第13番小隊 都市奇襲計画 二日目 前編


日の出に合わせて、小隊は残骸の影から移動を始めた。

敵の探索班がやってきた方角に進み続けたが、敵の『都市シェルター』は見つからず、午前で進行を打ち切り、帰還する流れとなった。


「敵の周波数どころか、別働隊にも連絡がつかない。 なんで急に調子が悪くなったんだろう」

「クチキ、仕方ないさ。 昨日の敵部隊から剥ぎ取った大量の布と装備、それと手帳と周波数数値だけでもいい土産になる」

「他の奴らはもう、奇襲をはじめてるんだろうか?」

「……」

「なあ、もしものために埋めておいた補給地点サプライポイントに、フレアガンがある。 取りに行くのも一つの」

「待て、なにか聞こえないか」


アギト達の進行方向の彼方から、暴力的な音が響いていることに気がつく。

足元の砂が、音に合わせてチラチラと揺れる。

それは間違いなく、何者かが戦闘している音だった。


「ユリ、高所から偵察しろ。 嫌な予感がする」


ユリは近くのコンクリートの山を駆け登り、望遠鏡を音源に向けた。


「何が見える」

「……蜘蛛です! 蜘蛛が私達の『都市シェルター』の直上で……、踊っているようにみえます!」

「蜘蛛だと」


アギトは小隊に姿勢を低くさせて、ユリを追ってコンクリートの頂上に登り、望遠鏡を伸ばして音源の方を覗いた。

 薄傷の入ったレンズの中で、祖国『大和』の占領地域を意味する白黒の一松格子の三本旗が巨大な機械蜘蛛に折り倒されているのを目の当たりにする。

太すぎる柱のような六本脚で、踊るように足踏みを繰り返す。 踏み込む度に大地は抉れ、それは地下に広がる『都市シェルター』にも到達しているだろう。


「小隊長、まさか、あれは『廃棄物オーパーツ』ですか」

「ここから離れるぞ」

「嘘でしょう、小隊長。 祖国を捨てるのですか」


コンクリートの上から、アギトは小隊に命令を発する。


「オレ達の国が襲われている。 オレ達の国民が殺されている。 しかし、相手は巨大な機械兵器だ。 この小隊だけで立ち向かっても返り討ちは逃れられないだろう。 よって、補給地点サプライボイントで準備を整え、フレアガンで奇襲に向かった別小隊を呼び戻す。 仲間の到着を待ち、その後に反撃を行う」


隊員達の顔が一斉にこわばった。


「アギトさん、それってつまり、仲間が来るまで、攻撃されている祖国を見ていることしかできないということですか。 それは、それは流石に、む、むごすぎる!」

「ジュウベエ、オレも国のために戦っている。 だが、今は何も対抗手段がないんだ」

「ど、どこの国が攻撃してきたんですか!? 目的は物資の強奪ですか、それとも領土拡大ですか、一体どうして急に! 今から僕らも戻れば迎撃できるのでは!? 僕にもそれ、見せてください!」


ジュウベエは受け取った望遠鏡を伸ばして、中を覗いて少しすると、絶句した様子で青ざめた顔をこちらに見せた。


「この中で補給地点サプライポイントの位置を正確にわかる者はいるか」

「以前、別の作戦で地図上に記されたのを見たことがあります」

「よし、トシに先導をまかせる。 総員、敵対勢力に警戒。 ノブユキ、弓を出しておけ。 移動するぞ」


アギトはあの機械蜘蛛が何なのか、そしてその威力を先人の書物で知っていた。





「前時代の『廃棄物オーパーツ』の一つ、その名を『水黽あめんぼ』。 過去の日本が作った拠点制圧用兵器……、どうして此処に……!」

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