6
「はい、到着」
少年の案内により、改札口前の広場に到着した。
案内と言っても、少年の手を再度握っただけ。
「マジであの記憶通りの場所だな。空が赤黒いし」
「ああ、外観は東京駅そのものだな」
ここが俺と京介の見た場所通りなら、内装は牢獄。
駅内には看守的な怪物がいる。
「じゃあ………行くか」
「お、おう」
あんな怪物を見た後じゃあ、足の動きが悪くもなる。
「おっと、言い忘れてた」
進む俺達に、その場から動こうとしない少年は告げる。
「僕の案内はここまで。あとは2人でお願いしますね」
「はあ! おい、どういう」
「帰りは呼んでください、僕の名前を」
じゃあ、と言い放ち消える少年。
別世界に取り残された俺と京介。
「「ま、マジかよ」」
ボス戦前で戦力が大幅にダウン。
変な力が使える最大戦力の少年が消え、残ったのは唯の高校生が2人。
力を与えてくれる、と言う話なのだがいつ与えてくれるのかは不明。
不安要素が多すぎる。
どうするべきか。
進むか退くかの2択を考えていると、
「慎二、時間ないんだろう? 考えている暇なんて無いぞ」
京介は地面に落ちている石を集め、制服のポケットに入れていく。
時間は無いか。じゃあ選べる選択肢は1つか。
「石なんて役に立つのか?」
「無いよりはマシだろう?」
ポケットをパンパンにした京介の横に並び、改札へと向かう。
改札機にスマホを当てるも、やはり機能はしていない。素通り出来た。
「少年の記憶通りなら、地下1階に被害者達と怪物がいる」
「あ、ああ」
現状、変わっているところはあの牢獄以外ない。
電光掲示板も窓口も、トイレも変化はない。
「あの店舗ら辺以外、普通の東京駅だな」
「地下1階が変化しているのかもな」
安全のため物陰に隠れながら進む。
エスカレーターやエレベーターを確認するも両方とも機能していない。
「おい、慎二。構内マップがあった」
東京駅内の構造が描かれたマップを見つけたらしい。
マップを確認するために、ひとまずトイレへと入る。
「地下1階への行き方は………結構あるよな」
「地下が広すぎて、牢獄のある場所が分からない」
東京駅をほとんど利用したことが無いからか、土地勘が全くない。
「あのガキの案内が必要なのに」
「言ってても仕方がないだろう。慎重に進もう」
マップは1つしかないので写真を撮っておく。
怪物との遭遇戦は絶対に避けておきたい。進む先を確認し、慎重に動く。
「ここから地下1階だな」
「ああ」
この階段を降りれば地下1階。
手の中には、京介が拾った石がある。
(確かに何も無いよりかはマジだな)
物音立てずに降りていく。
「嫌な感じがするな」
「ヤベェ、鳥肌が立ってきた」
周りを警戒しながら、更に奥へと進む。
隠れられそうな物陰に隠れ、奥を覗くと、
「いた」
囚人の如く牢に繋がれている被害者達。
「………アイツは居ないな」
牢前には怪物の姿はなく、聞こえるのは誰かが啜り泣きをしている声のみ。
「今チャンスか?」
確かにチャンスではあるが、
「牢に鍵が掛かっている可能性があるから、どうにも言えない」
鍵さえかかっていなければ脱出することが出来る。
しかし、それなら何故捕まった被害者達は脱出をしないのかが疑問。
ここでジッとしていても、怪物がくるのを待つだけ。
「見に行くしかないか。このチャンスを見逃せば次のチャンスを待つだけだしな」
「チャンスって何回もあるもんだっけ?」
「神頼みだな」
俺と京介は怪物が居ないのを再度確認し、商業施設に入る。
「「「ッ!」」」
何人かは俺達の存在に気付いたよう。
「京介はあっちから。俺はこっちから」
「了解」
声を最小限にして伝える。
牢は左右に分かれており、手分けをして牢の確認を行く。
(鍵は掛かっていない? ならなんで逃げない?)
