第175話 一人と一匹、輝きをまとってみる。
「んん……!? このゲーミングキノコ、味は本当に美味いのな」
「マジック・マッシュルームです、マリ。ゲーミングカラーはわたしに効きます」
「ごめんごめん。前世とは言え違法性のある名前で呼びたくないじゃん」
「まぁ、それはそうですが……うぅん」
拠点に帰ってきて早速興味本位で食べたいと言った私を前に、賢い相棒はこうして色々と発光対策をしてから食べる許可を出してくれたのだが、今の声音を聞くとあまり推奨はしていないらしい。
金太郎が無双したあの後もダンジョン内で忠太が二時間輝き続けたため、今日の探索を断念して早めに切り上げて帰還すると告げたら、何故かファーム・ゴーレムに持たされたのだ。サイラスもスマホの画面越しに意外そうな表情を向けてきたから、あれはあのファーム・ゴーレムなりの親愛の表明だったのだろう。
でもバター醤油とニンニクの香りが食欲を刺激し、舌の上でねっとりと蕩ける不思議な食感は、ファミレスのボルチーニ茸フェア(本物かは知らない)で食べた時のそれだ。濃厚で美味しい。使用したのはエリンギ似のキノコだけだが、他のも味が違うのだろうか。興味はある。
「何ていうか、気前良くくれたよな」
「ですね。彼もLEDカンテラを気に入ってくれましたし、案外そのお礼のつもりなのかもしれません。古来地獄への道は優しさで舗装されていると言いますが、完全に善意で持たせてくれた物を残すのも難しいので……頑張って食べます」
ただ窓という窓に隙間なく暗幕をかけ、顔には目を守るためのゴーグル型のサングラスを着用して、ようやく食べられるキノコって何なんだろうな。絶対今この空間はサングラスを取ってはいけない輝きで満ちているんだろうと思う。だって通常時はかけたらほぼ真っ黒で何にも見えないこのサングラスを通して、目の前に着席している忠太の姿が見えるくらいだ。
いや、姿が見えるというよりは、オーラとか後光を放ってる人の形が認識出来るが正しいかもしれない。おそらく忠太からも私がそういう風に見えているはずだ。絵面を考えるとまるでサバトだな。現在は自らが発光しているおかげで手許が見えるけど、調理中は普通のキノコなのが謎である。
「味自体は良いのは勿論ちゃんと魔力も上がりますし、わたしはもう少しで新しい魔法が覚えられる気がしているので食べますけど、マリは魔力酔いすることも考えられますので、このキノコは程々にしておいて他の物を食べて下さいね?」
「ん、分かった。でも忠太の話が本当なら凄いなこのキノコ」
「ええ。市場に出回ればかなりな高値がつくことは間違いないでしょう。サイラスもあのゴーレムがダンジョン内を彷徨いているのは、一処に留まって冒険者達にキノコが乱獲されないようにだと言っていましたし」
「ああ、歴史的な菌糸学者に【アドルフ】が注文されたんだろうとか言ってたな。ゴーレム学って今あっても役に立ちそうなんだけど」
「絶滅危惧種全部をゴーレムに護らせては都合が悪い人もいるのでしょう。力が欲しい権力者とかね」
「それはあるかもなぁ」
初めてのことに驚いてうっかりお礼をし忘れてしまったけど、またダンジョン内で会えたら今度はホームセンターの腐葉土の大袋を百キロ分くらい贈りたい。
「あ、そうそう、調理中にサイラスの失敗談のPDFが届いていましたが、守護対象者のマリに読まれると恥ずかしいので、同業者のわたしだけで読んで欲しいとありました」
「そうなんだ? そりゃ残念だけど仕方ない。忠太に任せるわ」
「読み終わったら話して良さそうな部分はお教えしますね」
というようなやり取りを挟みつつも、ゲーミングカラーの恐怖を体感した忠太は、ちらりと残りのキノコの山がある方向を見つめた。
見た目によらず大食漢だから胃袋の心配はしていないが、もらった量が量だ。二十四時間輝き続ける覚悟くらいはいるかもしれない。そこまでいくともうミラーボールの化身なんだよなぁ。言ったら落ち込みそうだから言わないけど。しかし次の瞬間には忠太の視線は悩ましいキノコの山から逸らされた。
「けれどこのキノコはまだ良いとして、問題はあれですね」
「ああー……まぁ、だわな」
二人で意識をキノコの山と反対側の部屋の隅に向ければ、金太郎とミニファーム・ゴーレムが、レジャーシートの上で積み木遊びをしている気配がする。あっちは発光していないから音しか聞こえないものの、ダンジョンでは仲良く遊んでいたから心配はしていない。最終的に某スマホゲームの仲間と手を繋いで空を飛ぶ子供(?)の見た目に近くなった新ゴーレム。
ファーム・ゴーレム(大)から菌糸をもらったのか、頭に冠状に小さいキノコが生えているので、それにちなんで
デザインのせいなのか元となったのファーム・ゴーレムの気性か、輪太郎は超稀少なキノコを持っているのに、おっとりと心優しく戦闘力らしきものとは無縁に見える。
「金太郎が楽しそうなのは良いことですし、春になれば畑の管理を彼に任せられるというのは魅力ですが、輪太郎だけでの留守番は不安があります」
「ん、同感。それについては明日にでも何か魔装飾品を作ってやろう。まだ生まれたてだしな。あとは……」
「サイラスの守護対象者の名前を、学園の図書目録から探し当てること、ですね」
「そういうこと」
通話を切る瞬間までサイラスが〝あの子〟と言った理由と、これまでの駄神の嫌らしさを考える。たぶん遠くないこの推測が、あいつを自由にしてやれる鍵だと思う。でも、ああ、クソ。こんな愉快な状態でなかったらもっと格好がつくのになぁ、おい。
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