第11話 一匹が目指すもの。
――深夜。
前日の朝に届いたメッセージを思い出していたら何だか眠くならなくて。籠の中でクッションの下に頭を突っ込んで丸まっていると、急にマリが寝る邪魔になるからと音を消していたスマホが点灯しながら震えた。
マリが起きてしまう。咄嗟に籠から飛び出し、操作中の光で彼女を起こさないようにテントの外へ引きずり出したものの、小さな身体と短い手足で運ぶスマホは重い。テントからそれほど離れることも出来ないで力尽きてしまった。情けない。
せめてこんな時間に何の用件だったのかとスマホの画面に触れると、そこにはわたし宛の新着メッセージが一件届いていた。前日の朝に音声読み上げで発音することの叶わなかったそれは、精霊にしか聞き取れない
マリの耳ではどう聞こえたのだろうと思いながら、不格好な手でそっと画面を叩くとメッセージが開封された。
◆◆◆
₪■₰■₪₫℘℘₪₷₪
₪℘℘₫₪▲▼℘₪₪
₫■₪₪◆₰₷₰℘▼
℘₰₪₪₰₫■₪₪◆
◆◆◆
…………マリに読まれると困るなら、このメッセージも読み上げ機能を使う仕様で寄越せばいいのでは、と思う。高位精霊の考えることはよく分からない。
内容は名前と性別と現在の職業について触れられている。職業欄には下級守護精霊とあるけれど、ここはマリと同じ表記が良かったと思う。あんなに喜んでくれたのに違ったら、次にマリに同じだと言われても頷きにくいのに。
◆◆◆
₯▲√₹₪₪₰■
₣₱₪₷◆₪₪₷▲
₪₪₱▼₫₣₪■℘℘
℘₪℘₣■■₪₪₰℘
₫√₱▼▲▲₪₣℘◆
₪₣₣℘₪■℘?
999999999999999………………₪₹₰■₪₷■
◆◆◆
書かれている内容は主に守護精霊としての働きに応じて得られるポイントや、これまでに得られたポイント、その交換方法や今後取得したい技能に必要なポイントについて。昨日までに得たポイントを覗き込んだものの、それは本当に少なくて。望むものには全然足りなかった。
いや、この姿で言葉を話すだけなら足りる。
でも、この姿で言葉を話すだけなら不十分。
それならまだまだ我慢して、節約するべき。
精霊には他の生き物のいう寿命というものの感覚はない。ただ存在する。高位精霊ともなれば違うけれど、今のわたしのように力が弱い下級精霊は、意識の形もあやふやで、ぼうっとしてると世界の境界線に引き寄せられて消えてしまう。
でもだからといって下級精霊の知能が低いわけではない。ただ長く存在していると蓄積されるだけだとしても、生きる時間の少ない人間よりは物を知っている。
わたし。
ぼく。
おれ。
わたくし。
あたし。
われ。
じぶん。
この器に入った〝わたし〟も、元は個のない下級精霊。
マリに名前をもらったことで〝わたし〟になることが出来た。
一人称を選ぶのだけでも困難なのに、マリの魂を掬い上げたあの方は、それをとても簡単にして退ける。マリは呼ぶ。忌々しげにだけど神様と。守護精霊の存在は知らないようだったのに、あの方は〝神様〟という、マリの知っている中で最も到達出来ない高みの存在に当てはめられる。何だかずるい。
ずるいは嫉妬。
嫉妬は醜い。
それは分かる。知識として。でも理解をするには経験が足りない。感情や情緒は育つものだとスマホで調べた。マリといると嬉しくなる。嬉しくなるのは優しいから。優しいのは寂しいから。マリが寂しいのは――。
「
マリには笑っていて欲しい。
出来ることならこの世界で。
もっと出来ることなら隣で。
「
話がしたいです、マリ。
わたしも、あなたと同じ姿で。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます