第25話 ふたりの子猫
「あああああああああああああああああああああああああああああ!」
全てを結衣が話し終えた後、秋山は力の限り叫んだ。
そこに含まれるのは、羞恥、恐怖、その他、ありとあらゆる感情が混ざり合ったもの。
バレた。
全てがバレた。
今ここにいる全員……チームのメンバーに、自分の弱さも、情けなさも、全てが。
「結衣いいいいいいいいいいいいいいいいい!」
秋山の怒りが爆発する。
一番、秋山が恐れていたことを。
結衣は、なんのためらいもなく暴露した。
終わった。
全てが。
「あああああああああああああああああああ!」
確実に、舐められて、バカにされて、見下される。
間違いない。
もう、どうしようもない。
「あああああああああああ!」
憎しみを爆発させ、秋山は力の限り結衣に殴りかかる。
けれど、怒りでいっぱいになった頭では精細の欠く攻撃しかできず、当たり前のように結衣にかわされる。
「ああ! ああ! ああああああ!」
自分に注がれる視線が、いやだ。
今、自分と結衣の戦いを見守る不良少女たち。
彼女たちは、今、自分のことをどう思っている?
――実は、内心でビビっていた情けない人間。
恥っずwww
よっわwww
うわー、マジかよ。
ふざけんな、マジで。
あいつ終わったなwww
「あああああああああああああああ!」
妄想の中で、自分をあざ笑う声が木霊し、さらに秋山の脳を沸騰させる。
ドゴ!!!!!!!!
「ぐ!!!! ……が!」
結衣の一撃が、今度は秋山のみぞおちに沈んだ。
がくり、と秋山は項垂れ――そのまま倒れそうになる秋山を結衣が抱きかかえるように支えた。
「言ったろ、もう自分を傷つけるんじゃねー」
「……」
結衣の声が、すぐそばで響く。
優しい。
とても、優しい声だった。
「自分を犠牲にして、周りにビビりながら期待に応えて……しんどいに決まってんだろ?」
「……」
「お前は、誰よりも優しい奴だ。そして、弱い。それくらい、幼馴染のわたしが一番わかってんだよ」
「……うる、せえ」
ぽろぽろ、ぼろぼろと、溢れた涙が秋山の瞳から零れ落ちる。
「わたしは、お前みたいに強くねえんだ。わたしにとっては、周りの評価が全てだ。もう、バカにされるのも見下されるのもうんざりなんだよ……!」
ずっと、つらかった。
生まれた時から、子供の頃から、ずっと、ずっと、つらかった。
「ちゃんと周りを見ろよ。いるのかよ? 一人でも、お前を見下してる奴が?」
いるに決まってるだろ?
すぐに湧き上がる怒りと共に……秋山は、急に視界が開けるのを感じた。
「……」
「……」
「……」
そこにいるのは、チームのメンバーである不良少女たち。
鮎川も、その他の少女たちも……みんな、悲しそうな、そして、どこかあたたかい眼差しを秋山に向けていた。
「――」
その眼差しを見た瞬間、秋山の頭の中が真っ白になった。
「みんな、同じだ。みんな、相手が怖え。相手もこっちが怖え。お前のその感情は、お前だけのものじゃねえよ」
結衣の言葉が、秋山の心にしみわたっていく。
それでも、素直にその言葉に頷くことができない。
「……だから、うる、せえよ。そんなくだらない言葉が何の役に立つんだよ」
「だよな。はは、悪い。やっぱ、わたし頭よくねーや」
「……っ、ぅ、……ぁ」
雨のように秋山の瞳からは涙が零れ続ける。
もう、秋山に戦意はない。
甘えるように、結衣に身を預けたままだ。
「……ただ、これだけは、言っとく。お前は、一人じゃない」
「……っ!」
また、ぼろぼろと、秋山の瞳から涙が零れ落ちる。
「お前は、許せるのかよ? こんなわたしを? お前の大事な咲希にも、わたしはひどいことをしたんだぞ?」
「ああ、ちょームカついてるぜ。言っとくけど、こんくらいボコっただけじゃ全然許せてねーからな? ……ただ」
ぐいっと、結衣はさっきよりも力を込めて、秋山を抱きしめた。
「今さら、わたしの親友をやめられると思うなよ? …………今まで、よく一人で頑張ったな」
「――っ……あ、ああ、あああ、うああああああああああああああ!」
恥も外聞もなく、子供が母にそうするように、秋山は結衣にしがみつき、大声をあげて泣いた。
その光景を、鮎川たちは、ただただ静かに見守っていた。
そこには、誰一人、秋山をバカにするものも、見下す者もいなかった。
『名前は、なんていうの?』
『……秋山、沙織』
『沙織ちゃんかー。わたしはね、結衣って言うの』
『……結衣、ちゃん』
『よかったら、友達になろ?』
『! ……で、でも、わたしは』
『だからだよ』
自分をいじめから助けてくれた少女は、太陽みたいに笑った。
『わたしも、ひとりなんだ』
幼い頃に出会い、手を取り合った少女たちは、
「うああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
不良となり、社会からつまはじきにされ、決別し……それでももう一度、寄り添い合う。
子供のような鳴き声が、いつまでも、響きつけていた。
……いつまでも。
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