3
「今は寝てるわ。………何があったの?」
保健室に連れて行くと養護教諭が何かを察したのか、すぐさま動いてくれた。
その甲斐あって先輩は、何ともなく今は眠っている。
今、この場には俺と京介、養護教諭しかいない。しかし、その内2年の教師達も駆けつけてくるだろう。
説明は2年の教師達が来てからの方が手間にならずに済むのだが、養護教諭に疑われている為、隠さず全て話す。
「———そういうわけです」
「そう。西園寺さんが起きたら、彼女にも事情を聞いてみるわ。疑ってごめんなさいね」
そう言うが、本人から話を聞かない限り、疑いは晴れないだろう。
「西園寺さん!」
保健室のドアが開き、西園寺先輩の担任と思われる教師が入ってきた。
事情を聞かれるので、同じ説明する。
「そう。親御さんが迎えにくるのね」
「どうでしょう? 『向かわせる』としか聞いていないので親御さんが来るのかどうかは分かりません」
正直言って来ない方の可能性が高い。
あの空き教室での会話を聞いていたら、誰もがそう思うはず。
先輩が倒れたのもそれが原因なのだから。
今頃、西園寺先輩の親御さんは警察に色々話を聞いているところだろう。
そんなことを思い、時計を確認すると、14時50分。
5限目が始まって10分経っている。
西園寺さんが起きて証言してもらわないと、俺と京介は教室には帰れない。
保健室の椅子に座り、西園寺先輩が起きるのを待つ。
待っている間、俺は先輩の参考書を読み、京介は睡魔に襲われてか船を漕いでいる。
「んんん、ここは? っ! 行かなきゃ!」
意識が戻った先輩。
状況把握のために周囲を見渡し、記憶を頼る。記憶に頼った結果、彼女はベッドから飛び起き、何処かに向かうために走り出そうとしていた。
しかし、
「西園寺さん!」
「あなたは倒れたのよ。安静にしてなさい!」
「離して! 行かなきゃ、妹を探しに行かなきゃ!」
近くにいた教師2人に捕まり、何処にも行けない。
(やっぱり、先輩の妹さんは)
思い出すのは、昼休みに話したあの件について。
先輩は妹さんのことが心配で、未だに誰一人も見つかっていないという情報を知っているからか、涙を流しながら教師に抵抗している。
手助けしたいが………何も出来ないのが現実。
「失礼します。西園寺家の者です」
今にも泣き崩れそうな先輩の元に来たのは、執事服を着たお爺さん。
「じい………じいぃいいい!」
西園寺先輩の反応から察するに、先輩の親御さんが寄越した人物だろう。
教師達もそれが分かったのか、拘束を解いて、様子を見ている。
先輩が泣き止むのを待ち、話を聞くことになった。
何故倒れたのか?
俺らとの関係は?
そして、何故あんなにパニックになっていたのか?
まだ養護教諭が自分らを疑っている。それには気づいていた。
2つ目の質問の意図は、明らかに俺らに対しての質問。
1年生があなたに何かをしたんじゃないか、というものだった。
当然、先輩の答えは、
「倒れた理由は不安からでしょう。この子達に何かをされた記憶はありません。パニックになった理由も言えません」
殆どが言えないと答えたが、俺らに対しての質問にはキッパリと答えてくれた。
(これで俺達の無実は証明された)
無実が証明されたので、
「あなた達は教室に戻って良いわ。今授業している先生にはこれを渡してちょうだい」
俺達は無関係の人物になった。
西園寺先輩の担任から紙を受け取り、俺と京介は教室へと戻る。
「なあ」
戻る最中、
「なあ、西園寺先輩の妹さんって」
最後まで言わなかったが、言いたいことは分かる。
「多分な」
あの電話の内容、西園寺先輩の声しか聞こえて来なかったが、『東京駅』『消えた』というワードさえ有れば、誰だって想像できる。
「じゃあ、先輩が行こうとしてた所って」
「東京駅だろうな」
妹さんを探し出すには、消えた場所——東京駅を探すしか無い。
しかし、どうやって見つける?
警察が東京駅の隅々まで捜索したはず。素人の捜索で見つかるとは思えない。
可哀想だがどうにも、
「なあ、慎二」
どうにもならない。はずなのだが、気持ちは京介と同じだ。
「京介、行こう」
手持ちはお互い財布のみ。ああ、あと京介のスマホがある。
「ッ! あはははは、だよな!」
東京駅までなら、今すぐにでもいける。
俺と京介は教室へとはよらず、その足で東京駅へと向かう。
先輩の妹さんを見つけるために。
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