第27話 子猫の奇跡
「ああああああああああああ! あ! あ! あ! あああああああああ!」
それは、恐怖から生まれる蹂躙。
「死ね! 死ねよ、咲希! いい加減死ねえええええ!」
人は、理解できないものを目の当たりにした際、それを消そうとする習性がある。
今の不良少女の状態が、まさにそれだった。
何度痛めつけても立ち上がり、決して倒れない咲希を見て、不良少女の精神は崩壊していた。
故に、先程まで無意識に、人を殺すことへの恐怖で抑えられていた力が解放されている。
先程よりも、強く、容赦のない攻撃が、咲希へ何度も加えられていく。
速く、この恐怖から逃れるために。
「……!」
そのような状況にあって、咲希は反撃しない。
いや、正確にはできない。
すでに、ヒロを助けるためにこの倉庫街を走り回り、幾人もの不良少女達と喧嘩を演じ、さらには、その後のリンチ、そして、現在加えられている暴力によって……咲希は、とっくに限界を迎えていた。
本来であれば、不良少女の望み通りに死んでいるか、気絶しているか、いずれにしても動けない状態になる。
けれど、咲希は決して意識を手放さない。
自分が今ここで倒れれば、その狂気の矛先がヒロに向くことは明らかだからだ。
「ああああああああ!」
状況は、刻一刻と悪化していく。
結局のところ、咲希はただ自分の意識をぎりぎり掴んでいるだけの状態であり、不良少女は鉄パイプで、鉄バットで、拳で、蹴りで、咲希を傷つけ続けている。
反撃したくても、できない。身体が動かない。
今にも意識が飛びそうで、けれど、絶対にそれだけはできない。
そうしている間に、さらに攻撃されていく。
「これで、終わりだ! 咲希あああああああああああ!」
そして、鉄バットを思い切り振り上げた不良少女の渾身の一撃が見舞われた。
咲希には、その動きがゆっくりと見えた。
――ああ、これで、終わる。
自分は、ここで……。
それが、はっきりとわかった。
結局のところ、相手も人間であり、人を殺すことへの罪悪感と恐怖を持っている。
だからこそ、これだけ攻撃を加えられても、まだ咲希は死んでいない。
けれど、その罪悪感と恐怖が、これまでの攻撃で少しずつ、少しずつ、剥がれてきた。
そして、この一撃は――間違いなく、咲希の命を完全に絶つ――殺すと決めて放たれた渾身の一撃。
「――」
走馬灯。
これまでの日々が、その全てが、一気に咲希の脳裏を駆け巡った。
優しかった母、恐怖そのものだった父との生活、学校で孤立していた自分、結衣との夢のような日々……そして――
……ごめんな、ヒロ。
最後に思い浮かんだヒロの笑顔を見つめながら、咲希は……
ガ!!!!!!!
鉄バットが人の頭を思い切り殴る音が響いた。
いやな音と共に、血飛沫が舞った。
「はー! はー! はー! はー!」
荒い呼吸を繰り返しながら、バットを振り下ろした不良少女は血走った眼を目いっぱい開いている。
そして、咲希は、信じられないその光景に目を見開き、呆然としながら、呟いた。
「……ヒロ」
ぽたぽたと、血が滴り落ちる。
コンクリに広がる赤い雨が、やけに鮮明に見えた。
「ヒロ!」
「……」
口と両手をタオルで拘束されたヒロは、どさりとその場に倒れた。
「おい! ヒロ……お前、何やってんだよ!」
「……あ、あああ、あああああ!」
