第13番小隊 都市奇襲計画 二日目 後編


「フレアガン二丁、破片手榴弾と発煙手榴弾が一つずつ、パーツごとに分けられたクロスボウ。 ガスマスク三人分、この鉄の棒は……鍵でしょうか」

「メタルマッチだ。 火をつける時に重宝する」

「メタルマッチが一組。 治療キット、双眼鏡、残りは缶詰とオープナー、手帳です」

「手帳だと?」


 ジュウベエから渡された手帳は、付箋替わりらしい小さな木の枝が何本も挟められ、かなりの使用感があった。

 アギトが適当にページを開いてみると、そこには日本語ではない、別の言語が羅列されていた。


日本語ひのもとことばではありませんね、大人たちの言う『外』の失われた言葉のようですが、アギト隊長、読めるのですか?」

「これは、ロウマ字だ。 著者は叡智の持ち主だったらしいな」

「ロウマ字ということは、上層部の物でしょうか」

「読み上げる。 ……YAMATOまとHAHOROBINOUほろびのう……NMEINIんめいにARUあるTOKIGAときがITARABASUいたらばすTEYOてよ

「…………」

「『大和』は滅びの運命にある。 時が至らば捨てよ」

「……なんですか、これ。 ちょっと、クチキさん、クチキさん!」


 ジュウベエが、端でぼうとするクチキに問う。


「手帳を埋めた場にいたのですよね? このようなふざけた事を書いたのは誰なんですか」

「知るか、こんなもの。 それに、補給地点サプライポイントは全部で15ヶ所もあるんだ。 ひとつひとつ誰が埋めたか、誰が検品したかなんて覚えていられるものか」


 アギトが更にページをめくると、そこには6行程のロウマ字と、四角錐の絵が描かれていた。


「『塔』は、生きてい、る。 折れて、も尚、大型のレーダー探知、機と、して、広範囲の『都市シェルター』を、監視し続、けている。『塔』 に感知され、た都市シェルター、は滅ぶ。 『塔』は、上層、部が運用している。 節足、のばけも、のもだ」

「節足の化け物とは、あの蜘蛛のことでしょうな」


 一同が、数キロ先の祖国に目を向けた。

 エンジン切れか、先ほどから蜘蛛は前脚を上げたまま動きを停止している。


「蜘蛛は、悪魔の兵器だ。 も、しも、この手、帳を読むあなたに、生きる意志が、あるなら、国を、捨てるべきだ」

「小隊長、小隊長!」

「なんだ」

「第13小隊、カンダ・ジュウベエ。 祖国のために産まれ、戦い続けてもう7年になります。 祖国を捨てることは、これまでの全部を捨てることになります。 そんなことは、できません」


 ジュウベエは、涙目で訴えた。


「あんな、デカブツに! の機械なんかに! 『大和』を明け渡すなんて! ヤツの糞六本脚の下には、国民がいます! 瓦礫の中で、僕ら小隊の帰還を待っています、待ってるんです! 血の繋がる家族もいます! あれをぶち壊して、救うべきです!」

「……クチキ、ユリ、物資を拾え。 入れ物も。 何に使えるかわからん」

「本当に見捨てる気ですか、小隊長」


 僕だけでも戻ります、と言い出しそうなジュウベエの肩を強く引いたのは、金髪青目のサナダだった。


「ジュウベエ、落ち着くのだ。 アギトは小隊長として、断腸の思いで決断したのだ。 これ以上、彼の決意を惑わせるのは赦さん」

「わかってます、わかってます。 本当は、僕だってわかってるんです。 でも、でもね、こんなの、酷い。 酷い。 ……酷いじゃないですか。 僕らには、本当に何も出来ないんでしょうか」

「歩くのだ。 愛国心を胸に、決意を武具に、そして、祖国を背に。 『大和』の魂を忘れず、生き続けるのだ」


 それを聞いたジュウベエはしばらくの間、声を押し殺して大玉の涙を流していた。

 その場にいる、全員の分も代わりに泣いた。

 泣いて泣いて、十数分して、腕で目を擦って、赤目で歩き出した。

 蜘蛛が活動を再開し、大地の砂を揺らしても、小隊は歩みを止めなかった。

 日が落ちるまで歩いて、国の支給した手描きの地図にも描かれていない土地に足を踏み入れたところで、近くの岩場でテントを建てた。

 真夜中、ジュウベエは一晩中ずっと見張り番をやると言い出して、昨晩より綺麗に見える星々の下で、祖国に向かって泣いた。

 ユリもクチキも、ただ目蓋の裏で悔しさに耐えていた。


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