第3話「異世界への入り口」


「ああ、よろしく頼むぜ三崎? いやヒーロー?」


「好きに呼んでくれ……ところで俺達が最後か?」


 バスの中は二十名弱で俺の隣には田中が座った。同じ学院からの人間はこのバス内には俺と田中だけだ。他にもバスは何十台も停まっていたから別なのだろう。


「みたいだね……でも何であんたが? アーシと違って人望あるっしょ?」


「そう思ってた……先月まではな」


 そう言いながら俺のガムを見てるから渡すと「サンキュ」と言って噛み出した。怜奈なら……いや、比べるのは田中に失礼だ。俺達が席に着いたと同時にバスガイド風の女性が口を開いた。


『皆様、本日はグレスタード王国主催の研修説明会への参加に感謝致します。まず皆様の席のディスプレイをご覧下さい』


 ガイドが喋り出すと各席の小型ディスプレイが青白く光って電源が入る。普通のテレビやPC画面と違う光が気になったが、もっと気になる説明が映し出され俺は驚いた。事前に聞いていた案内と表示された内容が違ったからだ。


「適正検査? 不合格なら即帰宅!?」


「マジで……帰れんのかよ!?」


 隣の田中や他の参加者も一気にザワザワし出した。俺は普通に死ぬ覚悟をしていた。でも帰れるなら……帰れるなら? なら俺はどうしたいんだ?


『お静かに願います……まず皆さまには転移ゲートから特別自治区へご案内します。そして適性検査後に合格者のみグレスタード王国本土へ転移予定でございます』


 他にも諸注意を話していたが俺の頭の中には何も入って来なかった。帰れる可能性が有るだけで俺は救われた気になっていた。




「帰れる……のか」


「何だよヒーロー、帰りたくないん?」


 俺は田中と雑談しながら転移ゲートという施設が設置されている街へと移動し、そこから日本海に浮かぶ島『秋山諸島』へ転移されるとアナウンスを聞いた。


『皆様、もうシートベルトを外されても結構です』


「なんか転移ワープとか聞いてたけど普通だな」


「本当にワープしたんよねアーシら一瞬じゃね?」


 カーテンを開けると外の景色が一変していた。先ほどまでいた街中と違い港のような場所で海が広がっている。転移が本当ならここは日本海洋上だ。そして後続のバスがゲートから発生している青白い球体の中から続々と出現するのを見た。


「俺達も……ああなってたのか?」


「みたいね……とりま行かね?」


 そしてガイドが先に降り俺達も後に続くと彼女は俺達に振り返り言った。


「こちらは秋山諸島では最大面積の『時因島じいんとう』でございます」


「ここが救世主の国……か」


 ここが救世主と呼ばれる元勇者がいる島、その内の一つだ。事前に調べた。そして、この自治区の名は……。


「ようこそ皆様『七愁時因しっしゅうじいんグレスタード王国特別独立自治区』へ」


 俺の異世界への第一歩はここから始まった。そして引き返せない長い戦いの始まりで同時に俺たち次世代勇者の成り上がりのための第一歩でもあったんだ。




「これが噂のメガフロート……世界最大なら名前もギガフロートにでもすれば良いのにな」


「なるほどデスね~、良き考えでゴザル」


 俺の呟きに反応したのは大柄な男だった。そして肌の色を見て思ったのは黒人だというシンプルな感想だ。忘れていたが研修生は世界中から集められているんだ。


「あぁん? 誰だテメー?」


「シツレーしますた、ワタシ、リチャード、デース」


 田中が睨みつけるがトラブルは御免だし大人しく検査を受けて早く帰りたいから平和的に乗り切ることにした。今日日の高校生なら余裕だ。


「Hi, Richard call me Hiiro. okay?」

(やあ、リチャード俺はヒイロと呼んでくれ。いいか?)


「Perfect except pronunciation, Hero?」

(発音以外は完璧だ、ヒーロー?)


「何だって? 英語は赤点なんだよアーシ」


「発音以外は良いみたいだ」


 苦笑して言う俺に田中が優等生様はリスニングが苦手かと煽るが、この場合は喋りだと内心で嘆息する。そんな俺達を見てリチャードはニカッと笑うと再び変な日本語で喋り出した。


「意味わかってマスねん、ヒーロー」


「ヒ・イ・ロだ、発音はお互い様だな?」


 話していたら休憩は終わり俺達は再度バスに乗せられ検査会場に送られた。入口で男女別と案内され、そこで田中と別れるとリチャードと一緒に行動する事になった。




「では皆様、検査が終わりましたので番号を呼ばれた方から次の部屋へ移動して頂きます。最初に01番の方」


 アナウンスされて俺は自分の番号が027となっているのを確認し早い番号だと思った。リチャードは087だったからだ。


「続いて027番の方こちらへどうぞ」


 ドアをくぐると景色が一変する。目の前がぐにゃりと歪むような感覚の後に青い光が広がり次の瞬間、俺は別の部屋にいた。慌てて周囲を確認すると他にも研修生がいて安堵する。


「ここは?」


「ほう、番号027……確かに魔力オド神気エーテルも持ってるな」


「は? あんたは一体……って、あっ!?」


「俺を知ってるのか……ここの責任者の秋山快利だ」


 その名を聞いて俺は固まった。目の前の男が世間で救世主と呼ばれている男だ。いわく十年前に中国やロシアを半日で黙らせ軍事基地を半壊させた化物。アメリカを世界の警察から追い落とした狂人など恐ろしい噂が盛りだくさんな超危険人物だ。


「あっ、いえ……その、ここは?」


「ここは合格者ゾーンだ」


「合格者?」


「ああ、行ってよし、連れて行ってやれ」


 そのまま俺は係の人間に誘導され後から田中とリチャードも合流した。驚いたのはリチャードが喜んでいた事だ。まさか異世界に行きたがる人間がいると思わなかった。そして秋山快利のスピーチが始まった。


「まずは皆よく来てくれた。俺は秋山快利この特別自治区の区長だ。そして、この世界から嫌われている男で今回の責任者だ。知ってる者も知らない者も覚えてくれ死にたくないならな?」


 その言葉に動揺する俺達を更に驚かせたのは後ろに控えていたスーツの美女だった。いきなり無言で秋山区長をぶん殴って吹き飛ばし壁にめり込ませていた。そこから一拍置いて悲鳴が上がった。


「皆様、失礼しました。ようこそグレスタード王国主催の説明会へ、わたくし、そこで吹っ飛んでる秋山 快利区長の筆頭秘書の秋山 那結果なゆかと申します」


 それと一応はこれの妻ですと言ってニコリと笑った後に秋山区長を引っ張り起こし後ろに下がった。

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