第101話 一人と一匹と……君の名は。
スマホからファンファーレの音が鳴り響き、もはやお馴染みの『おめでとうございます!!』という爆音の祝福。毎度祝われてるはずなのに、軽く殺意が湧くのはどういうことなんだろうか。
このデジャヴ感に、さすがにもう忠太が仰向けに倒れて動かなくなったりすることはなかったが、つくづく使い回しが雑すぎだと思う。代わりに驚いた様子を見せたのは金太郎と紅葉だ。
生まれが特殊な金太郎はともかくとして、私と似た境遇でこっちの世界にきた相棒がいたはずの紅葉が驚くとなると、聖女様とやらはスマホを持っていなかったに違いない。これと忠太に依存しきっている私としては、それだけで聖女を崇められる。うちの駄神に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。
でもそのおかげで直前まで流れていた気まずい空気も霧散したから、今回ばかりはあの駄神も良い仕事を――……してないな。
「ああー、急に大きな音がしてびっくりしたよな? 別に飛びかかってきたりしないから大丈夫だぞ。特に金太郎。絶対にこれに攻撃してくれるなよ?」
【とくべつしよう すまほですが きんたろうの ぱわー たえられるか ふめいですので ね こぶしおろして】
プルプル震えながらスマホを凝視する金太郎を慌てて両手で包んで遠ざける。こうなってくるともう酔いも完全に覚めてきたな。紅葉は窓から興味津々で事の成り行きを見守っているのが救いか。だが続く内容にさらに呆れたので音声読み上げ機能を切った私は悪くない。その内容というのが――、
『最近異世界の文化に触れる機会がありまして、少々貴女達の観察をする期間が開いてしまったようです。しかし貴女のいた世界は凄いですね。画面の向こうに色々な神や天使を名乗る者達がいるとは。興味深い――と、まぁそれはそれとして、新たに加算されたポイントのオプションを選んで下さい』
これである。スマホの画面からその馬鹿げたメッセージを消す。画面には早分かり守護精霊ポイントシステム表と、新たに得られるオプションが表示されている。その下には参照用なのかこれまで得たオプションやら、特種条件クリアオプションが記載されていた。
一旦画面を閉じ、メッセージ機能を呼び出して忠太の方へ置くと、短い手で腕組みをしたハツカネズミは、やや悩んだ様子で【まさかこれ ぶいちゅーばーの ことですかね】と打ち込んだ。まさに私もその可能性に思い至っていた。
「たぶんな。赤スパチャで破産すれば良いんだよこんな奴は」
【かんぜん どういです こういせいれい みんなが こうではない はず】
完全にシラけつつもポイントに罪はないどころか、これは受け取って当然の権利なので、サクサク使って還元させてしまおうと画面を覗き込んだ。
◆◆◆
【称号=加護持ち見習いハンドクラフター】
素材コピー初級☆6(一日十八回まで。簡単な造形に限る)
一度作ったアイテムの複製☆7(一日二十一個まで。高レア品は不可)
レアアイテム拾得率の上昇。☆5
体力強化(体調不良時に微回復)☆2
手作り商品を売るフリマアプリで新着に三十分居座り続けられる。☆
着色・塗装(ただし単色無地に限る)☆2
製品耐久力微上昇。☆2
対象者の内包魔力量の増加。
アイテムに対しての全属性付与可能。
低レベルのレアアイテムを使った作品の複製が可能。
今までに訪れた場所であれば転移出来る。一度に三ヵ所まで選択可能。
悪意ある第三者の干渉が認められる場合、守護精霊ポイントに加算。
現地の言葉を話せるようになる。
現地の文字を書けるようになる。
現地の計算方法を身に付けられる。
現地の歴史について身に付けられる。
ーーーー
守護対象〝マリ〟の生涯獲得ポイントが更新されました。
ΨΦΔΔ■ΣΨΦ ΔΔΦ//ΨΨΦ 80000PP+
称号が【加護持ち見習いハンドクラフター】から【加護持ちハンドクラフター】にランクが上がりました! おめでとうございます!