咲希ではなく、よく知らない人間に殺人バットを振り下ろしたという現実に恐怖の叫びをあげる不良少女に構わず、咲希は手近に堕ちていたナイフを拾った。
そのナイフを使い、ヒロの口と両手の拘束を解くと、悲鳴のような声をあげた。
「おい、ヒロ! しっかりしろ! なんでだよ! なんでお前が、こんな……!」
「……咲希、さん」
咲希は、気づいていない。
自分が。ぼろぼろと涙をこぼしていることに。
その綺麗な雫を顔に受けながら、ヒロは……微笑んだ。
「よか、った。咲希さんが、無事で」
「……! ……バカ野郎」
バットで殴られた頭から血が流れ、ヒロの顔が汚れている。
きつく縛られた口と両手足には紐の痣ができており……特に、足の状態がひどい。
ヒロは、口と両手両足を縛られていた。
咲希を助けるため、ヒロは火事場の馬鹿力とでも呼べる力で強引に足を紐から引っこ抜いた。
そのせいで、足の皮が破れ出血しており、靴はどこかへ消えていた。
ヒロのひどい状態に、咲希は怒りが心の底から湧き上がるのを感じた。
「お前ら、ぶっ殺してやる」
「ひっ」
咲希にすごまれた不良少女は、恐怖のあまり声を失う。
ヒロを抑えていた不良少女も、人質がいなくなったこと、これから行われる咲希の復讐に、恐怖を覚えた。
「「「!」」」
そうして、傷だらけの咲希が、怒りに任せて不良少女達に向かおうとしたところで……それは、起きた。
「なにしてんだ、ヒロ? 寝てろよ!」
頭から血を流したヒロが、ふらふらとした足取りで、なぜか、咲希と不良少女達の間に立った。
今も、ヒロの頭からは血が流れ、コンクリの地面へと滴り落ちている。
「はじめまして。僕は、水無瀬ヒロと言います。あなたたちの名前を教えてもらえませんか?」
「「「――」」」
それは、異常とも呼べるような光景だった。
自分を、そして、自分の大切な人を傷つけた相手に向けて……ヒロは、『歩み寄っていた』。
「なに、言ってんだ、お前?」
あまりにも理解不能な事態に、思わず、不良少女は尋ね返す。
ヒロは、いっぱく置いてから、言った。
「もう、喧嘩はやめませんか? あなたたちと、話したいんです」
は?
同時に、不良少女二人は思った。
喧嘩をやめる?
話す?
何言ってんだ、こいつは?
イカれてんのか?
ヒロに刺激を受けたことで、一気に、不良少女達の脳内をその人生観が駆け巡る。
話し合うなんて、バカのすることだ。
たとえば、鉄バットを持った人間が叫びながら殴りかかってくるとする。
そんな状態で、「話し合いましょう」なんて言う奴は、殺される。
当たり前の話だ。
話すなんて、なんの価値もない愚行。
やられなければやられる。
この世界は、力と強さが全て。
相手が暴力でこちらを制圧する前にこちらが相手を暴力で制圧しなければ、この世界では生きていけない。
あまりにも、間抜けなことをしているヒロへ、不良少女の怒りが爆発する。
「お前、バカかよ!? 何言ってんだ、お前! お前みたいなやつが一番ムカつく!!!」
「てめえ、ヒロに何かしやがったら――」
「咲希さん」
咲希が、先手を打ち、不良少女に喧嘩を挑もうとするのを――ヒロが、止めた。
「ありがとうございます。でも、どうか、今はボクに任せてください」
「……お前」
この事態は、咲希にも理解ができない。
もはや、最後の敵である不良少女二人を拳で倒すことでしか、この状況は収まらない。
それなのに、いったい、ヒロは何をするつもりなんだ?
