3

「今日はこれくらいで許してやるから、もう抜け出したりするなよ」


「「はい」」


 何故抜け出したのかという質問に、詰まってしまった京介は「学食のメニューは食べ飽きたのでファミレスに行ってました」と馬鹿な回答をしてしまった。


 もっとマシな嘘は無かったのか?


 ………まあ、もう終わったことだからいいんだが。


 その後教室に戻り、6限目の授業を受け、帰りのホームルームにもちゃんと参加する。

 

 後は帰るだけなのだが、


「じゃあ、行きますか」


「ああ」


 今日は違う。


 下校時間になるとマスコミ関係の人達は、校門前から居なくなり、生徒達は呼び止められることなく帰ることができる。


 マスコミ関係に時間は取られたく無かったから好都合。


 校門を出て東京駅に向かおうとした時、


「失礼致します。慎二様と京介様でお間違い無いでしょうか?」


 スーツ姿の若い女性が話しかけてきた。


 マスコミ関係の人か?


 その割にはカッチリとした服装だな。今朝のマスコミの人達とは服装が全然違う。


「違います!」


 京介は否定し去ろうとするが、


「あんたは誰だ? マスコミとは違う様な気がするが」


 俺はこの女性がマスコミとは思えず、正体を訊く。


「はい、マスコミではありません。美妃様の使いで御座います」


 美妃先輩の使い、それなら納得がいく。


 背筋を伸ばし洗礼された立ち姿に、どこにも皺のないスーツ。口調も丁寧で、西園寺家の使いだと言われれば納得がいく。


「ご用件は?」


 美妃先輩の使いという事は、昨日の出来事についてだろう。


「美妃様から言伝を預かっております。『昨日の空き教室で待っているので来てください』との事です」


 どうやら付いてくる気満々の様だ。


「分かりました」


 本当はこの言伝を無視して、使いの人の横を通り過ぎたいのだが、そうはさせてくれないだろう。


 目元は笑っているが、目は笑っていない。


 俺と京介を怪しんでいる様だ。


 踵を返し、学校の中へと戻る。


「なあ、先輩を本当に連れて行く気か? あんな危ないところに」


「仕方ないだろう。俺達には連れて行くしか選択肢なんだから」


「表門はダメでも裏門なら行けるんじゃないか?」


 京介も表門から行く事は無理なのは感じ取っていた様だ。


「表門が無理なら裏門も無理だろう。先輩の使いが1人とは限らないだろうし、多分使いの同僚が張ってる」


「マジか⁉︎」


 俺と京介は靴から上履きに履き替え、昨日の空き教室ヘと向かう。


「先輩はさ、行き先とか伝えてると思うか?」


 行き先か。


「ないな。嘘をついているか、黙っているかのどっちかだろいな」


「だよな。連れて行って、もしもの事があったら俺達どうなるんかな?」


「社会的に終わるんじゃないか?」


「………マジかよ」


「冗談だよ」


 内心、半分は冗談とは思っていないが黙っておこう。


 昨日の空き教室に着くと、先輩が待っていた。


「どうも」


「ちゃんと来てくれたんだ」


 待っている間に読んでいた本を閉じ、立ち上がる。


「ここに来ないと、何処にも行けそうに無かったんで」


「走れば行けたんじゃない?」


 やはり裏門にも人がいた様だ。


「西園寺先輩、本当についてくるんですか? 妹さんの側にいた方がいいんじゃないんすか?」


 京介もついてくることを嫌がっている。


 先輩にもしもの事があれば、と考えた結果なのだろう。


 俺も京介と同じ意見ではある。


 それでも先輩は、


「嫌よ。私もついて行く」


 俺達を睨んでそう告げた。


「私は足手まといかもしれない。化け物を見たとき腰を抜かすほど、怖かった。恐ろしかった。家に帰ったときだってアイツを思い出すと震えが止まらなかった」


 自身の腕を抱きしめて、自分が感じた恐怖を語る。


「………なら、なおさら行くべきでは」


「でもね、アイツは私の妹に手を出したの」


 美妃先輩の腕が震えていた。


 声にも力が入っており、恐れているというよりかは、


「そんな奴、許せるわけないじゃない!」


 怪物に対して憤怒を感じる。


「私の真珠に手を出したアイツがどんな姿で、どんな死に方をするのか、どんな風に消えて行くのか、自分の目で確かめないと、この怒りは治らないの。だから、私を連れて行きなさい」


 もし、ここで「無理です」と伝えたら、その怒りの矛先はどこに向けられるのだろう。


 なんて考えるが、今の美妃先輩に冷静な判断が出来るとは思えない。


 意見を求め、京介の方を向くと、


「先輩ってもしかしてシスコンなのか? もしそうなら重度のシスコンだよな。真珠ちゃんに彼氏とかできたら、彼氏死ぬんじゃないか?」


 ………こいつに意見を求めようとした俺が馬鹿だった。


『真珠』『彼氏』の言葉に美妃先輩が反応しているぞ、京介。


 それ以上喋ると、お前から死ぬんじゃないか?


 再び美妃先輩へと視線を戻すと、目から憎悪が見て取れる。


「そんな状態で、冷静な判断と行動が取れるとは思えません」


「っ!」


 自身でも分かっているのだろう。今の自分は冷静じゃあないってことに。


 だから、俺は美妃先輩の願いに対して拒否をしようと、


「いいんじゃね、ついて来ても?」


 するが、京介が彼女の願いに許可を出した。


「誰だって家族が危険な目に遭えば冷静な判断は出来ないだろう? それに俺もお前もついてるし、なんとかなるんじゃない?」


 ニッシシ、と笑う京介に言葉が出てこない。


 なんでコイツはそう簡単に許可を出すのか。


 もし、先輩に何かあったら責任取れるのか? 


 もしかしたら、殺される可能性だってあるじゃないか!


 それなのに、コイツは!


「慎二、お前は考えすぎなんだよ。考える事は悪いことじゃあないけどさ、度が過ぎると空回りして動けなくなるぞ。安心しろよ、俺がいるんだからさ」


「…………………はあ。能天気に諭されるとは。確かに考えすぎていたかもしれない」


 別に、美妃先輩と一緒にアイツと戦うわけではないし、俺1人で戦いに行くわけでもない。


 京介がいるし、シンパンだっているわけだし。


「分かりました。その代わり、全て自己責任になりますよ? 怪我しようが、最悪アイツに殺されようが」


「そんな事、分かっているわ。それでもついて行きたいの」


 意志が強い。


 そんな人にどうこう言ったって無駄なのは分かっている。


「じゃあ、行きましょう。次の被害者が出る前に」


 俺達3は、その足で東京駅に向かい、シンパンと合流する。


「あれ、慎二君と京介だけじゃあないんだ。西園寺美妃さんまでいるなんてね。どういう心境なんだい、慎二君?」


 足手まといを連れてきて何の意味があるんだい、って言っているんだろうな。


「心配しなくていい。それより早く行こう」


「はいはい。じゃあ、行きますか。怪物を倒しにね」


 シンパンの手を握り、昨日と同様に、別世界の東京駅へと向かう。


 

 



 




 

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