第13話 一人と一匹、突貫作業に励む。
「おし……材料はこんなもんだな。早速始めるか、忠太」
【りょうかいです まり】
職人通りで得たヒントを早速形にすべく、一旦エドの店に戻って大まかな店舗の見取り図を描き、気になる棚や壁の長さを測って次々とメモ帳に書き込んだ。その作業中エドとレティーの親子は後ろで不思議がってたけど、説明する時間が惜しかったので後日すれば良いだろうとひとまず放置。
その後大急ぎで森に帰って手に入れた売上金の半分を材料費に回すという、回し車操業……もとい自転車操業に入る。買う物は帰り道で話し合いながらすでに決めてあったので、着手するのは早かった。
まず木材は前回手に入れた能力で素材コピーした細くて長い白木の角材、これを百均の魚焼き網の四辺の長さに合わせて切る。角材の中心部分を測った忠太が線を引いていく。そこをこれも百均の彫刻刀でもって溝を掘る。魚焼き網をその溝にはめて接着剤で固定。一応最初は十セットくらいで良いだろう。
次に刺繍枠に魚焼き網を挟んでグッと上から押す。枠からはみ出た部分をペンチでカット。これも十セット作る。魚焼き網を使ったアイテムには、それぞれ小さいアンティークフックをランダムにぶら下げる予定だ。
それとかけられるように金具のついた楕円やダイヤ型の軽量鏡を数枚。大きさはギリギリ顔の輪郭までが映るくらいの物。これには特に手をかける必要はなし。
次に色んなサイズと形の写真立てのフレームの中のカバーを外し、写真を入れる部分に大きさを合わせて切ったコルクを張り付ける。これは大体二十個。木製だったり真鍮製だったり、敢えて素材は揃えないで作った。
今度はさっき使ったよりやや太い白木の角材とミニすのこと、小さい蝶番。蝶番ですのこを四枚くらい連結させたものに、短く切った角材を張り付ける。そこにお尻部分に飾りのついたマチバリ型のピンを刺しておく。これは三セットで良いか。
あとはぶら下げられる木製の小さいカッティングボード。そこに余った角材を接着剤で互い違いに張り付け、角材の上に百均でよく見る指輪をはめる円錐型のオブジェ(?)を幾つか張り付けた。これは素材の余り頼りで一つしか作れない。
黙々と一人と一匹で作業を続けていたらいつの間にか背中がバキバキになって、スマホの時計を見たら作業開始から四時間が経っていた。日が長くなってくると、こういう時に困るんだよな。
ふと視線を上げれば、お徳用紙ヤスリで角材の継ぎ目や角を磨く忠太の背中がある。後ろから見えるヒゲはやっぱりというかピタリと動きを止めていた。熟練の大工の棟梁感を漂わせるその背中をつついてようやくヒゲが動く。
「おーい、忠太。ご苦労様、今日はここまでにしよう」
振り返った鼻先にスマホを立ててやってからそう告げると、忠太はよたよたと立ち上がって【そう しましょう】と何とか打ち込んだのち、ペタリとその場に崩れ落ちて寝息を立て始めた。
その可愛くて可哀想な姿を見ていたら何だかおかしくて。耳とヒゲに寝癖がつかないように仰向けに籠に寝かせてから、スマホで簡単に食べられそうな物をポチり、私もポップアップテントの中で仮眠をとることにした。
――ペチ。
――――ペチペチ。
――――――ペチペチペチ。
頬を雨粒が叩くような感触が煩わしくて寝返りを打ったら、耳の穴に耳かきの綿帽子を突っ込まれたような感触が加わって背筋が粟立った。
次の瞬間瞑っていた目蓋の裏側に光を感じて目を開けると、そこには枕元に常備してあるLEDランタンのつまみを捻る忠太の姿。その横にはすでにメール機能に切り替えられたスマホが転がっている。
「……今何時?」
【しんやの にじです】
「うわー……マジかぁ」
【まじ おそいですが ごはん たべますか】
「だな。寝落ちする前にラン◯パック買っておいたからそれ食べよう。で、風呂……じゃなくて、川に行って水浴びもしとこうか。この季節だと流石に汗で臭うから。あとで忠太用の水浴びカップ持つの忘れないように言ってくれな」
【りょうかい ぶるーべりー たべて いいですか】
「良いよ。忠太はそれ好きだもんな。私はピーナッツバター派だから。玉子とメンチは一個ずつな。合わせる飲み物はジュース? コーヒー?」
【こーひーで めがさめます】
「じゃあ私もそうするかな」
――と、そんな感じで寝惚けつつ一人と一匹で遅すぎる夕飯に、
でも口の周りをブルーベリージャムで紫色に染める姿は和むし、人と食べている雰囲気があってこっちの食も進む。前世だと四日間カロ◯ーメイトだけでも平気なくらい食に関心がなかった私も、忠太が初めての物を食べた時の反応見たさに、つい地雷っぽい新製品を探したりしてしまうくらいだ。
【あれ どうやって はこびますか】
「んー、一回で作りすぎたからなぁ。何回かに分けて持っていく。元の材料が軽いから背負えば大した重さじゃないしな。それより問題なのは、あれに展示する商品の数だ。結構作らないと見映えがしない」
【まりが つかう ちいさい あいてむ さがす がんばります】
「お、助かるよ。私のレジンアクセサリーの腕はまだ全然だから、忠太の探してくれるアイテム頼りなんだよ。ネットの人達ってどれだけ練習したんだろうな。まるで本物の花や宝石みたいなのまであるし」
【わたし まりの つくるもの すきです じうぶん きよう あたたたかくて やさしひ さくふう いいおもふ】
何か所々に古典味を感じる。寝起きのコーヒー効果は半々といったところか。でもそう言われて悪い気はしない。むしろちょっと嬉しかった。きっとここまでずっと一緒に頑張ってくれている忠太の言葉だからだろう。
紫になった唇の周囲を小さくちぎったティッシュで拭ってやりながら、ついでにヒゲについたパン屑を取ってやっていたら、その最中にスマホが鳴った。確かめるまでもなく、当然差出人はいつも通りだ。
「あ? いやいや、流石にこの短期間で早くないか? 前にメールが来たのってまだ一週間前くらいだろ」
思わず同意を求めて忠太を見ると、彼はサクッとメッセージを開いてザーッとスクロール。最後まで流し読みを終えたところでトップまで戻ってきてメール機能を呼び出し、またトトトッと文章を打ち込んで見せてくれた。
【ぜんかい おおものつくった あまり ぽいんと きょうのと がたい しゅうじゅくど あがてる らしき】
その内容を見て今度こそ我慢出来なくて噴き出したら、忠太は可愛らしく小首を傾げて。同時にじっくりと読み直した直後に涼しい顔で足りない文字を埋め込み、ススンと鼻をひくつかせた後【こーひーの りょうが たりませんでした】と、苦し紛れにそう打ち込んだ。
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