「こんなことをしても、何にもならないと思うんです。お互いに傷つけあっても、悲しいだけです。ちゃんと話し合えば、仲良くすることだってできるはずです」
「はいはいはいはい! あー、そうですか!!!」
あまりにもご都合主義で現実を知らない『正論』に気分を害した不良少女は、キレながらヒロに近づいた。
すぐさま、咲希は迎撃準備を始める。けれど、ヒロの言葉を信じて、様子を窺う。内心で、ヒロが傷つけられるかもしれない恐怖におびえながら。
「うっっっぜーーーーーーー! バカだろ、お前ぇ!!! 仲良くできるわけねーだろ! 殺すか殺されるか! 上か下か! それが全てだろうが! そんなこと言えるのはな! 恵まれた人間だけなんだよ!!!」
なぜ、自分がこんなにも怒りを爆発させているのか、なぜこんなに感情をむき出しにしているのか、自分でもわからないままに、不良少女は怒りを爆発させ続ける。
「お前、親に殴られたことあんのか!? タバコの火を押し付けられたことあんのか!? 親に脅されてコンビニで万引きしたことあんのか!? 外面だけいい親に、毎日バカにされたことあんのか!? ねーよな!? あったら、あんなバカこと言えるわけねーもんな!? あぁ!? おい! なんとか言えよ!」
「……ありません」
「だよなぁ!!! はあ!? じゃあ、なに!? お前に何がわかんの!? あったかい家庭でぬくぬく育ってさあ! そんな奴がさあ! 私のこと否定するわけ? 見下すわけ? バカにするわけ? ざけんなよ、コラぁ!!!!!!」
喉が破れ、血が出るような勢いで、不良少女はヒロに怒りをぶつけていく。
「てめえみたいなやつが私のこと否定すんじゃねえ! バカにすんじゃねえ! お前だって、私と同じように育てば私と同じようになるんだよ! それなのに、私のこと見下すんじゃねえ! バカにすんじゃねえ! たとえひどい環境に生まれても、自分ならまっすぐに育つ? 育ってみろよバカがぁ! ぬくぬく育った奴が上から目線で見下すんじゃねえええ!!!!」
不良少女の怒りは止まらない。もはや、ヒロ以外の人間……かつて、自分を見下した人間達への怒りをもヒロへぶつけ始める。
もはや興奮はピークを超え、ヒロの胸倉をつかむ。そして、叫ぶ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!」
勘違いすんなよ。
お前は最初からおかしいんだよ。
先生なら、お前と同じ環境で育っても、その環境を言い訳にしたりなんかしない。絶対に。それは、自分に負けてるってことだからな。
先生ってー、子供の頃、どんな子だったんですかー?
やんちゃばかりしてたよ。両親が甘かったからなー。
クズが。
そもそも、お前自身が悪い存在だから、そんなひどい環境に生まれたんじゃない?
お前が最初からおかしいだけだろ?
元々、人としての質が違うんだよ。お前はw
「違えええええええええええええええええええ! 私だってなあ! あんな馬鹿な親の元に生まれなきゃ、まともだったんだ!!! 何も考えずに正義気取ってるお前らの方がバカなんだあああああああああ! ああああああああああああああ!」
「はい。そのとおりだと思います」
「――!」
そこで、びくりと不良少女の身体が震えた。
なぜなら、それは絶対に聞くはずのない言葉だったから。
これまで出会った人間が、100%の確率で、否定した言葉だったから。
「僕は、とても優しくて、あたたかい家庭に生まれました。家族から、愛情も、優しさも、人として大切なことも、全部教わりました。だから僕も、自分が関わる人たちに、そうしてあげたいって思えるんです」
「……」
「もし、僕が、もっとひどい環境に生まれていたら、きっとひどい人間になっていたと思います」
「……っ、……、……!」
不良少女は、言い返そうとした。
必死に、言葉を探した。
でも、何も言えなかった。
だって、今までと違うから。
自分の考えを……否定されすぎて、自分でも疑っていた、でも、信じたかった答えを、肯定してもらえたから。
こんな、はずじゃなかった。
こいつも、今までのバカ共と同じはずだった。
違う、と。
お前の考えは間違っている、と。
人のせいにするな、と。
たとえ、同じ環境で育っても、自分はちゃんとする、と。
不良になったのは、全部お前のせいだと。お前が悪い、と。
そう言われるはずだったのに。
