ヘキがたわわ過ぎる木

灰崎千尋

やりたいこと全部やりたくなっちゃった

「もももの庭の物語」、お疲れ様でした。

 たくさん並んだテーマから選んで書くというこの企画に、『私の悪い魔法使い』(https://kakuyomu.jp/works/16817330649121888930)という作品で参加いたしました。主催のもももさんには温かい感想をいただき、また楽しい企画を開催してくださったことに感謝申し上げます。


 さて、以下にはあとがき・解説・裏話のようなものをつらつらと書いてみたいと思います。是非、本編読後にお楽しみいただければ。


【着想】

 キーワードの並びを見たときに、「これは王道ファンタジー世界を舞台にしていいやつでは!?」と思い、いわゆる中世ヨーロッパ風の異世界を舞台に置きました。なんだかんだ、ここまで王道に寄せたのは久しぶりです。折角なので、名前は全部フランス系に統一したり。

 実際は大した悪人ではないけど「自分は悪い魔法使いだから」とお姫様(男子)を攫うおはなし、というのはちょっと前から考えていて、でもちょっとベタ過ぎるかしらと思いつつ温めていたのを、今回広げてみました。広げてみるとなんか、私の中のヘキが爆発しまして、あれやこれや詰め込んでしまいまして。冷静に考えると二万字でやるにはクセ強キャラが多過ぎましたね、反省。

 でもやりたくなっちゃったから仕方ない。書き終えることができたのでひとまずは、うん。

 本作の前に書いたのが『咎負い』『寂しん坊の肖像』と、ドロドロクソデカ感情が続いた反動もあり、読後感が明るいものにしたくなったのもあります。(そっちはそっちでとても書くのが楽しいのですが)



【タイトル】

 タイトルセンスが無さ過ぎていつも本当に困っています。

 仮題は『悪い魔法使いのはなし』。どストレート。私なりに真面目にベタな話をやるつもりだったので、わかりやすいタイトルにしたいとはいえ、あまりに捻りが無い。途中で何か思いつくことに賭けて、とりあえず書き始めました。

 次に『彼は悪い魔法使いだから』に変えてみました。仮題よりはマシだけど……もうちょい書いてみよう。

 で、シャルルの出てくる第四話を書き始めた頃に出てきたのが『私の悪い魔法使い』。なんとなくニュアンスは出ている気がする。ベストかどうかはわからないけど、これ以上のものが出てくる気がしない……

 シャルルとクローデット(クロヴィス)の一人称をどちらも「私」にしたのは、二人を重ねて読んでほしかったからですが、結果的にほんのりタイトルと呼応する形になったかも。

 エンディングからの余韻を感じていただけたら嬉しく思います。




【キャラクター色々】

・イザーク

 主人公の「悪い魔法使い」くん。(思い込み)

 名前は「イサク」のフランス語形で、「笑う人」という意味。森で動物や妖精と共に育ったので、やんちゃにへらへら笑っていてほしくて。そういうコミュニケーションしか知らなかったので、怒ったり驚いたり笑ったりしている人の表情が好き。泣いたりつらそうにしている表情は嫌い。

 生育環境のせいもあって、人間的な精神年齢は高くないが、超自然的に達観してところもあって、アンバランス。本編後もシャルルのことはずっと楔のように残ることでしょう。クロヴィスを大事にしたいと思っているけど、恋愛になるかどうかはわからない。

 主催のもももさんが動物がお好きそうだったので、色んなものに変身してもらいました。自分にかける魔法の方が得意なのかも。あんまり自分を大事にしようという発想も無さげ。

 森に捨てられたのは「ヘンゼルとグレーテル」方式。あの国は自然豊かだけれど、隣国の影響もあって、経済的には貧しいので。魔力のあるイザークが虚空を見てキャッキャしているのを恐れた、というのもある。魔力が備わっていたのに特別な理由はなく、生まれつき。この世界には時々そういうことがある。森に来る以前の記憶は、イザークにはほとんど無い。

 本編後はクロヴィスのやりたい事をやらせてあげようと、国を出て旅をする。なんだかんだ、頑固なクロヴィスに振り回されるようになりそう。

 