成長特典として良く選ばれているラインナップの素材コピー初級☆6を、☆4ランクスキップします。おめでとうございます! 素材コピースキルが中級になりました! 一日に五回まで少し複雑な構造の素材コピーが可能になります。
☆新たな称号【トリックスター】が加わりました!
☆新たな称号【バーサーカー】が加わりました!
☆新たな称号【精霊テイマー】が加わりました!
ーーーー
今回生存目標である第四難関〝深淵のたもと〟をクリアで入手。
守護精霊のカラーチェンジが可能。
ライブラリーの一部閲覧が可能。
商品カタログ作成が可能(手元にアイテムがなくても複製が可能になる)
アイテムボックスの使用が可能。
衛生魔法が使用可能。
なお、新しい称号を得たことで加護オプションにつきましては、上記のいずれかを二つお選び下さい。
◆◆◆
色々と通知を溜め込みすぎてスマホが震えっぱなし問題が発生した。何かここまで震えると元が精密機械だし、爆発しそうで怖いすらある。しかも――。
「見辛いな……相変わらず画面がうるさい。絵文字はないのにおじさん構文感があるのが不思議だ」
文面を強調させたいのだろうが、文字の大きさを無駄に変えてあるからどうにも読みにくい。そんな私の言葉に頷く忠太と金太郎。疑うまでもない同意に精霊同士でも分からない壊滅的なセンスの持ち主である駄神が若干哀れになった。
「おまけにまた読めない文字があるし……何なんだよ。そういや紅葉はこれ読めたりするのか?」
前回に続き忠太も読めない精霊文字が出てきたので紅葉に見せるが、反応はやっぱり同じ。中級精霊とはいえ高位精霊の文字は読めないのだろう。ゆるりと首を横に振る紅葉に思わず溜息が出た。
「一番上は……何だろ? カメレオンの従魔が羨ましいとでも勘違いしたんだろうな。あれは能力が便利で良いって言っただけだろ。第一もし仮にそうだとしても、忠太を夜店のカラーひよこみたいにしてたまるかよ」
これにもまた眉間に皺を寄せて頷く忠太。ハツカネズミなんだからといって白でなくとも良いけど、ピンク色のネズミになった忠太の姿を思い浮かべてみたものの、あまりのしっくりこなさにこれ以上考えることを放棄。辛うじて働く部分を動員してオプションスキルに視線を走らせた。その結果。
「この〝ライブラリー〟っていうのが気になるな」
画面の一行を差して一匹と一体と一頭の方を見れば、全員首を縦に振る。国会風景ではまず見ない満場一致に嬉しくなった。
「じゃあこれで決まりでいっか。えぇと【ライブラリーの一部閲覧が可能】と、」
――が、目当ての項目をタップした直後、ザーッと画面が砂嵐一色に染まって一瞬駄神への殺意が高まった。幸いすぐに砂嵐が止んだので一度は引っ込んだものの、やっぱり次の殺意がすぐに湧いてきた。
「あの駄神……何がライブラリーだ。ほとんど黒塗りのり弁状態じゃないか?」
過度な期待は駄神相手にしたりしない。けれど正直ここまでとは。一頁目からいくら指で頁をスライドしても読める情報がほとんどない。時々読めるのはほぼこちらと同等の人生レベル初級者。
力に驕っての破滅、病気、事故などの中に混じってたまに【一般人として埋没。以降追跡するのが面倒になって観察を終了】なんてものもある。基本的に高位精霊達は飽きやすいようだ。小動物の面倒とかは見れなさそう……って、今の私達がまさにその立場なんだよなと思ったその時、ある一行が目に留まる。
【アシュ**の森・聖*〝*****〟**従***名は――、】
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