第三章 新生首都東京編

新生首都東京編 『眼球』



「まずは食の問題でしょう。 『密輸人』と交渉するにも差し出せるほどのものはありませんし、もし『都市シェルター』を失ったという情報が既に回っているなら、交渉に応じてすらもらえないでしょう」

「まさか、一時期は『略奪者バンディット』狩りを任されていた我ら小隊が、逆に『略奪者バンディット』になるとは」


 天井のない廃墟の中心で缶詰の食料を人数分だけ開け、へこんだペットボトルの水を回し飲みする。


「新しい拠点を探しながら、『略奪者バンディット』として物資を集め続けるしかない。 それがオレ達の生きていく手段だ。 だがたった七人では『都市シェルター』どころか、敵の小隊にすら苦戦するだろう。 怪我人が出る。 弓やナイフなんかじゃ駄目だ。 もっと、強力な武器を持つ必要がある」

「銃、か?」

「銃と弾丸、それと爆弾だ」

「爆弾なんて何に使うんだ、敵の『都市シェルター』をぶっ壊す気か?」

「馬鹿いうな、クチキ。 あの憎い機械蜘蛛をぶち殺すんだよ」


 小隊長として冷静さを保たなければならない立場上、感情を優先した発言はできない。

 しかし、実際のところ小隊の中で最も憤怒していたのは、アギトだった。


「見たところ、あの『水黽あめんぼ』の六本脚には弱点がある。 膝の関節と歩幅だ。 昨日のようにエネルギー切れのタイミングさえ事前に測る事ができれば、足元に近づける。 高低差のある地形なら、爆弾を関節部分に張り付けることができるはずだ。 柱のような六本脚は体躯を支え、全体のバランスを保つためにあるものだろう。 二本、いいや、三本の脚関節を爆破すれば確実に挫ける」

「はははは、面白い、さすがアギトだ。 そりゃあ夢がある。 この屈辱はあの蜘蛛野郎をぶっ倒さない限りは晴らせないからな。 それで、歩幅ってのは?」

「昨日、前足を上げてるのを見ただろ? あの程度の可動域でしか脚が上がらないなら、一度ひっくり返れば、起き上がることはできない。 そうなれば、コックピットがあるのかわからないが、頭の部分を叩いて再起不能にできる」


 そこで口を挟んだのは、地図と睨み合いをしていたトシだった。


「無謀です。 アギトさんの計画はいつも憶測ばかりです。 本当に小隊の安全を考えていただけるのであれば、例え夢語りでも、もっと慎重になってください」

「わかっている。 蜘蛛への報復は最終目標だ。 まずは、目の前の問題を処理しなければな」


昔は街と呼ばれていたコンクリートの海で、アギトが指を指したのは床や瓦礫、至る所に赤の塗料で殴り描かれた眼球の紋章だった。




「オレ達『大和』の拠点の象徴が旗なら、この廃墟群のどこかに潜む国の象徴は眼球らしい。 悪趣味な国章だ」


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