・クローデット/クロヴィス

 第一王女クローデットと第三王子クロヴィスの仲良し双子。名前は双子らしく響きを寄せたかった。高貴な血筋の不憫な子、可哀想で可愛い。ヘキです。

 クローデットは「足の不自由な」の意味。本来は健やかに育つことを願って、敢えてこういう名前をつけたのだろうけど、その後を象徴するような名前になりました。

 クローデット(妹)は朗らかで、そこにいるだけで場を明るくするような少女だったはず。馬車の事故には何の裏もありません念の為。

 クロヴィスは「高名な戦士、王の名」という意味。決して武闘派では無いし、王位を継承するわけでもないのだけれど、国や民のためなら自分の命を惜しまない、古風な王族らしい考え方をしている。武士みたいな志の持ち主。クローデットの代わりになる前は、幼いながら第三王子という立場にちょっと悩んだりしつつ、隣国に嫁がなければならない妹のために何でもしてやろうと思っていた。

 細身で女装映えする美少年。でも脱ぐと割と骨ばっているので、侍女がいつも頑張ってコーディネートしている。声変わりして地声が結構イケボになってしまったので、人前で喋ることはできない。

 ちなみに女装描写に関しては、某ゲームのブ○ジットやナン○ャモを大いに参考にさせていただきました。どういうところを隠すのか、とか。

 イザークのことは、本編後は憎からず思っている、という感じ。でも頑固なので自分からは絶対に言わない、言っちゃいけないと思っていそう。

 王子は死んだことになっているし、王女として戻ることもできないので、イザークと人助けの旅に出る。家族にだけは手紙で無事を知らせてある。



・妖精の女王

 人型をしているけど明らかに人ではない、っぽい人外感が伝わっていたらいいな。

 元々は百年くらいで気まぐれに住処を変えていた。“森の王”は副産物みたいなものだけれど、自分が動くと色々面倒なので便利に使っている。

 イザークには魔力があるし、見た目が鴉みたいで気に入ったのと、「人間の子供、育てるの面白そう!」と思って無邪気に拾った。

 人間の歴史とか戦争とかには無関心。でも一人一人の人間の営みは興味深いと思っている。

 イザークが人間の魔法で封印されてしまったので、妖精の魔法で解くことはできなかった。そのため、イザークが目ざめるまでは森に留まってその眠りを守っていた。森に入った人間が岩窟に辿り着かないように迷わせる、みたいなことはしている。

 イザークがクロヴィスと旅立ってしまったので、そろそろ別の場所に住処を移すでしょう。



・“森の王”

 妖精の女王の魔力の影響を受けた、強く賢い生き物。イザークの育ての親はでっかい雄の熊。

 イザークを拾ったときには、既に壮年期くらい。

森を切り拓こうとする人間に対処するために育ててみるか、と思ったものの、自身の子供がいなかったため(“森の王”になった動物はみんなそう)、普通にイザークが可愛くなってしまった。だからこそ、森に縛り付けるわけにもいかないだろう、人間は人間の中で生きるべきだろう、と考えた。

 冬眠は避けられないので、春になってやんちゃし過ぎたイザークを彼が滔々と説教するのが、森の風物詩になっていたりした。

 彼の死後、妖精の女王は封印されたイザークを守るため力を割いていたため、“森の王”は生まれていない。


・ルネ

 クローデット(クロヴィス)の侍女。女装のプロ。

 元々は、クローデットとクロヴィスの乳母の息子。乳兄弟というやつ。(実際の中世ヨーロッパだと特にそういう相手を取り立てたりしないようですが、異世界ファンタジーなので!)

