東京駅編〜正義と正義〜

 俺たちが別世界から現実世界へ帰ってくると、シンパンは欠伸をしながら忠告してくる。


「いいかい? 真珠さんはこの後、警察やらマスコミやらに囲まれると思うけど「何も覚えていない」「いつの間にか東京駅の外に居た」って言うんだよ」


 忠告はそれだけでない様で、


「「別世界に居ました」なんて言ったところで信じてもらえないだろうし、そもそも別世界があること自体喋らないでね。家族や友人にも」


 別世界については誰にも知られたくない様子。


 真珠さんも美妃先輩も無言で頷くが、俺と京介だけ少し疑問が残る。


「でもさ、俺たちが黙っていたところで、これから助ける人たちが喋ったらおしまいじゃない?」


「京介の言う通り、助かった人達が話す可能性はあるんじゃないのか?」


 確かに京介の言う通り、これから助ける人たちが喋ったら、真珠さんがこれから吐く嘘がバレてしまう可能性が出てくる。


 それに対して、シンパンの答えは、


「ああ、それは大丈夫。どうせこれから助かる人達、記憶が無くなるはずだから」


「………記憶がなくなるってどういう」


「うん、ああ………教えておくか」


 シンパン曰く。


 別世界の東京駅は、あの怪物が創り出した空間らしい。創り出した空間は、創造者が存在する限り、壊すことも消滅させることも出来ない。


 逆に、あの怪物を倒せさえすれば、空間は消滅する。


「じゃあ、あの空間に、怪物に囚われている人達はどうなるのか。それは、は全て消える。つまり、部分的な記憶喪失みたいになる」


 だから、


「だから、俺達みたいな記憶がある奴が話さない限り、別世界は認知されないってことか」


「そういうこと」


 なら、疑問点がもう1つ浮かんでくる。


 俺達の記憶はどうなるのか。あの空間が消滅したら、俺達の記憶も


「君達の記憶は無くならないよ、慎二君」


「………心を読まないでくれ」


「顔に出てたから。まあ、慎二君の疑問ももっともだね。君達の記憶に関しては、消えない。何故なら、あの空間に自分の意思で出入りしているからね。ああ、真珠さんも同じく消えないよ」


 どういう原理かは知らないけどね、と最後に続けた。


「もうそろそろ、僕は行くよ」


 そう言い、シンパンは目の前から消えた。


 聞きたいことはまだあったのだが、消えてしまっては何も聞けない。


 シンパンがいた場所を見つめる俺と京介。その後ろで、美妃先輩が小さく「うそ」と呟く。


「どうかしましたか、美妃先輩?」


 振り返ると、真珠さんも驚いた顔をしてスマホを覗いている。


 2人の後ろから、俺達もスマホを覗くと、


「「マジかよ」」


 俺達があの空間に行ってから、まだ30分も経っていない。


 あの空間には、2時間ぐらいいたはずなのだが。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る