゃん、やるじゃん!初めての昔話解析としては、いい結果だよ!?」


モトクマが拳を天に上げたり下げたりしながら、男性を褒めた。


「特に、物語が通常とは違う流れになった時の対応はさすがだね!普通は一回、仮想空間から電車に戻って、話をリセットしてから再開するのに。」


「え?待って。リセットする方法あったの??」


男性の声色が、一段階低くなる。


「てことは、わざわざ馬集めしなくても良かったって事?あんなに頑張ったのに?」


「まあ、そうかもだけど…。」


腕を組んで考えるモトクマの横で、男性はショックのため横方向に崩れていた。

目は白目を向いている。


「あわわ!で、でもね。聞いて兄ちゃん。結果的にいい判断だったよ!」


ほんと?とたずねる男性の目は、まだ白目のままだ。


「まず第一にね、あのトラブルが無ければ飼い主と話す機会もそんなに無かったんだよ。」


「そうだったのか?じゃあリセットしたら、マタギであるという個人情報も聞けなかったかもしれないのか。」


「そう!まさにそれなんだよ。」


モトクマは指をパチンと鳴らして、男性に指をさした。


「その、飼い主がマタギ設定ってのを聞けたのは、兄ちゃんのファインプレイなポイントその2だよ。」


男性は黒目を取り戻した。

モトクマが手でVサインを作り、前に突き出しているのが見える。


「まあね、たまたまマタギの忍耐力と生命力の話になったから、今までとは違う報告書が書けたんだと思う、多分。ボートソリ大変だったけど、やってよかったな。」


「それ!そのボートソリが、兄ちゃんファインプレイポイントその3だよ!」


「あー体力的にきつかったなー。熊の筋肉が無いと無理だったかも。」


それを聞いたモトクマは手を横に振って、違う違うとジェスチャーをする。


「いや、体力もすごいけど、もっとすごいのは馬に手綱を付けれた事だよ!」


男性は馬に手綱がついた時の事を思い出してみた。

確かあの時は、二人ともつけ方が分からず途方に暮れていたら、不思議な力で勝手に装着されていたはず。

男性は笑いながらモトクマに尋ねた。


「いや、あれはモトクマが魔法か何かを使ったんだろ?仮想空間だから、そういうのはできるんじゃないの?」


男性の言葉に、モトクマは先程以上の速度で手を横に振った。


「いやいや、駒爪石は魔法使える系の昔話じゃないから出来ないんだよ!それでも出来たのは、兄ちゃんが“生きている人間”要素をまだ持っているからだと思うんだ。」


「え?どゆこと?」


「昔話ってのは特殊で、生きている人間達の伝言ゲームで出来上がっているんだ。どんどん設定が付け加えられたり、逆に省かれたりしていく、過去から現在までの人間達の合作なんだよ。だから、あの時半分生きてる兄ちゃんが“手綱を付けた馬”を想像したから、その設定が追加されたんだ。」


「おぉ、俺生きてて良かったぁ…。半分だけど。」


「でもまだ生きてる。今回の手綱設定は世の中に浸透しないから多分話としては残らないけど、頑張って書いた報告書は誰かに届くかもしれないよ!?」


若干落ち込む男性を見て、モトクマは真剣に励ました。


「お、おう。そうだな!とりあえず、1個目はクリアだ!この調子でどんどん行くぞー。」


「おーー!」


張り切る大声に驚き、ホームにいる数匹が二人を見た。


「ねーコイジイさん。あの二人変だよー?」


コイジイに隠れて様子を伺う子ダヌキが、ホームにいる全員の気持ちを代弁する。


「ホッホッホ。そうじゃのう。皆んな、大目に見てやってくれ。」


大ベテランのコイジイがそう言うならと、ホームの動物達のざわつきは徐々に収まっていく。

モトクマはコイジイに向かって、ありがとうと小声で言い、手を合わせた。



そんなこんなをしているうちに数分が過ぎ、いつの間にか次の電車がホームに近づいて来た。

前回は赤色だったが、今回の車両はオレンジ色だ。

モデルとなっている人間界の電車と同じ、カラフルでかわいい一両電車である。


「あ、おかあさんバスきた!」

「電車よポン太。」


狸の親子に続いて、男性とモトクマは本日二つ目の電車に乗り込んだ。

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