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 昼休みは購買に向かい、残り僅かになったパンを購入する。


 昼休みになった今、生徒は教室か食堂で昼食を食べるのが普通だろう。


 俺と京介も例外ではない。


 と言っても、俺らは自分達の教室ではなく空き教室で食べているが。


「ああ、確かニュースで行方不明者の名前と出身地を言ってた気がする」


 朝、少し気になっていたことを訊ねると、京介は思い出したかの様に答えた。


「各地方から色んな理由で東京方面に来てたんだってよ。例えば」


 ある人物は、長崎から友人を訪ねに東京駅を利用し行方不明に。


 またある人物は、仕事先が東京にあるらしく、埼玉県から出勤中に行方不明に。


 またある人物は、放課後に友達と遊んでいる最中に迷子になり行方不明に。


「俺が覚えてるのはこんくらいかな?」


 理由は様々で、年齢層もバラバラだった。


「だから、警察も困ってるらしいぜ。家出ではないし、事件性はなく誘拐の線もないらしい」


 話を聞きながら最後の一口を食べ切る。


「じゃあ、分かっている事は東京駅で行方不明になったことぐらいか」


「あん。まあ、無事に見つかれば良いよな。家族とか友人とかさ、心配してるだろうし」


「そうだな」


 被害者達とは何の関係もなく赤の他人なのだが、無事に見つかり、心配してくれている人達の元に戻って欲しい。


 こんな現実離れした事件は起きて欲しくはなし、ましてや自分と関わった人達には無関係でいて欲しい。


「………」


「………」


 若干暗い空気になり、話を変えようとすると空き教室のドアが開く。


「あなた達………1年生?」


 ドアを開けたのは2年の先輩だった。


「あっ、あははははは」


 笑って誤魔化そうとする京介。


 俺と京介がいつも使っている教室は、2年生の教室がある階にある。


 つまり、この空き教室も2年の教室なのだ。


「青色の上履きだし、1年生よね? なんでここに居るの?」


 この学校は学年によって色分けがされている。


 1年生が青。2年生が赤で、3年生が緑。


 上履きやネクタイピンの色で判別ができ、この先輩は上履きを見て、俺らが1年生だと気づいた。


 どうしよう、という顔をする京介に任せると墓穴を掘る可能性が高いので、


「すみません。友人に相談しようにも、1年の階では空き教室がなく、空き教室を探していたら2年生の階まで来てしまって」


 今度からここは使えないな。


「………本当に?」


 先輩は疑いの目を向けるが、明日から来なければ大丈夫。この話が本当のことだと信じるだろう。


「お邪魔だったのなら直ぐに帰ります」


 京介はそそくさと、昼食のゴミを片付ける。


「………はあ、別に邪魔じゃないわ。というよりも私が邪魔しちゃったみたいね。ごめんなさい」


 そう言い、何処かに行こうとする先輩の手には参考書が握られていた。


「勉強ですか?」


「ん? ああ、まあね。教室だとちょっと騒がしいのよ」


 苦笑い浮かべる先輩。


 どうやら邪魔なのは俺らしい。


「どうぞ、もう相談はし終わったので。勉強頑張ってください」


 俺と京介はゴミを捨て、先輩に空き教室を譲り、2年生の階から立ち去る。


「ごめんなさいね! ありがとう!」


 後ろから聞こえる声に、振り返り頭を下げる。


 その足で教室に戻り、俺の席にて話の続きをする。


「これじゃあ東京駅には近づけないな」


「行方不明者の件もそうだし、遺体の件も東京駅だしな」


「犯人が見つかってくれれば良いんだけどな」


「見当もついてないんだろ。時間が掛かるな」


 警察が全力で捜査に当たっているので、容疑者が見つかれば直ぐに収束はするとは思う。


 日本の警察は優秀だから。


「ああ、なんか良いことねぇかな? 世の中は物騒だし、学校ではネックレス取られるし………ああ!」


 急に大声を上げて立ち上がるものだから、クラスメイトが驚いてこっちを見ている。


「慎二、スマホ置いてきた」


 ウチの学校ではスマホの持ち込むは禁止されてないが、使うことは禁止されている。


 まあ、教師の目の前で使ったところで、注意を受けるだけなのだが。


「どこに」


「空き教室」


 あの場にスマホを持って来ていたのか。


「今なら間に合う。取りに行くぞ」


 昼休みが終わるまで、あと10分ある。


 余裕で間に合うが、急ぐに越したことはない。


 2年の階に歩きながら向かい、いつもの様に空き教室に入ろうとすると、


「ちょ、ちょっと待ってよ! どういうことなの!」


 ドア越しに声が聞こえる。


 先程の先輩だろう。


 ドアを少し開けて、中の様子を伺う。


「誰と電話してんだ?」


「さあ?」


 先輩は焦っているのか、ウロウロウロウロと動き回りながら電話をしていた。


 今入るには間違いだろう。


 電話が終わるまで待つしかない。


 待っている間、俺と京介は聞く気はなかったが聞こえてくる会話を耳にする。


「だって、だって! あの子はで降りたりしないじゃない! 何かの間違いよ!」


 東京駅って言ったか?


 俺と京介はお互いに顔を見合わせる。


「ええ、東京駅に着いた瞬間にいなくなった⁉︎ どういう………降りたわけじゃないのに、人に目の前で消えた⁉︎ あり得るわけないじゃない!」


 かなり焦っている様子。それだけでなく、今にも倒れそうな顔色をしている。


「そんな、ハアハアハア。あり得るわけ、ハアハアハア。あの子が」


 ふらっ。


 バンっ!


「大丈夫ですか、先輩!」


 フラつくのを見た俺と京介は、教室のドアを勢いよく開け、倒れそうになる先輩の身体を支える。


『ミキ、ミキ! どうしたの!』


 先輩のスマホからは、女性の声が。


 多分、先輩の母親だろう。


 過呼吸している先輩の代わりに、返事をする。


「すみません。先輩はどうやら体調が悪くなり倒れてしまったので、これから保健室に運びます。迎えには来られますか?」


『すぐに向かわせます!』


 この言い方だと、母親は来れないのだろう。


「京介!」


「分かってますよ!」


 京介はと呼ばれていた先輩を抱き抱え《だきかかえ》、空き教室から出て行く。


 俺も後を追うがその前に、


「これで全てか?」


 京介のスマホと先輩の荷物を持ち、置き忘れがないか確認をする。


 そして後を追った。


 


 


 






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