7
なんで、という疑問が1番最初に頭の中をよぎった。
あの少年はこの別世界への案内係という役目の人物だと思っていた。だから、俺たちを残して帰ったのだと。
しかし、少年は先輩と手を繋いでこの別世界の東京駅へと来ている。
それに、
「お姉ちゃん!」
先輩は少年を認識し、接触している。
先輩はあの少年が見えているということは、少年の言葉を借りるなら先輩も『世界に選ばれた』ということ。
「
「僕の話聞いてなかったの? 救出しに2人ほど行ったからって言ったじゃん」
触れて、触れられる。なら何故、少年はああ言ったのか。
少年を引っ張り、妹さんに近づいていく先輩。
足の怪我もあり、降ろすことはできないが、それでも泣きながら抱きしめている。
そんな感動的な場面で悪いが、
「シンパン、先輩に記憶を見せてないって言っていたな。何故見せていない」
この疑問は解消しなくてはならない気がする。
「ああ、それは君達2人とは違うんだよ。彼女は」
「ん? どういう意味だよ」
俺とシンパンの会話聞いていた京介が介入してくる。
「どういう意味か、か。慎二君、答え合わせしようよ。君ならもう理解しているんじゃないの?」
全員の視線が俺に向けられる。
京介は意味を知りたく。
シンパンは俺を試すかのように。
先輩は自分のことだから。
真珠さんは不思議な表情で。
「先輩は世界にまだ選ばれていないからか」
「うん、50点ぐらいかな」
そう言うとシンパンは答え合わせをする。
「慎二君が言ったように、先輩こと西園寺美妃さんはまだ世界に選ばれてはいない。しかし、世界は認めてはいるんだよ、彼女のことを」
「どういう意味だ?」
「いわば候補生ということかな? 資質は問題無いが、足りないんだよ、彼女には」
「何が足りないのよ!」
「手を強く握らないで、痛いよ」
足りないという言葉に対して何かを思ったのか、シンパンの手を強く握ったらしい。
手の力を緩めると、再度説明し出す。
「京介と慎二君には言ったが、君達には純粋な欲望がある。しかし、彼女には純粋な欲望がない。それさえ有れば、候補生から昇格し、世界に選ばれる。ただそれだけ」
俺だけ呼び捨て、と京介が呟くが、それはどうでもいい。
純粋な欲望とはどういう意味なのか、それが何なのかを知りたい。
俺の気持ちを代弁するかのように、美妃先輩は問う。
「純粋な欲望って何よ?」
その問いにシンパンは、
「さあ? 神のみぞ知るっていう奴だね。知っているのは世界のみだ。僕は知らない」
キッパリと答えるシンパンに、この質問を再度しても意味がないの事は分かった。
他にも質問したい事はあるが、その前にしなくてはならないことがある。
「先輩は知らないので言いますが、ここには怪物はいます。その怪物が戻ってくる前に逃げましょう」
「怪物?」
「そ、そうだよ! お姉ちゃん早く逃げよう!」
意味が分からないが、真珠さんの震える声に従い、来た道から逃げようと動き出す。
全員が動き出そうとする中、1人だけ動こうとしない人物がいた。
「何してるの、シンパンだっけ? ほら行くよ」
美妃先輩はシンパンの手を引くが、シンパンは動こうとしない。動こうとしないどころか、
「僕ならその方向に向かわないな」
まるで、その方向には怪物がいるかのように拒否をした。
「ねぇ、慎二君。思い出してよ。僕の記憶をさ」
記憶? 何かあっただろうか?
確か、空は赤黒くて、東京駅の前に立っていた。
中に入り、地下まで降りてきて、牢の中に入っている人たちを見回した。
そして、後ろに怪物が………何で怪物はそこにいたんだ?
だって、あの時、シンパンは、
『50点って所かな? 警察だけじゃなくて、普通の人も見えないし、神隠しの被害者も見えない。犬も猫もアイツだって見えないよ』
見えない相手、居るかどうか分からない相手の後ろに立っていたんだ⁉︎
はっとし、シンパンに再度視線を向ける。
「そうなんだよ。アイツは見えない僕が侵入したことに気付いてはいたんだ。つまり、姿が見える君達はとっくのとうに、気づかれているんだよ」
全員が来た道に目を向けて、少しずつ後退りをする。
ネタバラシをされたからか、怪物は来た道から顔を半分だけ出し、こちらを覗き込んできた。
複数ある目が薄く薄く、笑いかけてくるかのように。
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