 クロヴィスがクローデットの代わりになると決まった時に、「ボクが侍女になる」と自ら申し出た。女装のことはそこから勉強したが、まずは自分でやってみたところめちゃくちゃハマった。骨が目立たないタイプの小柄な可愛い少年で、地声も高め。「ボク以上に姫様を綺麗にできる人間はいない」と自負しているし、実際そう。主人がいなくなってしまった後は、男として城勤めに復帰するが、趣味で女装は続ける。だって似合うから。

 クロヴィスの悲壮な覚悟を知っているから、自分だけは一番近くで支えてあげたいと思っている。それはルネ自身の意志なのに、クロヴィスは「自分のせいで巻き込んで、女装までさせている」と思い込んでいる。すれ違い系主従。

 ルネの名前は「生まれ変わった」という意味で、男女どちらとも使える名前の中から選びました。可愛い。



・シャルル

 五百年前の王子。不治の病を患っている。本作のメリバ要素。

 体が石になる病、は筋力低下や筋萎縮の病気を参考にさせていただきました。呪いではなく病なので、魔法で完治はできず、当時の純粋な医療技術でも無理だった。

 幼い頃には走り回れていたのが動かなくなり、原因も治療法も不明、次第に寝たきりに、という経緯だったので、性格がひねくれて嫌味っぽくなってしまった。容姿はクロヴィスに少し似ているが、もう少しキツめの美人。

 自分が死ぬための薬を、城の人間に頼めばおそらく罰せられてしまうので、イザークに頼み込んだ。イザークにしか頼めなかった。それがイザークを傷つけることもわかっていたので、老賢者に記憶を忘れさせるよう頼んでいた。でもそれが五百年の封印になるなんてことは完全に誤算。

 イザークのことは唯一の友人、親友、相棒のように思っていた。恋になっていたかもしれない。



・賢者

 長い白髪、長い白ひげ、長身の老魔道士。(某ガンダルフみたいな)

 この世界で人間が魔法を扱う場合、ほとんどの場合は魔法陣や術式を利用し、決まった手順を踏むもの。錬金術の応用のような形をとる設定。彼はその魔法をいくつも発見、解明して魔導書にまとめたりした為、賢者と呼ばれるようになった。

 ちなみに妖精の魔法はもっと直感的で、想像力が強く影響する。イメージさえできればほとんど制約は無いが、その分人間にはコントロールが難しい。

 賢者は魔法の研究をしながらあちこちを放浪していたところ、シャルルの病を目にし、どうにかできないものかとしばらく滞在していた。そこへ現れたのがイザークだった。

 イザークの父親が“森の王”だとすると、賢者は厳しめの祖父みたいな。年の功がたっぷりあるので教育者としても優秀だったはず。だからシャルルからイザークが毒薬を作ることを聞いてかなり葛藤したが、シャルルが限界を迎えていることもよくわかっていた。

 ただ、妖精の魔法は全くの門外漢だったため、イザークの記憶を消すのに色々困ることになった。妖精の女王から祝福を受けていたイザークには、人間の魔法の効果が限定的になる。だがシャルルの最後の願いくらいは叶えてやらねばならない。そんなわけで、ひたすらに時間をかけて忘れさせることにした。ただこれも、五百年もかかるはずでは無かった。せいぜい百年くらい。妖精の女王がイザークを起こそうと色々試した結果、変に混じり合って五百年まで延長した。その分、きっかけがあれば記憶の扉が開きやすくはなっている。



・隣国の人々

 とにかく自領を広げて支配したいタイプの大国。蛮族気質。

 二百年ほど前に隣の小国へ攻め入って属国化。本当は属国どころか併合してやろうと思っていたが、小国側が必死に交渉した。

 現在の王は五十才近くだがまだ現役。

 世継ぎは腹が出てきた髭モジャの三十路。女好きだけど、たぶん美人だったら男でもいける派。めちゃくちゃ乱暴に抱く。正室は国内の貴族の娘。そこに愛は無いが、若い側室にデレデレするのは気に食わない。顔が派手めの美女。

 奇襲で大混乱しているうちに王室の人間を捕らえられ、小国の独立を許さざるを得なくなる。互いの犠牲は最小限で済んだはずではある。

 また攻め落としてやる気満々だけれど、小国側が事前に周辺諸国に手を回していて、なかなかその機会が訪れない、という期間がしばらく続く予定。




 設定はこんなところでしょうか。

 反省は多々あるものの(締め切り当日に長めの話を出すんじゃない、とか含め)、やりたいことや好きなものを全部盛りにしたので楽しかったです。他の皆様の作品も興味深く読ませていただきました。

 また色んな作品を書いていきたいと思います。

 

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