そう言われたら、怒りに任せて殴りつけるはずだったのに。
なのに――。
「もっと、話してくれませんか?」
「!」
心臓を掴まれたように、不良少女の身体が跳ねた。
「あなたの気持ちを。あなたが感じたことを。どれだけ苦しかったか。痛かったのか。誰かに聞いてほしかったこと。伝えたかったこと。わかってほしかったこと……全部、聞かせてください」
「……は、……はあ、……はあ」
「そこから、始めたいんです。絶対に、争わなくてもいいはずなんです。だから、聞かせてください」
「……!」
そこで初めて、不良少女は気付いた。
自分が、どれだけ我慢していたのか。
平気のつもりだったのに。
強くなったつもりだったのに。
今、ダムが決壊し、大量の水が溢れかえるように……自分の気持ちが、救いを求める気持ちが、あふれ出る。
「あ、ああああああああああああああああああああああ! うるせえ! うるせえ! 今さら、そんなのいらねええええええええええええええええええ!」
「……」
「殺してやりてえ! 恵まれてるだけで! 優越感に浸って、私を見下してる馬鹿共を! 私をバカにした奴ら全員、殺してやりてええええええええええ!」
「……」
「わかってんだよ! 本当は、私がクズだけなんだよ! 頭がおかしいだけなんだよ! あいつらの言うことは全部正しいんだよ!」
「いいえ、違います」
「!」
「間違ってるのは、あなたをバカにして、見下した人たちの方です。絶対に」
「……! ……! ……! なんなんだよ、お前はいったいなんなんだよ!?」
「僕は、水無瀬ヒロです。あなたの名前を、教えてください」
「……う、うるせえ! うるせえ! 今よくわかった! やっぱり、私はクズだ! い、今からお前を殺してやる! ほらあ!」
不良少女は、鋭利なナイフをヒロの首にぶつけた。少しだけ穴が開き、そこから血が流れる。
それでも、咲希はぐっとこらえた。……ヒロを、信じた。
「見ろよ! どうだ! 悪だろ、どう考えても! 私はおかしいだろ! 人の心を持ってねーだろ!?」
「あなたは、優しい人だと思います。だって、あの子猫に毎日餌をあげてたじゃないですか」
「……!」
びくっと、ナイフを持つ手が震えた。
「な、なんで知ってやがんだ?」
「やっぱり、そうですよね。あの夜の公園で、僕と咲希さんは、子猫を拾いました。でも、気になってたんです」
「……」
「あの子猫は、とても人に慣れていました。同時に、人から餌をもらうことにも慣れているように感じました。普通なら、見慣れない人間を前にしたら、猫は逃げます」
「……!」
「あの時、あの公園にボクと咲希さんがいたのは偶然です。でも、あなたたち二人があの公園に現れたのは、偶然じゃない。あなたたちは、子猫に餌をあげるためにあの公園に来たんです」
だらりと、ナイフを持つ不良少女の手が下がった。
「お腹を空かせた子猫の面倒を見る人が、ひどい人なはずがありません。あなたは、ちゃんと優しさを持っています。絶対に」
からん、と。
不良少女は、ナイフを落した。
そして、両手で頭を抱え、がしがしとかきむしる。
「うわああああああああああああああ! うるせえ! だから、なんだー! 今さら、今さら戻れねえんだよおおお! おい、香里!」
さっきまで、咲希をバットで殴り続けていた不良少女――香里はびくっと身体を震わせる。
「殺すぞ! こいつらを! やるんだよ! ウチらが勝つんだ!」
「……」
香里は、戸惑った。
自分が殴り、傷つけた相手。
その相手が……信じられないことに、自分達を『見下していない』ことがわかって。
それどころか、自分達を心配してくれていることまで伝わってきて。
だから、そんな相手を傷つけるという行為に、躊躇いと恐怖を覚えた。
「なあ」
そこで、咲希が口を開いた。
「もう、やめようぜ」
「はあ!? お前まで何言ってんだ!?」
「お前はすげえよ、ヒロ」
「……咲希さん?」
「私は、弱かったんだな。こいつらを倒すしか……最悪、殺すことでしか、終わらないと思ってた」
咲希は、一歩前で踏み出し、ヒロの隣に並んだ。
そして、優しい声で、語り掛けた。
「終わりにしよう。もう私には、お前達を殴る理由がねえ」
「――」
不良少女は、固まった。
何が起きているのか、まったくわからなかった。
殴り合い、殺し合う未来しか見ていなかったから。
「おい、香里!」
「……」
「香里ぃ!」