少年曰く、人を殺しているのもあの怪物。
ここに捕まっている人達は、次に殺される人達じゃないのか? それとも、この中にいれば………。
鍵が掛ってないのに逃げない理由を、目の前のスーツ姿の女性に聞く。すると、
「ダメよ、逃げたら殺される」
帰ってきた答えは、俺の考えの後者の方だった。
(やっぱり、殺された3人はここから脱走を図ろうとした人達か)
それでも時間がないのは変わらない。
この異界のような場所には食糧もなければ水さえもない。
脱出しなければ、どの道死しか無い。
「脱出しなきゃ、いつか死んでしまい」
「無理よ、無理よ、無理よ」
死の恐怖が、彼女達を捕まえている。
他の人達も脱出を考えていない。
どうする。
どうすれば。
「慎二、全員は諦めよう。目的を果たそうぜ」
「京介、でも」
京介の方も誰も牢から出てきていない。
目の前に助けられる人達が居るのに、背を向けるような事はしたくは無い。
「分かってるよ。でも、無理強いした所で」
そんな事は京介も分かっているし、気持ちは同じ。
深く深呼吸をし、頭を冷やす。
冷静さを取り戻すために。
「必ず助ける」
助ける方法は1つしかない。
それを理解し、その場から離れた。
離れたといっても、女性がいた牢前からだが。
「当初の目的の子見つけたぜ」
「どこ子が先輩の妹さんだ?」
京介の後を追い、見つけ出した先輩の妹さんが入っている牢前にやってくる。
その牢の中には、中年の男が1人。大学生ぐらいのチャラい男が1人。女子高生は2人に中学生が1人。
制服を着ている女性に的を絞ると、候補は3人。
その3人のうち1人に京介が指を刺す。
「あの中学生の子が先輩の妹さん」
女性全員怯えた様子なのだが、一際酷く怯えているのは妹さんだけ。
それもそのはずだ。
今の今さっき捕まったのだろうだから。
体は恐怖によって小刻みに揺れており、よく見ると目元には涙の跡がある。
「足、怪我してるのか」
足の付け根が腫れている。
素人の俺じゃあ、折れているのか捻っただけなのか分かるはずもない。
「京介、運び出せるか?」
もちろん、出口まで。
「任せなさい! 中学生1人背負っても15キロマラソン完走できるわい」
「俺は無理だから、任せた」
体よりも頭を使う方が得意な俺は、真逆の恭介に任せる。
「西園寺先輩の妹さん、先輩と親御さんが心配してる。ここから帰ろう」
他の人達は、残虐な行為を見ているため牢から出ようともしないが、妹さんは別。
捕まったのが今さっき。
残虐な行為は見ていないのならば、出てきてくれるはず。
西園寺先輩の妹さんと初めて目が合う。
妹さんは、俺と京介の制服姿を見て、姉と同じ高校の人だと気づいたのだろう。
「本当に帰れるんですか?」
目に涙を溜めて訊いてくる。
帰れる、という言葉に。帰れる、という想像に、嬉し泣きなのか、涙が溢れ始める。
「うん、必ず君をお姉さんの元へ帰す」
「ああ、任せなって! 今からそっち行くから、俺の背に捕まりな」
京介は牢の中には入り、妹さんの前で背を向け屈む。
「………すみません」
「いやいや、いいのいいの。背中に幸せをいっぱい感じられてるから。感謝すんのは俺の方だったり「バカが」イテッ!」
泣いていた妹さんの顔が、紅く染まっていく。
あとは、出口まで向かうだけなのだが、
「ここからが正念場だな」
「ああ、鬼ごっこの開始かもな」
東京駅内のマップを頭の中に叩き込み、逃げ道を複数用意しておく。
京介が持っている石ころを全て預かり、準備は完了。
「じゃあ、行くか!」
「おう!」
京介と妹さんが牢を抜け出して、事が起きた。
「———だ———はや———ああ」
俺と京介が来た道から、声が聞こえてくる。
バレたのか。
それとも巡回してるのか、あの怪物は。
巡回するほどの知能があるのなら、逃げれる可能性は低くなる。
聞こえる声は大きくなり、段々と近づいてくる。
唾を呑む俺と京介。
「早く、この先に妹がいるのね!」
「ねぇ、大きな声で喋らないでよ。耳が痛いんだけど」
ん?
何故か聞き覚えのある声が2人分聞こえてくる。
「あなたが連れてきたのに、帰ろうとするからでしょ!」
「仕方ないじゃん、アイツに会いたくないんだもん」
「さっきからアイツって誰のことよ」
「記憶を見せられない子は初めてだよ」
来た道から姿を現したのが、西園寺先輩とあの少年だった。
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