第173話 一人、カンペを手に再チャレンジ。
「うおぁっ、眩しっ!!」
「〝目がぁぁぁ!!〟」
超至近距離でのフレンドリーファイアーに目を押さえたのは私だけではなかったっぽいが、今はそんなこと気にしてられない。目蓋の裏にゲーミング忠太の残像が残っている。背中にファーム・ゴーレムの頼り甲斐のある身体がなかったら、後頭部が床と仲良しになってるとこだぞ……!
――が、後頭部の無事と引き換えにカシャンとスマホが床に落ちる音がした。駄神の加護のおかげで壊れる心配はないものの、電子機器の落下音が心臓に悪いのはどうしようもない。ただ私と同じく目眩ましを食らったサイラスにしてみたら、目をやられなかったらリアルに落下視点だっただろうし、不幸中の幸いか。
シパシパする目を擦りつつ手探りでスマホを探していると、フカリと柔らかい手触り。このシルキーな感触は間違いない。忠太だな。目眩ましの仕返しに無言のまま指で脇腹辺りをくすぐると、尻尾らしきものが私の指をピシャリと叩いた。
「痛……くはないけど、何だよぉ忠太。つれないじゃんか」
口先だけの文句を言いつつ叩いてきた尻尾を指に絡めて軽く引っ張ると、今度は「キキッ!」とやや強めに注意されてしまった。スマホから声が聞こえてこないところから察するに、サイラスとのビデオ電話は一旦切られたっぽい。忠太がフリック入力でもしてるのか?仕方がないのでちょっかいをかけるお許しが出るまで視力回復に努めることにした。
目頭を揉みながら忠太の残像を振り払うことしばらく。目蓋を閉じていても分かる輝きが、胸元をよじ登ってきて巾着に戻っていく感覚があった。せっかく明滅しなくなったのに……と思っていたら、服の裾をちょいちょいと引かれて。目蓋を持ち上げると、いつの間にゴーレムの肩から降りてきていたのか、金太郎がスマホを立てて読めとジェスチャーしていた。
しかし金太郎の場合はゴーレムの上にいたから光に目をやられなかったのか、ボタン製の目には効かないのか判断がつかないな。仲間と敵を見分けられるから視力はあるんだろうけど。するとそんな余計なことを考えていたのがバレたのか、軽く膝にパンチされてスマホを見ろと押し付けられた。
「ごめんごめん。すぐ読むから待ってくれな」
言いながら受け取ったスマホの画面に視線を走らせる。そこには気遣いの出来るハツカネズミが箇条書きにしてくれた質問内容がみっしり載っていた。全部ひらがななのが玉に瑕だけど、人型になって話してもらおうにもハツカネズミの状態であれなのだし、無理だろうな。何よりも本ネズが人型で輝くのをとても嫌がる。
アイドルのパフォーマンスだと思えばワンチャンあるかもと考えたが、やっぱり人型の大きさであの輝きを放たれると目がヤバそうなので、大人しく残されたひらがなメモを漢字混じりのものに手直していく。打ち直しながらやっぱり忠太の方が自分より頭が良いことに苦笑してしまった。
「ありがとな忠太。これでテンパらないでサイラスに質問出来そうだ」
胸の巾着袋を突いてそう言葉をかけると、おそらく忠太の手(前足)だろう。小さな感触が巾着の内側から指先を握り返してきた。さっきの尻尾でペシッとやったのを気にしているのかもしれない。指先をニギニギしてくる力の加減まで可愛いけど、早く光らないようになって巾着から出してやりたいな。
金太郎は背の高いゴーレムが気に入ったのか、私がスマホの内容を読み解いたことを確認すると、またスルスルとゴーレムの肩口まで戻っていく。まるでアスレチックか、フリークライミングにハマった子供だな。
取りあえず放送事故で途絶えてしまったビデオ電話をオンにして、再びサイラスに繋いだ。すぐに画面に現れてくれたものの、ゲーミング光を用心してか目にタオルを巻いて出てきた。何か……これから沈められる人の残すダイイングビデオみたいで嫌だな。特に自分と同じ姿だと。
「な、なぁサイラス? もう光の心配はいらないからさ、そのタオル取ってくれよ。絵面が不穏っつーか、不安になるから」
「〝はぁ、ですが……本当にもう先程のようなことは起こらないんですね?〟」
「ん、大丈夫。さっきのは私の説明が下手すぎて忠太が出てきてくれただけだ。もう質問もまとめてあるから光が治まるまでは出てこないよ」
「〝それでしたら、分かりました。質問の続きをどうぞ〟」
そうまだ心配そうな声を出しながらも目隠しを外してくれたサイラスに向かい、忠太からの助言を下に起こした質問を読み上げた。内容は――、
①過去にも学園に入学した転生者がいた可能性。
②その転生者がサイラスの守護対象者であった可能性。
③学園で読んだゴーレムの作り方が載った本を知っているか。
④作ってみたゴーレムが最初に動く条件が違う理屈知ってる?
⑤学園のダンジョンにはなくてこのダンジョンにはある試練とかって存在するの?
⑥試練への〝攻略の順番〟についての失敗談とかあったら参考に聞きたい。
⑦ダンジョンに一部ホラー要素のある部屋や魔石がある部屋があったのだが、あれはランダム?
この七項目。こうやって文字にしてみると、これをすべてすっ飛ばしてあの質問をした時に忠太が飛び出してきた理由が分かるな。馬鹿か私は。画面の向こうでサイラスはこちらの質問の一つずつに律儀に頷き、答えを考えているようだった。
時間にして十分もかからずに「〝では一番から順にお答えします〟」と言われたのには少々驚いたが、頷いて続きを待つ。
「〝まず一番から三番までの答えは【はい】です。これでも当時は優秀な生徒と従魔だと言われていました。四番については製作者と術者に別れる製法と、一人でどちらもこなせる者によって変わります。あとは五番と七番も【はい】ですね。六番は長くなるのであとでPDFにして送ります〟」
「成程。それじゃあ一個ずつ深掘りしていくな」
こちらの言葉にサイラスは「〝どうぞ。やっと誰かにあの子のことを聞いてもらえるのですね〟」と答えた。そして私の皮をかぶったサイラスは、そこだけは本蛇のものらしい縦に瞳孔のある瞳で初めて朗らかに笑った。
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