5

「な、何だよ。コイツ………化け物か」


 隣に立つ京介の顔が青ざめていく。


 京介が言った化け物———怪物は見えるに耐えないほどの醜さだった。


 大きさは2メートルほど。幅は1メートルぐらいだろうか。


 体は肉の塊のようで、あちらこちらに人の目のが埋まっている。口や鼻などの目以外の人の顔を構成するものは見えない。


 手足は付いているものの、人の手足というよりかはゲーム上に出てくるオーガの様な太い手足だ。


 そんな怪物があの東京駅内を徘徊している。


「………」


「………」


 絶句するしかなかった。


 記憶を見て固まっている俺達に少年が告げる。


「アイツが犯人だよ。東京駅内で起きてる事象のね」


「コイツが神隠しの犯人」


 東京駅であって東京駅では無い場所。


 生物と言っていいのか分からない怪物。


 そして目の前の少年。


 現実離れし過ぎて、夢ではないかと疑いたくなる。


「神隠し………良いネーミングセンスだね。でも、その神隠しだけじゃないよ、アイツがしているのは」


 他に何が………まさか!


「東京駅内での死体の話をしているのか?」


「はあ⁉︎ マジかよ! アイツは人殺しまでしてんのかよ!」


 驚きを隠せない京介の反応に満足したのか、少年は笑う。


「そうだよ。アイツはね、神隠しにあった人達を殺してるの」


 少年の口からは、まるで見てきたかのように告げられる。


 手を握り潰し、足を踏み潰すと。関節を逆方向に折り曲げ、体を折りたたんで捨てると。


 そんな状態の死体を見たら誰だって吐くだろう。


 3体の遺体。3日連続で発見。


 となると、


「今日もアイツは殺すのか」


「んん………多分そうじゃないかな?」


 なら、早くあの捕まった人達を助けなければ。


「その事を警察にも話して欲しい。あと、俺達にも見せた記憶を「それは出来ない」み………なんで?」


 少年は首を横に振り、拒否をする。


「なんでって、君なら考えれば分かるんじゃない? ええっと、慎二くん?」


 考えれば?


 何を考える?


 ………まさか。


「お前の姿が見えないのか、警察は?」


「50点って所かな? 警察だけじゃなくて、普通の人も見えないし、神隠しの被害者も見えない。犬も猫もアイツだって見えないよ」


「じゃあ、なんで俺と慎二には見えるんだよ!」


 確かに、警察もマスコミ達も被害者達、怪物にも少年は見えていなかった。京介の疑問には当然俺も感じている。


「それは君達には欲望があったからかな? 正当な理由のね」


「それはどういう」


「今説明したって理解出来ないよ。それに説明する時間も理解する時間も無いんじゃないの?」


 確かに時間はない。


 次に殺される被害者が先輩の妹さんの可能性がある限り。


「今君達が理解する事は2つ。1つ、僕が見えたという事は『世界』に選ばれて、『世界』が君達には力を与えてくれる。2つ、その力でなら#怪物アイツを倒せる」


「倒せるって、超能力とかくれんのか?」


「超能力………ちょっと違うのかな? いや、だいぶ違うかな? うんん、どっちなんだろう?」


 この子自身、どんな力なのか把握していないようだ。


 でも、あの怪物を倒せるだけの力を与えてくれるのなら、話は早い。


「君の名前は?」


「うんん、ここでは『シンパン』と名乗っておこうかな」


「しんぱん? 変な名前だな」


「僕的には気に入って「シンパン」………何かな?」


 京介と少年の会話を遮るように名前を呼ぶ。


 今日も1人被害者が出る、とシンパンは言った。


 誰にも見つけることの出来ないあの空間で、あの怪物の手によって。


「世界が与える力ならあの怪物を倒せるんだな?」


 あの怪物に感情があるか分からないが、俺は見た。


 恐怖で体が震えている被害者達を見るアイツの目。


 あの目は、


「うん。倒せるよ」


「じゃあ」


 快楽に満ちた目だ。


「案内してくれ、アイツの元に」

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