第99話 一人と一匹、同業種と交流する。
唐突な
あの後は賊に襲われることなく、無事当初の目標であった漠然とした〝次の町〟レヴィンに到着した。規模としてはマルカの町より少し大きいくらいの、これといった特色のない普通の町だ。
ちなみに荷物を運ぶ馬がいなかった割に早く到着出来たのも、新たな賊に狙われなかったのも捕まえた賊のおかげである。奴等が脱走出来ないように縄で繋いで荷物を背負わせたのは正解だった。道中の見た目的に賊に対しての抑止力にもなったのだろう。ついさっき悪態をつきながら役人達に引き取られていった。余罪やら隠れ家やらを吐かされるに違いない。
護衛してきた職人と商人の奴等は、宿屋の確保と町の商品研究のためにバラけて行動中だ。そんな状況で私達は冒険者ギルドの外で換金の出待ちをしている。通り過ぎていく人達の視線が奇抜な服装の私と紅葉を交互に見ていく。
どうやらこの格好にした効果はあったようだ。あからさまに怪しい見た目の紅葉が、私の服装でどっちが怪しいか悩む程度まで中和されているってことだからな。作務衣ってこっちの文化だとそんなに奇抜なのか。
慣れれば楽なのになぁとかぼーっと考えていたら、襟首に挟まるように両肩で待機していた忠太と金太郎が、両側から頬をつついてくる。可愛い待ち人レーダーに反応して視線を上げれば、にこやかな表情を浮かべた依頼人――……チェスターがいた。
「お待たせしましたマリさん。これが貴方が捕まえて下さった計十二人分の賊の金額です。こちらの護衛契約書の写しと一緒にお納め下さい」
きちんと箔を捺されてサインの入った契約書を忠太に確認してもらい、文面に問題がないと尻尾で合図されたので、チェスターが差し出してきた皮袋を受け取ったのだが――。
「どうも……って、重。結構あるな?」
「それだけ皆、困っているんですよ。田舎からだと一生涯で王都へ行く人間はそこまで多くありません。そうなると自然、使わない街道の整備はあまりされなくなります。けれどきちんとした街道は通行料が高いので、わたし達のような駆け出しは続けて払えない――と。要は悪循環です」
「ふぅん、成程な。だったらこの報酬は妥当だと思って受け取っとく。逃がした奴はいないと思うけど、あれで全員ってことはないよな?」
「はい、残念ながら恐らくは」
困った様子で応じるチェスターの表情には諦めの色が滲んでいる。道中は聖女関連の話を聞こうにも、周囲の空気がギスりすぎてて結局聞けていなかったから、今が好機と尋ねてみることしにした。
「なぁ……あそこってさ、聖女? のいたっていう森が近いだろ。なのに何であんなに治安が悪いんだ? 本当だったらもっときっちり整備されてそうなのに」
現物を読んだことがないからカマかけみたいな形になったものの、それで通じたらしい。落ち込み気味だった表情に少し嬉しそうな笑みが混じった。ついでにいつもはふわふわしてる紅葉が珍しく馬銜を噛む音がしたけど、申し訳ないがそっちは今のとこ無視する。
「マリさんもあの物語をご存じなのですか。まぁあれは他国にも翻訳本が出ていますからね。それに関してならわたし一人に聞くよりも、他の仲間達も一緒の時の方が多くの情報を得られると思いますから、また夜に宿屋の食堂で話しましょう。貴方達の部屋もこちらで手配させて頂いておりますので。場所はここです」
やや驚きつつも興味は町並みに向けられているっぽいチェスターは、宿の名前を書いたメモを取り出してきた。
何でも良いから早く商売の役に立ちそうな情報を得たいという気配に、これ以上引き留めるのは気が引けたので「ん、分かった。じゃあまた夜にな」と返してメモを受け取った直後、気恥ずかしげに「ありがとうございます。ではまた後で」と応えたチェスターが市場の方に踵を返して消える。
「さて、それじゃあせっかくだし私達も勉強に行こうぜ。忠太達は何か気になるところとかあるか?」
【うーん では そざいや みにいってみたい うりねも かいねも とちによって ちがいます】
「そういえばマルカでこっちの薬草は高く売れたよな」
【ですです あのぎゃくも ありえますよ】
――という忠太の言葉を指針に路地裏に多い素材屋を探して潜ること数十分。そこそこ良さそうな店構えの小さな素材屋を見つけたので、紅葉と金太郎には外で待っててもらうことにして入店。
すると店内のカウンターでチェスターの仲間を一人発見した。思わず肩の忠太に「考えることは同じってことだな」と耳打ちしたら、小さな相棒は【さきをこされました】としょんぼりする。不憫可愛い。
そんなハツカネズミの顎を撫でてご機嫌取りをしていると、相手がこちらに気付いて会釈をしてきたので近付けば、その肩から忠太と同じくらいの大きさのカメレオンが顔を出した。従魔だ。
「あんたも来たんスね。ここ、結構渋い買い取りするみたいッスよ」
「そうなのか? だったら別の店に行くかなぁ」
「いやいや、早とちりは禁物。この店の主人目利きっぽいんスよ」
チャラい話し方ではあるものの、デレクと名乗った煮詰めすぎたママレードみたいな髪の色をした青年は、待ち時間が長いのは買い叩こうとしていると同時に、色々な商品の情報を書き溜めた目録を持っている証拠だと教えてくれた。
声を潜めて少し話ながら待つもなかなか店主が戻らないので、途中で「その従魔は何が得意なんだ?」と聞いたところ、デレクが「よくぞ聞いてくれたッス」と歯を見せて笑う。
デレク曰く相棒は最速の鑑定師だという。そこで物は試しと勧められたので、忠太と私はその話に乗った。私が差し出した魔石の欠片をペロリと一舐めした小さいカメレオンは、ジワーッとオレンジ色に変化する。
「お、この魔石は見たまんま火属性ッスね」
「じゃあこっちの魔石は?」
「えーと、これは……青よりの緑だから水属性らしいッス」
カメレオンの従魔に一つずつアイテムを渡すと、あっという間に簡単な鑑定が出来てしまった。非戦闘要員だし、鑑定方法が独特なところはあるものの、それを除けば非常に良い能力だ。
「ね、早いでしょ? 大抵の物はコイツに舐めさせたら鑑定出来るんで、ご褒美に虫の二匹でもやってくれたらいつでもどうぞッス」
「これは確かに助かるなぁ。有能すぎる」
「ワハハ、やったな褒められたぜ相棒! うちの連中は大体鑑定自分で出来るんで、あんまオレ達の活躍どこないんスけどね。同じ小さい従魔だったらそっちの子達の方が断然凄いッスよ。回復魔法と体術が使えるんですもん」
急に褒め返された忠太が【おほめに あずかり こうえいです】と打てば、デレクは「スゲェ!」とはしゃいだ声を出す。こっちも忠太と金太郎を褒められて悪い気はしない。しないけどまぁ――。
「自分と自分の相棒をそんな風に言うなよな。実際に私は自分で鑑定出来ないから助かったんだ。今の分の鑑定代も出すぞ」
「えと、その……あざッス」
買い取りを頼みに入った店で鑑定代を支払うという謎の出費はしたが、やっと奥から戻ってきた老店主はデレクの睨んだ通り、バシフィカの森で採れる一部の薬草と魔石は成分がどうこうだとかで、それなりの値段で売れたのだった。
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