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学校を途中で抜け出し、電車を乗り継いで東京駅に到着する。
「警察官多いな」
「約2時間前に行方不明者が出たからな」
警察の数よりも報道陣の数の方が多くいるように見えるのは気のせいではないだろう。
ここに来るまでに西園寺美妃先輩の実家について調べてみた。
西園寺家は国際的な航空会社『ウェスト・スカイ』を創り上げた財閥。要人や有名人、スポーツチームなどが信頼し、信頼に応えるかのように事故の件数は未だ0件を維持している。
他の航空会社よりも多く飛ばし、今ではウェスト・スカイ航空会社が、国内便や国際便の大半を占めているそうだ。
その財閥の娘の1人が行方不明になったとなれば、報道陣も駆けつけてくるだろう。
「んで、どうやって探す?」
「そうだな………先輩の妹さんの顔すら知らないでここまで来たしな」
メディアでは、先輩の両親の顔写真はあるものの、先輩と妹さんの顔写真は1枚も載っていない。
顔を知らずに探すのは無理がある。
「まずは、離れずに探そう。手分けして探したい所だが、どちらかが神隠しに遭ったら困るからな」
「了解。内と外どっちから行く?」
「あの先輩の妹さんは、駅内で消えたんだよな?」
「電話の内容なら、そうだな」
「じゃあ、まずは駅内から探そう」
西園寺先輩の妹さんは、駅内で行方不明になったらしい。
ならば、駅内に手がかりか何かあるのかもしれない。
俺と京介は、そのまま改札を出ることなく改札内の至る場所を探す。
この時間に学生服を来た人物に的を絞り。
レストラン内は外から。
雑貨店なら中まで入り、隅々まで。
駅ホームにも足を伸ばし、先頭車両から最後尾の車両が止まる全てを探す。
しかし、
「やっぱり、学生服を着る子は俺ら以外に居ないな」
誰1人も見つけることは出来なかった。
「今度は改札の外を探そう」
この時間なら普通は警察に補導される時間なのだが、警察もそんな暇はない。
俺らが警察の前を通っても素通りさせてくれる。
改札の外は人集りが出来ており、探すのは難しく思える。
さて、どこから探すか?
「行方不明者は東京駅内で消えたのか? それとも」
「いや、東京駅周辺でも居なくなってる」
「じゃあ、手分けして探すのはやめよう」
駅内同様、駅外でも至る場所を探す。
7月の中旬。
夏の暑さとアスファルトから伝わる温度。更に人口密度が高く、体感温度は40度を超えている。
「少し休まないか?」
「それは賛成。ああ、暑い!」
流石にこの暑さは耐えきれなくなり、俺は京介に提案をする。
「自販機で何か買おう」
「近くにあったよな?」
近くの自販機に寄り、スポーツドリンクを買う。
日光を避けるために日陰まで歩き、そこで休憩。
「グビグビグビッ、ぷはあ! 生き返る。身体の端から端まで水分が行き渡るのが分かる!」
大袈裟といつもなら言っているが、
「確かに」
今回ばかりは素直に同意する。
「外もやっぱりいないな」
「ああ、そうだな」
「警察も探し出せてないのに、俺らが探し出すの………無理があったかな?」
「無理と言えば無理があったかも。どうして起きたのか原因すら知らないし、どうゆう風に居なくなったのか分からない。情報もニュースのみだしな」
情報量の多い警察が見つけ出せないのに、警察の情報のごく僅かしか知らない俺らには無理な話なのだが、それでも、
「それでも探さないよりはマシだろ? 先輩には味わって欲しくない、家族が居なくなる辛さを」
あの辛さは経験しなくていい。
「慎二」
買ってきたスポドリを飲み干し、ゴミを捨てようとゴミ箱を探すと、そこには場違いな少年が居た。
その少年の何が場違いなのか。
服装である。
こんな真夏日に全身白のスーツを身に纏い、ネクタイを締め、汗一つかかずに涼しい顔をしている。
周りを見てもそんな服装の人物はいない中でだ。
「んん? あの子暑くないのかな?」
京介もペットボトルを捨てようとゴミ箱を探したのだろう。同じ人物を見つめていた。
そして、彼も。
俺たちが見つめていることに気付いているようで、ニコッと不気味な笑みを浮かべ、手招きをしてきた。
「こっち来いだってさ」
「………いや、行かない」
ただの少年には何故か見えない。
不気味で………見られているだけで背筋がゾッとする。
あの子が手招きしていようが行く気はない。ゴミ箱も子供の近くにあるのは確認したが、捨てるのは諦めよう。
「慎二、手招きしてる。行こう」
「行っちゃいけない気が」
「慎二、行こう」
俺の腕を強く掴み、少年の方に向かおうとする。
「京介?」
「慎二、行かなきゃ。あの子———『世界』が呼んでる」
「おい、何言ってッ!」
京介の顔を覗くと、目の焦点は少年に向けられており、目の前の俺を見ていない。
あの子が原因か⁉︎
どういうトリックなのか分からない。でも、確実にあの子供が京介を操っているのは理解した。
こうやって行方不明者が増えてるのか?
