第129話 一人と一匹、そういうとこだぞ。


 違法ダンジョンで素材を集め始めて二週間。


 注文のうち攻撃用の護符三点は六日目には完成して出荷。忠太が冒険者ギルドに加入してくれたことで怪しい材料も入手可能になり、資金も潤沢に。ゴルギスとかいうサソリに似たあれは、忠太の見込み通り高値で売れた。毒と毒針は需要が多いのに仕入れられる量が少ないらしい。


 他にもパラミラとは違う地蜘蛛タイプで糸を吐かないモーメットや(溶解液)、蝙蝠に似た姿なのに皮膚がやたらと固いガガモ(牙と爪)とかいうのもいて、どれも財布に美味しく頂いたものの、その分人型忠太のギルド露出は増えた。


 それによりプレートに施される刻印はどんどん複雑になっていく。性質によって模様は違うそうだが、忠太のプレートは雪の結晶や水の波紋で彩られていた。このプレートは特に何か力があるわけではないのだけど、能力が高い冒険者ほど宝飾品の体をなしていくらしい。


 未だに金太郎の後輩は眠ったままだが、特殊アイテムに困らないのでダンジョンに行くのは日課になっている。毎日背負子に乗せた後輩の顔を覗き込む金太郎のためにも、早く残留思念が宿ってくれることを祈る日々だ。


 そんな金太郎を見ていたら私も忠太も情が移って、シル○ニアのお家(中古)をフリマサイトで買って壁をぶち抜いてリフォームしたり、空いた夜時間で自作した家具を置いたりと、初孫を待つ祖父母かというくらい落ち着きがない。


 その他の時間は概ねこれまで通り――……ではなく、外が明るい隙間時間はがっつり家の改造にかけている。幸い現在は夏。朝の四時半から五時には外が明るいのだ。先日改修したウッドデッキには、ホームセンターの庭用品セールで購入したテーブルと椅子のセットが置いてある。


 それに藤棚を仕立てる用のアーチと、庭木セールで憧れのブドウの苗木も。今は緑の指の力でもう房をつけている。収穫まではまだ少し足りない。お金は大事に使いたいが、欲しい物や必要な物はケチらず購入……したい。するぞ、うん。


 王都から無事にコーディー達の馬車も帰ってきたこともあり、千四百万が振り込まれた。ついでに双子からの手紙には――、


 〝送ってくれたホシイモとアサヅケ、凄く美味しかったんだけど、ヨーヨーとローローに半分も取られたわ!!〟


 〝次は倍量……ううん、倍量の倍量欲しいわ。お金は今回来てくれた彼に渡すから是非お願いね〟


 という思ってた通りの反響があり、コルテス夫人からは〝次回から保冷庫一台分注文したいわ〟という無茶振りも。流石はお貴族様。次はブラントに専売は駄目だとやんわり断りを入れてもらえるよう頼まねば。


 何にせよ王都遠征組は大戦果を上げた。持ち帰った荷物もこっちの市場で飛ぶように売れて、もう次に遠征する荷物の選別に忙しいようだ。ずっと重かった肩の荷がやっと降ろせて嬉しい。お金の回し車が回り続ける様は楽しくも恐ろしいが。


 ――まぁ、そんなこんなで。最後に工具が夏休みに子供とDIYを楽しめという商業戦略にまんまと乗って、あるものをドドンと購入した。そのあるもので作ったアイテムのおかげで生産力がグッと上がったものがある。


「うん……良い匂いです。蜜が染み出してますし、串もスッと通りましたね。マリ、午前中分の焼きイモが焼けましたよ」


「えーっと、合計で四十本か。こうしてみると結構な量になるよな。人化して焼くの手伝ってくれて助かったよ忠太。それにしてもやっぱ作って良かったなぁ、このドラム缶型石焼き芋機」


 早朝六時の焼き芋は空きっ腹に効く。こんなの森の中でなければテロだ。思わず一本くらい――と手を伸ばしかけて何とか踏み留まる。売り物は廃棄ギリギリのやつしか食べちゃ駄目。煩悩よ去れ。


「缶を切るのとハンダ付けには少々手間取りましたが、工具類が充実したわたし達の敵ではありませんでしたね。これなら一気に大量に焼けますから、その分の時間を他の作業に使えますし」


「ほんとハンダ付けセット買って良かったよな。使ってる時の臭いがヤバイけど」


「でもおかげで注文分のティアラが一個あっという間に出来ましたからね」


「鉄製のティアラは初めて作ったけどな。今日この焼き芋と浅漬けをエド達の店に納品したら、店の留守番は引き続き後輩を愛でてる金太郎に任せて、冒険者ギルドにティアラの納品に行こう」


 頼まれたのはチャラチャラしてない強そうなティアラ。注文者はギルドにいるプレート刻印師の新郎と冒険者の新婦だ。ちなみに新婦の仕事は女戦士。厳ついティアラは彼女の好みである。


 歯車とビスとネジで出来たティアラは要望通り厳つい材料を使ったけど、結構繊細に出来た。特に銅製の金網をレースに見立てた部分や、サイドを飾った鍍金と鉄色の歯車で作ったバラの部分。ゲームで見る豪華な女性用装備って感じ。


「あのティアラなら、今後女性冒険者の前衛の方から予約が入るかもしれませんね。女性用でもフルプレートは武骨な物が多いですから」


「頭部にちゃんと覆いとかつけたらありかもな……あ、」


 気を抜いた瞬間空っぽだった腹が盛大にグウゥゥゥゥと鳴った。第二波を止めようと腹筋に力を入れるもグキュウゥと情けない音が無情に響く。人化しても本質は変わらない。要するに忠太の耳にこの音が届いてないわけはない。


 空腹になるのは生物として仕方ないけど、売り物の匂いで腹を鳴らすとか格好悪すぎだろ……と。


「わたしのお腹の音聞こえちゃいましたよね。すみません、どうにもお腹が空いてしまって。でも商品の味見は必要ですよね?」


「え? いや、今のは私の、ていうか味見って言っても――、」


「こんなこともあろうかと、一緒に売り物にならない小さいサツマイモを仕込んでおいたんです。確かこの辺に……ああ、ありました。これですこれです」


 そう言ってアルミホイルに包まれたそれを焼け石の中から取り出した忠太は、ニコニコしながら「さぁどうぞマリ。保冷庫にお茶も冷やしてます」と差し出してきた。その気遣いに腹の虫がときめいて鳴いたのは不可抗力だこのイケネズミ。

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