4
「昨日ぶりの別世界だな。全員助けないとな」
「ああ。今日こそあの怪物に正義を下し、全員を助ける」
昨日、逃げることしか出来なかった俺達。今日こそ、この神隠しを終わらせるために、東京駅へと飛んできた。
「真珠を怖がらせた報いを受けさせてやる」
「うん、うん。私、怖かったんだから!」
「分かってるよ、真珠。大丈夫、今日はお姉ちゃんもついてるから」
「うん!」
………
……
…
「………なんで、真珠がここにいるの?」
全員の視線が真珠さんへと向けられる。
「えっ、ああ、なんでだろう?」
本人にも理解が出来ていないらしい。
「どういうつもりだ、シンパン」
今日はシンパンを含めた4人で、怪物を倒すはず。なのに、何故被害に遭った真珠を連れてきたのか。
それと、シンパンの別世界への飛びは、距離関係なく出来ることなのか、を聞き出すために声をかけるが、
「………なんで、ここに?」
そう呟く、シンパン本人には困惑の色が見えた。
「なんで、真珠ちゃんを連れてきたんだよ!」
京介がシンパンに掴みかかろうとするも、その手は空を切る。
そして、シンパンは京介の言葉に対して否定した。
「僕に触れていない人間を連れてくることは、今の僕には出来ない。これは僕の仕業じゃあないんだよ」
「じゃあ、なんでここに妹がいるのよ!」
「………僕の仕業ではないんだよ」
シンパンは誰にも目を合わせることなく言い放つ。
まるで、何かを隠すかのように。
「そもそも、真珠さんを連れてくるメリットがない以上、連れて来はしない。逆にデメリットでしかないんだから連れてくるものか」
確かにシンパンの言う通りだ。彼女を連れてくるメリットを考えるも、何も思い浮かばない。デメリットの方は思いつくが。
「じゃあ、誰が連れてこれるんだよ⁉︎」
京介は声を荒げながら、眉間に皺を寄せる。
いつもの京介なら、笑いながら「真珠ちゃんを帰してあげること出来る?」なんて言いそうなのに、今日は珍しく怒っている。
「………知らない」
またしても、目を逸らしながら答えた。
「京介。真珠さんには悪いが、シンパンの言い分は筋が通っている。連れてきたのは、シンパンじゃないと思う」
「慎二」
「でも、シンパンは何か隠してることがある、だろ? 誰が真珠さんを連れてこれるのか、教えてくれ」
俺の問いに対して、シンパンは気まずそうにし、地面を見つめる。
シンパンの態度から誰が連れてこれるのか、検討はついた。
「お前が話さないのなら俺が」
話すぞ、と伝える。
流石に諦めがついたのか、ため息を吐き、素直に答える。
「『世界』だよ。僕以外に人を連れて来れるのは」
「なっ! じゃあ、連れてきたのは『世界』な」
「それも違う………と思う」
京介の言葉を遮るように、シンパンは自分の考えを全員に聞かせる。
「『世界』は確かに人を飛ばせる。いや、飛ばせたと言った方が正確なんだ。今の『世界』は動くことも出来ないくらい弱っている。それこそ人を飛ばした暁には、『世界』は死んでしまうぐらいにね」
シンパンは『世界』と親しい仲なのだろう。とても悲痛な表情を浮かべ、説明を続けた。
「協力者である君達に力を与えることすら危険なのに、『世界』はそれを承知で与えている。協力が必要なのに、断られるようなことをすると思うかい?」
シンパンの言っていることが正しいのなら、確かにそんなことをするメリットは無い。
「じゃあ、誰が真珠を連れて来たの?」
自分に触れていない人を飛ばすことが出来ないシンパンは、除外。
力を与えることすら危険なほど弱っている『世界』も、一応除外。
じゃあ、誰が。
「僕の予想だけど、もう1人候補がいる。真珠さんに接点があって、この東京駅にも接点がある。僕達の存在にも気づいている奴が」
「………アイツ、か」
東京駅の地下に潜んで、ニタニタと笑っている怪物。
「神隠しだって、いわば表世界の人を別世界へと飛ばすようなものだと思う。今回、僕らの飛んだ位置に、真珠さんを飛ばしたのは」
「守れるものなら守ってみろ、ってことか」
挑発にしては、いい挑発。
「買ってやるよ、その挑発」
予定より1人増えたが、それでも目的は変わらない。
「後悔するなよ」
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