第19話 新たなスタートでして



 さて、オクシスと私のすれ違いコントのようなやり取りはなんとか終了し、カラフル団子状態も解散した現在。

 屋敷を出ていくことなく、残ると決めたからには中途半端は嫌だ、とやる気満々なのでこちらも気合が入る。


 まぁいい時間だ。色々動くのは明日にするとして。

 

「ダリア様はどこまで知っていますか?」

「あー残ることしか言ってねェかな」

「じゃあ報告しに行きましょう」

「はっ?」


 ダリア様のいる書庫へ行かねば。

 

 何故か戸惑とまどった様子のオクシス。ダリア様は私達の主人なのだし、報告するなんて当たり前だろう。

 それに、オクシスが残ることを知っていても侍従じじゅう、しかも護衛役になるつもりだと伝えてないんだったら尚更だ。この時間ならまだ書庫で勉強してる筈ですよ、と少し抵抗を感じるオクシスの背中を、押しながら歩く。


 夜ご飯は終わっているし、ダリア様の入浴だってすませてある。私達侍女も、残すは後片付けくらいのもの。


 と……いう訳で。


「お前らいらなくね!?」

「何言ってるのよ、行くに決まってるじゃない」

「仕事は!?」

「大丈夫ですヨ〜!」


 どうせなら、全員いても、いいじゃない。


 住み込みの侍従、総出そうでで付き添いだ。

 これが可能なのは、一度時間を考えず行動してしまって、オリーブさんのお怒りを受けたオクシスが気をつかったおかげである。ダリア様へも食事前の問題ない時間を選んだようだし、私の時もこうして余裕をもてるタイミング。

 出来た侍従で大変よろしい。オクシスは従業員と言ったけれど、住み込みの護衛役ならダリア様の侍従となる。


「きっとダリア様も喜ばれますよ」

「……」

「あらあら、オクシスったら素直な子ね〜」


 残ることに決めた恥ずかしい理由。私達に言いたくないそれが、ダリア様関係なのは一目瞭然いちもくりょうぜんだ。そもそも二人で話したあと、決意したんだからわかりやすすぎる。

 

 急に静かになったオクシスの、白にえる赤い耳が可愛くて、私もオリーブさんもニマニマしてしまった。


 あまりからかいすぎても良くないので、ここら辺で一旦やめておこう。一番背が高く、にょきりと目立つティニオさんにはじまり、私より約20cm低いオリーブさんらの色とりどりな頭が書庫へと辿り着く。

 

 そこからの展開は予想していた通りだった。


「ほんとに!?」


 喜色満面きしょくまんめん。華やいだ表情で喜ぶダリア様と、直視ちょくし出来ないのか目を逸らして頷くオクシスがいて。

 オクシスの後ろで被弾ひだんした私も、内心推しの愛らしさで震えていたがそこはメイド魂だ。ぐっとこらえて、光り輝く美幼女を堪能たんのうしてみせましたとも。


「護衛……ってたいへんよね?」

「まぁ多少はな」

「死んじゃダメよ!」

「……死んだら守れねェだろ」

「! そうね、ふふふっ」


 報告のためも間違いではないけど、全員くっついてきたのはノリによるところが大きい。その結果がこれだ。


 頬を薄いピンクに染め、はにかむダリア様と。

 むっつりしながらも、穏やかな瞳をしたオクシス。


 二人の幼い子供が交わす、心温まる光景に浄化されそう。私以外も、目を細めてまぶしそうに二人を見てるので多分皆同じ心境しんきょうに違いない。本当についてきて良かった。




 ──── ──── ────


 その翌朝。


 ダリア様がいつも通り学園へ向かい、侍従達は解散。二人だけとなった玄関で私を見上げる、真面目な顔つきのオクシスと対峙していた。

 魔力も、知識も、教養きょうようだってない。色無し以前に、生まれ育った環境が違うためスタートラインは遥か遠く。おそらく、それを理解しているからこその難しい表情だろう、もはやにらむような鋭い視線だ。


 白く長いまつ毛に縁取ふちどられた、同じく白い目は愛らしい少女にもみえる。元々容姿ようしの良さは伺えたが、ケガも治り美味しい食事と、充分な睡眠が効いたらしい。

 

 まだ細いものの、大分健康的になったことで見た目のキレイさに磨きがかかっている。光を反射してきらめく白髪と、愛らしい顔のコンボが凄い。まぁ声変わりの終わった、少年にしては低めの声色ですぐわかるが。


 オリーブさんよりも低い位置にある頭を見下ろす。


「やりましょうかオクシス」

「おう、何でもこい」

「いい返事です。では」


 パン! 拍子ひょうしを一つ。

 私の合図で、実は待ち構えていた侍従達が現れた。


「……あ?」


 解散はフリ。各自必要なものを取りにいってたのだ。何が必要かって……決まっているじゃないか。


 メジャーに身体測定用の器具、魔力を使うタイプの裁縫さいほう道具もある。デザインを描く紙などもばっちりだ。

 教えるべきことは沢山あるが、まずは……そう。


「ちゃんとした服がなくては駄目でしょう?」


 ──オクシス専用の服作りに決まっている。



 服を作るにあたってメインで動くのは、アン。

 ダリア様の誕生日パーティの夜、アンダール王子がくれやがったあの花をけたり、飾りにしたりとセンスがいい。オシャレ好きだからなのか、服や装飾そうしょく品もつくる彼女に最近よく助けられている。


