第80話 一人と一匹と一体、虎穴を探る②
放課後ダンジョン攻略を開始して二時間。
薄暗いだけの人工的な空間に土と水の匂いが混じり始めた――が。
ドゴンッ!
ボグンッ!
ビシシッ!
ゴシャッ!
靴音とお互いの話し声の他は、ずっとこんな感じのBGMだ。基本ダンジョンの角を曲がって現れた瞬間始まるのは、少女漫画でお約束のパンを咥えてぶつかる運命的な出逢い……などではない。
頭の悪そうな擬音も、暴走トラックに突っ込まれたブロック塀が粉々になる音に似ていると言えば、その殺伐感も理解出来るんじゃないかと思う。決して私の語彙が死んでるわけじゃない。
相手は教師陣が若干授業態度の悪い生徒を思い浮かべつつ、勤務時間外に私怨で作り出したゴーレムで、その相手をするのは素材を探して彷徨う
なのでその例に漏れず忠太の覚えたての攻撃魔法で片腕の一部を吹き飛ばされ、怯んだ隙に金太郎の拳(?)に胴体を撃ち抜かれたのだ。こちらに気付く前に強襲された哀れなゴーレムに合掌する。血肉の通った系の敵ではないことに感謝だな。
「えーと……ゴーレムってこれで七体目、だっけ?」
「はい。大体は金太郎が初手で倒してしまったので記憶に残りませんよね。けれどだんだんゴーレムも硬い素材のものになってきましたから、レアアイテムを狙う道順的にはこちらで間違いないかと」
「それを言うなら忠太だって倒してるだろ。しかも忠太の攻撃魔法は格好いい」
「そ、そうでしょうか」
「おう。紫と青の火花とかって赤とか黄色とかより強そうだ。忠太の冷静な性格にも合ってるし、詠唱? の時の詩みたいなのも好きだぞ」
前世でも青い炎の方が赤い炎より熱いのは有名な話だった。忠太の使う魔法の火花は代わり花火や紫陽花っぽい。長く伸びる時に青白く尾を引くのも綺麗だ。今の言葉にそう込められたかは分からないが、忠太は嬉しそうにはにかんでいるから、まぁ伝わったと思う。
「何にしてもゴーレムの強さが硬さで決まるっていうんなら、金太郎は柔らかくて強いんだから不思議だよなぁ」
その柔らかボディから放たれた一撃で砕け散ったゴーレムを集めるシュールさよ。今回の素材は鉄に似ている。全部集めたらきりがないので、コアの部分に近い破片だけを集めつつ、遠くまで飛んでいった破片を集めている金太郎に「尖ってるから、身体引っかけるなよ」と注意をすれば、小さなテディベアは大きく頷いた。
「考えられるとしたらゴーレムの中は空ですが、以前も説明したように金太郎はマリが〝小さな神様だったものの、何らかの形でそうではなくなった残留思念的魔力〟を込めて出来ています。術師であるマリが〝金太郎だ〟と定めたことで、生徒達を追い回して経験値になる消耗品とは在り方が違うのでしょう」
「へぇ、そういうフワッとしたものなのか」
「フワッと……ええ、そうですね。わたしもこの器にマリが〝忠太〟と名付けてくれるまではフワッとしていたので、そういうものなのだと思います。下級精霊は上級精霊と違って〝概念〟があやふやなので」
確かに一緒にしゃがみこみながら欠片を拾うハツカネズミと同じ色の青年が、あの忠太と同一なのだと納得するのも大概フワッとしているのだろう。ひとまず周辺に飛び散った目ぼしい欠片を全部集め終え、新しいゴーレムの気配もしないので一旦休憩することになった。
金太郎の身体についた砂埃を歯ブラシ(新品)で払う私の横では、忠太が属性ごとに破片を選り分けてくれる。ちなみに上位互換ゴーレムは硬度が上がるだけでなく、二種以上の属性を持つ素材を練り込んで作られているそうだ。当然私にはさっぱりその違いが分からない。
糖分補給に口に放り込んだラムネ味の飴を奥歯で噛み砕きながら、金太郎にレベルアップがないのを気の毒がっていたものの、ふと〝あれ、自分も同じ立場なんじゃないのか?〟という疑問が沸き上がったので、改めてスマホで自分のオプションメモを開いてみた。
◆◆◆
【称号=加護持ち見習いハンドクラフター】
※低レベルのレアアイテムを使った作品の複製が可能になる。
【特種条件クリアオプション】
守護精霊の能力育成。←New
異世界思念のポイント化。←New
*****である第*難関〝望郷の継承?〟を***で入手。
現地の言葉を話せるようになる。
現地の文字を書けるようになる。
現地の計算方法を身に付けられる。
現地の歴史について身に付けられる。
対象者の内包魔力量の増加。
今までに訪れた場所であれば、一度に三ヶ所まで転移可能になる。
素材コピー初級☆6(一日十八回まで。簡単な造形に限る)
一度作ったアイテムの複製☆7(一日二十一個まで。レアアイテム品は不可)
レアアイテム拾得率の上昇。☆5
体力強化(体調不良時に微回復)☆2
手作り商品を売るフリマアプリで新着に三十分居座り続けられる。☆
着色・塗装(ただし単色無地に限る)☆2
製品耐久力微上昇。☆2
アイテムに対しての全属性付与可能。☆
◆◆◆
一応並べてみると項目だけは増えてはいるけど、今回の特殊条件の部分に文字化けがあって不安を煽る。特に読めるはずの内容なのに最後に〝?〟がつくだけで不穏さが際立つ。断言しろよ。何か怖いだろうが。
「こうして見ると結構駄神のオプションも貯まってきたな。腹の立つことも多いけど役には立ってるのがまた……悔しいっつーか」
愚痴りつつもう一つ飴の袋を破って口に放り込めば、仄かにイチゴの香料が鼻先を掠めて。視線を感じて顔をあげた先にはこちらを真っ直ぐ見つめる忠太がいる。
「与えられた能力が役に立っていると感じるのなら、それはマリの采配が正しいからです。高位精霊はその行動原理のほとんどが面白いか否かなので、ここまで生き抜いてこられたのはマリの努力のおかげですよ。ありがとうございます」
ふっと笑う気配と共に漂うブドウの香り。その表情と声の柔らかさに「おう」と返したものの、面と向かって言われると何となくむず痒い――と。金太郎が歯ブラシを私の手から奪い取って、熱心に頬を擦り始めた。
パラパラと何かが剥がれ落ちる感覚があったかと思うと、ブラシの先が土で汚れている。痒かったのは照れ臭さが原因かと思ったらこれらしい。
「そっか。だったらそろそろ感覚的に
〝するぞ〟と続けようとしたその時、今から向かおうとしていた通路の方から青白い光が射して。何の音も立てずに大きな鹿の形をしたゴーレムが現れたのだ。
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