第66話 一人と一匹、ゴーレムを作る②
「ダンジョンを利用する生徒の代表者はマリ、一緒に潜るのはラーナとサーラ、それから……
名前を失敬したロビンに心の中で感謝と謝罪をしつつ、サッと記入。冬季休校の時もダンジョンが利用出来るのはありがたい。受付は無人になってしまうけど、前世の登山の前に記入する登山計画書みたいなのを書いて、受付横にある届出箱に適当に放り込めば受理される。
ただし一つだけ違うのは、長期休校の場合はダンジョンの攻略に救済措置が設けられるらしい。例えば思ったより魔宝飾具が上手く出来ていなくてコアまで辿り着けなかったり、一人で潜って怪我をしたりした場合、自力脱出出来なかったら誰にも見つけてもらえないからだとか。
そうわけで今回は実技授業と違ってやや緩い心持ちでいられる。楽観的になりすぎない限り死なないだろう。
「昨日の今日でこの子がどこまでやれるのか未知数だけど、物は試しだよな」
「ええ。それに昨夜はこの方も荒ぶって眠れなかったようです。だからこそ暴走しないように、わたしがこの姿で同行させてもらうのですし」
「そこは本当にごめん。あとさ、性別どっちなんだろ?」
「わたしはマリに同行出来ることが嬉しいので構いません。それと性別については〝どちらでもあって、どちらでもない〟と仰ってます」
「ふぅん? ま、別にどっちかでないと駄目ってことはないからいっか。それよりずっとこの子呼びのままもなんだし、また名前を考えないとだな」
今日だけロビンな忠太の胸ポケットから上半身を出して、大きく頷くテディベア型の羊毛フェルト製ゴーレム(仮)。昨日爆誕したこの子は、忠太曰く小さな神様達とは少々異なる存在のものらしい。
何でも〝以前は小さな神様だったものの、何らかの形でそうではなくなった残留思念的魔力〟だという。要するに……あれだ……情報量が多くて自分でも何がなんだかよく分からない。特に悪意は感じられないというので、あの本の内容が本当なのか興味半分で今日のダンジョン入りを決定した。
――……まぁ、後は爆誕直後に作業台に柔らかい手でパンチを放って、作業台に私の拳より大きな穴を開けたので、無駄に漲っているやる気をどうにかさせようというのもある。
救済措置の擬似ダンジョンコアさえ持っていれば、マッピングいらずなスマホと途中必要な最低限の食料だけで良い。身軽に潜って少しでも採取で小遣い稼ぎをしないとな。
「昨日はこの子を一体作っただけで疲労困憊だったから手が足りないけど、ひとまず前回の部屋を目指して潜ってみようと思う。準備は良いか?」
「あたしは準備万端よ。目眩ましの魔宝飾具もバッチリ」
「わたしも同じくね。二重がけの性能をご覧に入れるわ」
頷き合う双子の肩では極彩色のヨーヨーとローローが、大きく羽根を広げて「「ウスグラーイヨ、アシモトチューイ!」」と注意喚起をする。慣れている双子と違って私と忠太はその声にちょっと驚いた――が。双子がオウム達の留まっている方の耳から耳栓らしき物を取り出して、ニヤリと「「特注品なの」」と笑う。
てっきり主従の信頼関係がなせるものかと思っていたので、普通にうるさいのだと分かって苦笑する。けれど忠太が「ヨーヨーとローローの言う通りですね。では行きましょうか」と穏やかに言う声を聞いて、人型でなくても話せる双子達が羨ましいなと、チラッとだけ思った。
一番前に血気盛んな羊毛フェルトのゴーレム、二番手にヨーヨー、次が私と忠太、その後ろを双子、一番後ろがローローという並びでダンジョンの中を歩くことにした。うーん、人外が多いな。
「なぁ、思ったんだけどヨーヨー達って鳥なのに鳥目じゃないんだな?」
「鳥に模した姿だけど一応はあれでも使い魔だから。本当に一応だけどね」
「寒さに弱いのはただの怠惰な性格のせい。今日は疲れて倒れた忠太の代わりに頑張らせるわ」
やった。こちらの読み通りだ。鳥目でないなら索敵は飛行系に任せた方が楽が出来る。オウムは猛禽類だから多少の戦闘はこなせるらしいし。とはいえ二羽の性格からして過度な期待はしない方が良いだろう。
相棒の双子からそんなことを言われては黙っていられないとばかりに「キコエテルゾ! キコエテルゾ!」「サムイノキライ、ダイキラーイ!」と喚く二羽。息ぴったりな分やかましさも二乗だが――。
「ヨーヨー、ローロー、もう少しだけお静かに。お二方の活躍を期待してはいますが、女性が多いので無闇な戦闘は避けたいです」
駄々をこねる二羽に対しても大人な対応。どこに出しても恥ずかしくない紳士なハツカネズミだ。ゴーレムも今のところは本にあった通り、コアに向かって迷いのない足取りで進んでいく。
――が、そこに「「ねぇマリ、ちょっと」」と後ろから声がかかった。忠太には聞かれたくないジェスチャーをされたので、忠太より半歩遅れるように下がる。
「まだ歩き始めたばっかだけど、どうした?」
「どうしたじゃないわよ。いつの間にあんな素敵な恋人作ったの?」
「しかもあのブローチの石なのに物腰穏やか。どこで知り合ったの?」
「いや、素敵も何もフードで顔見えないだろ?」
「「見えなくても分かるわ。女の勘よ」」
「女の勘って透視まで出来るのか……って馬鹿。確かにあいつは良い男だけど、今日はダンジョン攻略が目的なんだってこと忘れるなよ?」
――と、そんなことを言っていたら、折よく(?)前方から爆発音が上がって。一体目のゴーレム(ちゃんとした石像系)が腕を振り上げているところだった。
「テキシュー! テキシュー!!」
「ラーナ、サーラ、メクラマシフィールド、テンカイセヨー!」
それまで文句ばかりを言っていたオウム達の声を聞いた双子が、咄嗟に手持ちの魔宝飾具を翳し、私の腕を引いて壁際に身を寄せると、少し遅れて忠太が私達を庇うように背を向けて立ちはだかった。
その背中から顔を出して目を凝らした先。先頭で二メートルはあろうかという正統派のゴーレムと対峙しているのは、紛れもなくうちの羊毛フェルト製のゴーレム。まるで〝かかってこい〟とでもいうように手をクイッとやる羊毛フェルトゴーレムを見て息を飲む私の方を、半分だけ振り返った忠太が「始まりますよ」と。
そう唇の端を持ち上げたのを目にした直後、羊毛フェルトゴーレムが地を蹴って、石像ゴーレムに飛びかかるところだった。
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