「護衛役ですもんね、動きやすくないと!」

「おい! 何だコレ!」

「大事なことです! あっ動かないで」

「ぅぐっ」


 時折、何かを呟きながらテキパキ採寸さいすんしていく。


 頭上でった薄い茶髪が、動く度あちこち元気にハネているが、今日はマシな方かもしれない。なかなか激しい癖っ毛の持ち主なので、ポニーテールも大変だとか。


 ベースは屋敷にあったクロさんのような執事服、護衛役らしくいつでも動ける形にしたい。あまり華美かびである必要はなく、けれどダリア様の侍従として恥ずかしくない程度の、上等な一着を作ろう。

 アンにとって満足のいくものが考えついた頃には、慣れないことで疲労困憊こんぱいのオクシスがいた。


「あとで渡しますね!」

「おー……」


 返事もくたびれきっている。


 このテンションの高さであれば、ダリア様が帰ってくるまでに出来上がっていそうだ。相変わらず素晴らしい特技だと思う。既にこの場を、下手なスキップで立ち去ったアンは、手をつけ始めていることだろう。


「次いきますよ」

「はぁ? 仕事教えんじゃねェのかよ」

「お願いします」

「おわっ!?」

 

 オクシスがしなしなだろうと、問答無用!

 予め準備しておいてもらった椅子へ、ティニオさんとロメリアさんが素早く座らせる。そこに、首だけが出る布をすっぽりかぶせれば簡易美容室の完成だ。


「さっぱりさせちゃっていいかしら」

「いや、べつに何でもいいけど…?」

「じゃあ楽にしてちょうだいね、オクシス」


 シャキンシャキン。オリーブさんの生み出す、ハサミが奏でる涼やかな音色が心地良い。

 

 服も、髪も。せっかく侍従として新たなスタートを切るんだから、まず見た目をそれっぽくしたっていい筈だ。中身なんていくらでも身につけられる。

 汚れを洗い流してシャンプーしても、ざんばらなまま放置していた白髪が次第に整っていき。


「はい、完成よ」

「おお〜!スッキリした」


 清潔感あふれるベリーショートに大変身だ。


 丸見えの首筋をなでつつ、鏡とにらめっこしているオクシスが満足いったようで何より。私も一度切り揃えてもらったのだが、オリーブさんのカットはこう……安心する。

 前髪は眉毛までしっかり見えるほど短く、ツンツンし過ぎないちょうど良さ。何というか気の強い女の子味がすごい。割りと声低いんだけども。



 オクシスも気に入ったことだし、あとはダリア様の帰りを待つのみだ。朝一起こした時に、彼の身だしなみを整えたい、と伝えてあるのでそれを楽しみに帰ってくるだろう。仕事も、今日の分は軽めに配分してあるから大丈夫。


 よし。仕事しますか。




 ──── ──── ────

 

「わぁ……! オクシスかっこいいわね!」

「ん、サンキュ」

「短い髪もすてきよ! その服もにあってる!」

「おう」


 今朝以上に、帰宅したダリア様は大はしゃぎだった。


 あえて黒じゃなく、グレーで仕上げた執事服。普通の糸と一緒に魔力もい込んだ、アン特製のもの。元の服があって、ソレのリメイクとはいえ大変な作業だ。今後は基本的に専門の職人さんに依頼するつもりである。

 最初くらいはね、特別なものがいいかと。

 

 ……でも、これからも一部彼女に任せるかもしれないな。なにせオクシスはまだ幼く、成長期がいつかくる。原作のオクシスも、180cmはあったと思うし。そうなると考えて、職人さんと別に調整をお願いした方がいい。


 ちなみにダリア様の制服に合わせてネクタイは黒だ。

 白いシャツにグレーのベスト、ジャケットはベストより濃いめのダークグレーで中々渋い。そしてベストと同色のパンツ。流石にまだ背伸びっぽさが強いか。

 

 腕やら足やらを問題なく動かす様子に、とりあえずほっと一息つく。髪の毛を結び忘れてしまうくらい、全力で仕上げたアンも報われる。まるで鳥の巣だ。普段どれだけ丁寧に整えていたんだろう?

 

 いけない、とんでもない癖っ毛に目を奪われてしまった。

オクシスの周りを、バターになるんじゃないかという勢いでぐるぐる眺めていたダリア様こと、私の推し。ある声を聞いて、動きが止まる。


「ダリア、サマ」


 ぎこちない、されど優しい声がダリア様を呼ぶ。


 ゆっくり彼の正面に立ち、見つめ合う二人。


「改めて、護衛役になるオクシス、デス」

「ええ」

「よろしくなダリアサマ」

「……、よろしくねオクシス!」

 

 一瞬、言葉につまった理由は考えなくていい。

 一瞬、悲しい顔になった理由も知らなくていい。


「ふふ! あなたと一緒にいれてうれしいわ!」


 ──それはダリア様だけの、感情だ。

 




 




 

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転生メイド、お嬢様を幸せにし隊隊長に就任します〜悪役になんてさせません!〜 にまめ @25y-y80

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