第115話 一人と一匹、スローライフ代表。


 オニキスの門出を寂しくもめでたい気持ちで寝落ちするまで飲んだ翌日。


 二日酔いで痛む頭を押さえながら前夜の記憶に従い、ハツカネズミの姿に戻っていた忠太と、ポテチのカスでデコられた金太郎と一緒に、スマホ画面に踊る〝アーカイブが更新されました!〟をクリックした。


 のり弁な頁の中で唯一情報が閲覧がほぼ可能になっているところを見つけ、内容に視線を走らせる。


◆◆◆


 守護対象者 フレデリカ・ラッセル

 最終称号  救国の聖女

 特殊スキル 緑の指 成長促進 絶対治癒 結界 ??? ??? ???

 加護輝石  有


 守護精霊  オニキス

 属性    土


 ₫₪₪ψΨ/ΦΔΔ使用可能魔法

 ¤φ¤₫◆℘ψ₪回復魔法 ??? ???

 ∑φ¤₫◆℘ψ₪攻撃魔法 ??? ???


 最終階級  ₣₱₪₷◆₢₪₢▲中級守護精霊₣₱₪₷◆ψ₢ψ▲準上級守護精霊

 

 ΨΦΔΔ■ΣΨΦ ΔΔΦ//ΨΨΦ ∞∞∞ 


【超特種条件クリア】

 転生者救済イベント〝ねじ曲げられた歴史〟を解決。

 

 オニキスから以下の人物へ譲渡するスキルがあるようです。

 譲渡するスキル>>>緑の指

 譲渡される対象>>>マリ


 スキルを受け取りますか?

 >Yes

 >No


◆◆◆


 所々情報開示されていないものの、解読出来なくても困る項目ではなさそうである。大体同じタイミングで読み終わったっぽい忠太がこちらを見上げ、小首を傾げた。この反応も大体同じだ。


 いきなりスキルの譲渡とか表示されても何のことかさっぱり分からない。そもそもそんなことが出来るのか? 少なくとも駄神からそんな話は聞いたことがない。


 内容からしてたぶん画面のYesかNoをタップすれば良いんだろうが、受け取ったことでオニキスの身に何か起こるかもしれないとなると、安易にタップするのもなと思っていたら――……金太郎が押した。


「ちょおぉいぃっ!?」


 慌ててスマホを取り上げたものの、時すでに遅し。僅かな読み込みのあと画面に〝受理されました。スキルの持ち主の書き換えを行います〟の文字が現れた次の瞬間、昨日胸ポケットに入れたままになっていたオニキスのブローチが光を放つ。


 このまま爆発するのか!? と胸ポケットから取り出して、遠くに投げかけて、いやでもと躊躇っている間に謎の光は収まった。


「な……何だったんだ、今のは」


 ファウルをやらかした金太郎にお仕置きのデコピンを食らわせつつ、ドッドッドとアイドリング音みたいな音を立てる心臓を押さえてそう呟けば、いつの間にか肩によじ登ってきていた忠太がスマホ画面を指差す。その動きにつられてスマホの画面に視線を戻すと、そこには今し方もらった(?)スキルの説明が。


 端的に言うとこの新スキル【緑の指】は〝物凄い植物育てるの得意になるぜ〟と、いうものらしい。薬師だった聖女にとってはこの上なく便利なものだっただろう。園芸好きや農家の人なら絶対欲しいスキルかもしれない――……と。


 そこでふと昨夜酒に酔って忠太とした会話を思い出し、ついでに問いかけに対する答えを思いついた。オニキスの心残りを解決した今、次にやってみたいことを。


「忠太、昨夜言ってた全然違うことに手を出すってやつ思いついたぞ。次は家庭菜園って……あー、つまり畑がやってみたい。あれって生活に余裕のある人種がやるイメージがあったからさ。ちょっとだけ憧れがあるんだ」


 そう告げながらスマホの画面をメッセージ機能に切り替えて向けると、やや困惑顔のハツカネズミは【はたけ こちらのせかいだと ろうどうですが】と打ち込む。うん、冷静に指摘されると確かにその通りだ。普通にやればかなりな重労働。


 前世も農家というありがたい生産者さん達がいたおかげで、毎日スーパーに食材が並んで飯が食えていたわけだし。でも家庭菜園というのはもっと何かこう、夢があるのだ。やったことないからかもだけど。


「そうだけど、そうじゃなくて。卸売りする目的で作物を作らないっていうやつ」

 

【おろしうり もくてきでない ろうどう ですか】


「えーとな、家庭菜園ってのは自分の好きな野菜とか花とか果物なんかを作る趣味? みたいなやつだ。人によっては知り合いなんかに配って楽しむ」


【ほう では ほどこすのも しゅみの いっかん】


「いや施すって言い方ぁ。別に慈善活動ってわけじゃなくてだな、相手が美味しいって言ってくれるまでが楽しみって人もいるんだよ。まぁ実際にやってみれば分かるって。たぶん」


 自分で言いながら半信半疑な私の内心を見透かしたように大きく頷く白い毛玉。デコピンで転げた金太郎を見下ろしつつ【まりが そこまで はしゃぐなら とめるわけ ないです】と打ち込まれて、何となく気恥ずかしくなった。


「べ、別にそんなはしゃいでない。でも、その、あれだ。ホームセンターでも苗とか土は取り扱ってるけど、どうせやるなら種苗専門のところが良いよな!」


 我ながらわざとらしいと自覚しながら話を進めるも、どこか生暖かく見える視線を向けてくるハツカネズミと羊毛フェルトのゴーレム。おまけに【では てはじめに なにを うえたいですか】と打ち込まれて、いよいよ子供扱いされている気がしないでもない。


「あぁ……それなんだけど実はもう決めた。忠太と一緒に食べたい物」


【おや そうでしたか ちなみにそれは どんなものでしょうか】


「火に突っ込んで焼くだけで、貴族が食べる菓子よりずっと旨くなる凄い芋だ。成功したらレティーの機嫌も絶対直る」

 

 ニヤリと笑って忠太と金太郎に大見得を切ったが勝敗は勿論ある。ジャガイモが覇権を握るこの世界で、前世の作物を改良することに異常なまでに熱意を燃やした国の民らしく。


 煮ても、焼いても、揚げても旨いけど。ここは一ついざシンプルに。甘い甘いサツマイモを使ったねっとり濃厚な焼き芋が食べたい。

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