「……ごめん、幸子」
謝られた不良少女――幸子は、呆然とした。
「……はあ、はあ、はあ!」
一人、興奮し、アドレナリンをみなぎらせる自分。
けれど、周りは冷めている。
香里は戦意を喪失し、咲希は戦いの終わりを提案し、そして、ヒロと呼ばれた人は、今も、こちらを心配する目で見ている。
「わ、私は戦うぞ! 終わりになんてしねえ! 全員殺してやる! そ、そして、秋山さんと、秋山さんと一緒に、この世界に復讐するんだああああ!」
「幸子、もういいんだよ」
「!」
そこで、予期せぬ声が聞こえた。
「……美代」
その声は、この倉庫で最初に咲希に倒され、ずっと地面で気絶……していると思われていた不良少女。
「お前、目が覚めてたのかよ! なら、何やってんだよ! 戦えよ!」
「ごめん。私、こうなってほっとしてる」
「はあ?」
「ここに結衣さん呼んだの、私なんだよね」
「「「!」」」
美代の一言に、咲希たちは戦慄に近い驚きを感じた。
「は? お前、何言って……」
「佐藤をこのチームに入れたのって、私じゃん」
剛山に目をつけられ、秋山によって救われた少女の名を、美代は口にした。
「あいつ、学校でいつも一人でさ。私もだけど。でも、あいつ、私と仲よくしてくれてさ。だから、チームに誘った」
いったい、美代がなんの話を始めたのか幸子達にはわからない。でも、口を挟むことはできなかった。
「幸子と香里ってさ、仲いいじゃん? 私、ちょっと疎外感、感じてて。だから、佐藤もいれて4人で仲良くできたらバランスいいかなって思ってた」
「え。でも、お前……」
「うん。私、このチームでは佐藤のこと無視してた」
香里の問いに、罪悪感に満ちた表情で美代は頷いた。
「だって、幸子と香里はさ、佐藤のこと気に入らねーってハブいたじゃん。まあ、佐藤も人見知りだったし、結局、このチームでも孤立してた。したら、なんか、私も、絡みにくくなって」
仲間と呼べる関係性においても、自分の優位性をあげたかった。
そんなことばかり考えていた。
だから、佐藤をいれた。
でも、失敗だった。
佐藤は、自分の優位性を下げるような存在だった。
だから、切った。
「実は、知ってんだよね。私、佐藤がなんでいなくなったのか。だからマジで苦しかった。結局、結衣さんがああなった原因作ったの、私じゃんみたいな」
つらい。でも、真実を明かしたい。せめぎ合う心に苦しみながら、美代は続ける。
「だから、罪滅ぼしがしたかった。結衣さんの見舞いにもこっそり行ったし、結衣さんのスマホにも何度もメッセージ送った。結衣さん、目覚めた後、すぐにバイクで咲希のことを探したみたいでさ。コンビニの充電器買って充電しながら走って……で、ようやく私のメッセージに気づいてくれた」
「……!」
美代の告白に、咲希も驚きを禁じ得なかった。
「結衣さん、最初、ウチらのホームの廃倉庫に行ってて。連絡くれたから、慌てて、この場所を知らせたんだ」
「美代……お、お前、ウチらのこと騙してたのかよ」
幸子の言葉に、美代は悲し気な笑みを浮かべる。
「うん、そう。仲間外れにされたくなかったら、誘拐とか咲希を倒すこととかに協力してたけど……ぶっちゃけ、なんでこんなバカなことやってんだろって思ってた。そもそも私、結衣さん派だし。だから、誘拐したその女の子の足のロープゆるめといた。咲希にやられて気絶したふりして、様子見てた」
「「……!!!」」
同じ秋山派として、大事な仲間だと思っていた。
そんな仲間からのカミングアウトに、幸子と香里はショックを受けた。
「ヒロって言うんだっけ? マジ、ごめんね。それと、ありがと」
「……美代さん」
「マジで、わかってくれたの、嬉しかった。ウチらのこと理解してくれる人なんて、絶対いないって思ってたから」
「……」
「……」
淡々と、語る美代。
香里はショックから立ち直れないまま美代を見続け、幸子は……完全に、戦意を喪失した。
「ヒロ、ありがとな」
「咲希さん……」
「私も、嬉しかった。……わかってくれて」
「……はい」
本来であれば、咲希か、ヒロか、幸子か、香里か、美代か……誰かが死んでいた。
けれど、誰一人命を落とすことなく、怒りも恨みも残すことなく……こうして、廃倉庫群の戦いは幕を閉じた。
それは、奇跡のような出来事だった。
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