10月6日の教室には、僕とギャルが居続ける。

遊星ドナドナ

10月6日の教室には、僕とギャルが居続ける。

 10月4日の水曜日。教室には僕だけがいた。荷物の整理をするために自分の席に座る。今日は5時限授業で、数学から始まり、体育で終わる。


「数学か……」


 嫌だなぁ。と誰もいない教室で呟く。担任の先生はオジサンの先生で、とても話が長ったらしく、つまらないのだ。その上いきなり下ネタを言い出す始末。

 ここが偏差値の高い進学校ならば、職をクビになるどころか、マリー・アントワネットよろしく断頭台に上げられ、首が胴体とサヨナラしてしまうというものだ。


 しかし、ここは、この世の終わりのような進学校なのだ。その証拠に、不良やギャルが校内を練り歩いている。


「おはよ~」


 そう、今入ってきたこの女子の様に。


「あれ~三島くん、無視しないでよ~」


 僕は嫌に軽やかな声を無視して、鞄から本を取り出して読み始める。嫌と言うほど読んだ本。しかし表紙やカバー、中のページ1枚に至るまでキズや折れ目はつかない。

 中身も空で暗唱できてしまうほどに読み込んでしまっていた。


 そんな僕の態度に気づいたのか、彼女は本を僕の手から


「オタクくん、こんな厭らしいの読んでるんだ~!ヤバ!キモ~」


 揶揄うように彼女は言って、その場でクルクルと廻っている。文しか書かれていないページを開きながら。

 娯楽系の読み物を奪われてしまい、仕方がないので国語の教科書を開く。李朝が虎になるのはこれで何回目だろうか?


 ここまでの一連の流れ、何度繰り返したことだろう。恐らく何千回だろうか?何万回かもしれない。単位すら分からない。僕は所謂タイムループ、無限ループに陥ってしまっている。恐ろしいことだ。原因も分からない。

 だが、一つだけ道がある。それは目の前のギャルが、この事態と何か関係があるのでは?ということだ。

 同じ日が昇っては沈む中で、彼女と僕だけが常に違う行動をとっているのだ。そう思って、僕は彼女を観察する。

 長い金髪が、彼女が舞う度に揺れ、共に空を泳ぐ。前の10月4日は確かコサックダンスを踊っていたような気がする。そんなことを考えていると、急に彼女が踊る足を止めてこちらに向かってきた。


「ふふッ。私のこと見てたっしょ?バレてるよ?」


 笑みを僕の顔に近づけながら、彼女はそう言った。僕はそれに「いいえ」とは答えなかった。否定派出来なかったが、会話をするのが面倒だったからだ。

 彼女はそれに構わず言葉を続ける。


「やっぱ私のこと好きでしょ?というか好きじゃなきゃ私のことじっくり見ないもんね?」


 やはり僕は答えない。ただ目を合わせないようにする。


「……ふ~ん。ダメ、か。」


 声のトーンが下がり、不気味な含みが彼女の一言にあった。


 ああ、またか。またダメだったか。


 そんな考えが僕と彼女の間に共有された、ように感じた。


「ねぇ……」


 ギャルは、僕の手を押さえる。僕の手は、彼女のよりも小さく、避ける間もなく包まれてしまった。


「どうしたら、私を見てくれるの?」


 顔がさっきよりも近い。鼻息が荒い。


「あと何回繰り返したら、目を合わせてくれるの?」


 僕の顔が、彼女の手にギュッと固定される。


 逃げたい。逃げねば。逃げ出せない。


 身を捩って、なんとかこの呪縛から解放されようと試みるも、体が重くて動かせない。


「三島くん……逃げないで……」


 化粧をした唇が迫ってくる。


「愛してる……」


 一瞬の静寂の後、口に柔らかい感触があり、そして僕は気を失った。


「……」


 目が覚めると、家のベッドの上だった。時計の液晶表示は10月4日の午前6時を指している。

 学校に着くと、他に誰もいなかった。僕はいつも通りに荷物の整理をして、一時間目の準備を進める。


「おはよ~」


 朗らかな声。僕はひたすら見ないようにする。そうして小説を手に取ろうとする。その時、ガチャリと冷たい金属の音。手錠が僕の腕を拘束していた。


「ごめんね?」


 ギャルが僕の手を包み込み、唇を重ねてくる。この牢獄からは抜け出せない。


 僕は静かに思考を手放した。





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10月6日の教室には、僕とギャルが居続ける。 遊星ドナドナ @youdonadona

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