第172話 一人、説明不足にも程がある。


 パッ、パッと、不規則なリズムでダンジョンの壁が虹色に輝く様は、プロジェクトマッピングみたいに見えなくもない。スマホから流れてくるご機嫌な転売ヤー処刑メロディーも相まって、こう、田舎のよく分からないご当地キャラがいる遊園地未満って感じ。


 その光源の元となっているのは私が首からさげてる黒い巾着なんだけど、内側から時折「〝チュウ……〟」「〝チチッ……〟」と悲壮感漂う声が聞こえてくる。別に巾着に命が宿ったとかわけではなく、中でゲーミングカラーに輝くハツカネズミがいじけているのだ。安定の不憫可愛い。巾着の口を開けて覗きたくなるところを、グッと我慢する。


 金太郎が私の肩に飛び乗って巾着の中を覗こうとしてくるが、ここは死守。面白がっているのと心配してるのが半々だからなぁ……。


 あのマジック・マッシュルームと呼ばれる魔力増幅キノコのソテーを食べて十分後、忠太が突然エレクトリックな輝きを放ち始めた。人型のままパレード感のあるゲーミングカラーをダンジョン内で振り撒かれると、当たり前だが魔獣を引き寄せやすい。あと普通に忠太本ネズがその状況に耐えられなかった。純粋に羞恥で。


 しかし忠太いわく味は良かったらしい。エリンギっぽく見えたものはクリーミーで、シメジっぽいのがスパイシー、エノキっぽいのはハーブの味がしたそうだ。どれもゴーレムに生えていた時は小さく見えたけど、もらってみたらどれも一本で一抱えくらいの大きさがあった。各一種類くらいで止めとけばよかったんだが……食い意地が出ちゃったのは、いつもの忠太を考えれば仕方ないな。


 言い訳をするつもりはないものの、元の魔力量を考えたら忠太が食べるべきだと思ったし、その判断は間違っていなかったことは、数分後にスマホに通知で届いた数値からも分かる。でも絶対駄神はどこかでこの状況を笑ってるんだろう。シバきたい。


 でも何よりも謎なのは、膝を抱えているゴーレムの隣で一緒に座り込んでいる現状なんだけどな。キノコの(巨)原木と背中合わせな気分。


「〝あの……すみません、チュータ。まさかそんなに輝くとは思わなくて。僕の時はここまで光らなかったものですから。貴方の能力値が高かったからこそです〟」


 スマホから本当に気の毒そうなサイラスの励ましの声が聞こえてきたものの、真っ黒な遮光布で作った巾着が内側からボスッと蹴られて揺れただけだ。これはかなり拗ねてるな、無理もないけど。


 ちなみに巾着の製作時間は十五分。小さいとはいえ、袋小物の製作時間がかなり早くなった実感がある。忠太にはその間は伏せたアルミ計量カップの中で待機して頂いていた。まさかダンジョンの地面にダイヤモンドの輝きが灯るとは思ってなかったが。


「サイラス、この効果ってどれくらい続くものなんだ?」


「〝僕の時は一時間くらいでした。おそらく今回も同じくらいだと思いますが……食べた量が……〟」


「だってさ忠太。ここまで結構頑張って進んで来たんだから、ここらへんで休憩すると思えば良いさ。ファーム・ゴーレムもまだ話し相手がほしいみたいだし」


 そう言いながらチラッと隣のゴーレムを見上げるが、LEDカンテラで私と自身の周囲を囲んでご満悦そうだ。魔法陣から一緒に召喚されたみたいな状況だけど。薄っすらと苔むしたその身体からは、早朝の朝露に濡れた森の匂いがする。巨体の割に小さな頭部に嵌まった白い石の目(?)がこちらを見下ろしていた。


「――……まぁ、何て言ってるのかまでは分からないけど」


 分からないなりに、敵意がないというのは何となく分かる。サイラスの言うように知恵があるというのも頷けた。すると金太郎が私の肩からゴーレムに飛び移り、その巨体を駆け上がっていった。頂上を頭と仮定するなら、その手前の肩口までを登りきった金太郎に下から拍手を送る。


 ちょっとサイズ感がおかしいけど、ラピュ○のロボット兵とキツ○リスの関係性に見えなくもない。ゴーレムは登ってきた金太郎に視線を移し、興味深そうに見つめている。そこでふと〝これ、もしかして質問する良いタイミングなのでは?〟ということに気付いた。


 スマホに映る私の姿を真似たサイラスは、二体のゴーレムをどことなく微笑ましそうに眺めている。その目を盗んで巾着に唇を近付けて、忠太に「好機っぽい」と囁やけば、中から「〝チチチッ!〟」とやや張りのある鳴き声が聞こえた。うむ、我が意を得たり。では――。

 

「なぁ、サイラス。今このゴーレム見てて質問したいことが出来たんだけど」


「〝はい、何でしょう?〟」


「このダンジョンってさ、お前がいた時から、こういう変わったのが出てくる隠し部屋が多かったりするのか? それも変わった現象が起こったりするようなの」


「〝ええ、僕が守護精霊だった頃から割と運試し要素がありました〟」


「じゃあ、たとえばその中で、元々命がなかったものが勝手に動き回る部屋とかってあったりした?」


「〝ありましたよ。そもそもそこにいるゴーレムからして元は土人形ですから。懐かしいですね〟」


 こちらの質問に答えてくれるサイラスに対し、段々と心音が早まっていく。それでも努めて冷静さを装いながらいくつかゆっくりと質問を重ねていき、答えの範囲を狭めていく中で、ついに核心をつく質問に触れた。


「ええと、あの、あー……このダンジョンで、私みたいな転生者が一からゴーレムを造ることって可能なのか? 金太郎みたいな」


 最後の最後でグルグル考え過ぎて色々すっ飛ばしてしまった私の問いかけに、巾着からゲーミングカラーハツカネズミが飛び出してきた。

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