もし、そうならあの子が犯人。
だが、
(他の人には見えていないんだろうな)
先程からあの少年が手招きしているのに、周りの人は彼に目を向けず、いない者の様に扱っている。
行くしか無いってことか。
「分かった。行くから手を離せ」
そう言うと京介の手は俺の腕をから離れ、そして、
「うん? あれ何してたっけ?」
京介は正気を取り戻す。
もう1度あの少年を見ると、やはり手招きし、口が動く。
(こ、な、い、と———来ないともう1度、か)
正気に戻った京介に、今遭った出来事を伝え向かう。
「マジかよ。しかも脅してくるとか、ただのガキじゃなさそうだな」
誰に話しても理解されない出来事なのだが、目の前で起きたことを理解出来ないほど頭は硬くない。
そして、少年の元へ辿り着く。
「勝手に俺を操りやがって。どういうトリックだ、ガキ」
普段ならこんな風に強く出ることのない京介だが、目の前の少年に対しては別の話。
ニコッ。
笑う彼は、俺達に背を向け歩き出す。
ついて来い。
そう言われているような気がした。
俺と京介はあの子の背を追うように、一定の距離を空けてついていく。
少年の向かった場所は、人気のない場所。
東京駅の近くなのに、ここには何故か人が1人もいない。
周りを見回す俺と京介。
「ねぇ、お兄さん達。良いもの見してあげる」
今まで口を閉ざしていた少年は、俺と京介の手に触れる。
「「うっぐっ」」
彼の手が触れた途端、見たことのある景色が、直接脳に伝達される。
誰か………いや、この子の記憶だ。それだけは分かる。
記憶が俺と京介に流れ込んでくる。
空は赤黒く、目の前の建物は東京駅。
この東京駅には何故か誰も居らず、閑散としている。
少年が歩き出したのだろう。東京駅の中に入り地下へと降りていくと、そこにあったのは店舗ではなく牢獄。
そして、牢獄の中には人が。
「なんなんだ、これは」
先程まで居た東京駅には見えない。
東京駅に見立てた刑務所と言ってもいい。
記憶はまだ続く。
投獄されている人には、やはりこの少年が見えていないのだろう。牢前を歩いていても誰も助けを求めていない。
(1、2、3———16人。ん? 先輩の妹さんを含めれば、行方不明者は16人!)
投獄されている人達は行方不明になった人達。
「ここに行くにはどうすれば行ける!」
「まあ、まあ。まだ見ていない物があるから見てからにしなよ」
少年はこの場所の行き方を知っている。でも、まだ教えてくれる気は無いよう。
少年の言葉に従うしかない。
記憶に再度集中する。
少年は牢獄の中心部分に立つ。すると、少年に影が被る。
(誰か………いや、何か居るのか?)
少年に被さる影は余りにも大きく、人のモノではない。
後を向く少年の目の前にいたのは———言葉通りの怪物だった。
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