第13話 やる事が決まりまして



 隊長に私、隊員はロメリアさんとアン、オクシス。

 

 更にはノッてくれた残りの侍従……救護きゅうごを担当する住み込み勢では最年長のオリーブさんに、いつも明るく屋敷内のムードメーカーな料理人のティニオさんも加わり合計六名が今回結成けっせいした「幸せにし隊」のメンバーだ。(約一名は強引だった気がしないでもないが大丈夫)


 ダサくたって構わない。重要なのはその中身。


 許嫁から冷遇れいぐうされるダリア様がこれ以上傷つかないように、今ある立場も他にない黒髪もどうしたって注目の的となるダリア様が少しでも笑っていられるように。


 ダリア様の幸せを願う、だけじゃなく。

 私達は幸せのために出来る限り動くのだ。 


 まずはアンダール王子がダリア様への態度を変えた理由を探ろう、とはいっても正直動くに動けない。

 無闇矢鱈むやみやたらとうろちょろ探りを入れて、不審者ふしんしゃ扱いされたらたまったもんじゃない。しかもそれが原因で反感はんかんを買い、関係が悪化してしまえば本末転倒ほんまつてんとうである。


 結局、暴くといっておきながら実際は大したことも出来ず。今回のアンダール王子の件に関して、直接会って話せるのはダリア様なのだ。

 私達はせいぜいそのフォローがいいところだろう。


 じゃあ「幸せにし隊」を結成して意味があるのかって?そんなもの私にだってわからない。


 だが、味方という大きな成果せいかを得た。


 ふざけて子供が適当に考えるような名前でも、私にとっては何より頼もしく感じる。たとえアンダール王子の理由を直接探れなくたって、ダリア様をしたう気持ちから六人がまとまったのは確かだ。

 

 それに……あの日記憶を取り戻してから目まぐるしい数日が通り過ぎた後、どうすればいいのかわからないまま一日一日を過ごしていた時と違って今はやるべきことが見えてきた。僅かな可能性であっても精神的に大きい。



 私の、私達の意思は決まった。


 あとは最も大事な最終確認をしにいこう。



「今よろしいでしょうか、ダリア様」

「どうぞ」


 ノックした私をこころよく部屋に入れてくれたダリア様。失礼いたします、と頭を下げてから中へお邪魔する。

 

 ダリア様は先程入浴にゅうよくを終えたばかりだが、室内にめぐる温かな風によって身体が冷えることはない。

 ついでにアンがチョイスした夏の青空を連想させる爽やかなワンピースタイプの寝巻き着も、裏地うらじが邪魔にならない程度にもこもこしておりオシャレ且つ着心地抜群だ。


 その寝巻き着で、ベッドの上に深く沈む様子はどことなく元気がなかった。まぁそれも仕方のないこと、帰ってきてすぐ仮眠をとったものの今日味わった疲労感が中々抜けてくれないようだ。


 窓辺まどべにあるテーブルの上も、珍しく開いたままの教科書やノートが置きっぱなしになっている。


 とっぷり闇色が空を塗りつぶす時間帯。

 普段眠る時間にはまだ余裕があるし、しっかりと身体のケアもしてあるので体調の心配もないだろう。


 かたり、ベッド近くに椅子を寄せた。


「昼間に聞いたお話、覚えておられますね」

「王妃の話ならもちろんおぼえてるわ」

「では……アンダール王子と会って話したい気持ちは今も変わりませんか?理由を知る勇気はありますか?」

「気持ち……」

「はい」


 こくなことだとしても、聞かなくてはいけない。


 王妃の言っていたアンダール王子が変わってしまった理由を何となく知りたい、というくらいの軽い気持ちで話しかけたところで結果はわかりきっている。

 それこそ今日よりキツイ態度をとられるかもしれない。


 理由を聞けと言われた訳じゃないのだし、ここで踏みとどまって流れに任せる選択肢だってある。 


「おそらく何度会いに行っても、アンダール王子は突っぱねるでしょう。話さえ出来ない可能性すらあります」

「うん」

「もう一度聞きます」



 ──本当に、会って話したいと思いますか?


 もしダリア様が嫌がればやり方を考え直すつもりだった。無理にアンダール王子へ突っ込んで、余計こじれるなら別の道にすべきだと思っていた。


 だからこそ最終確認として聞いてみたけれど。

 

 光の加減で深い赤にも、底なしの黒にも見える瞳が、星の如く強烈きょうれつな輝きをあふれるほどたたえてそこにある。

 どうやら聞くだけ無駄だったらしい。


「今日はかなしかったし、冷たくされるのは苦しいけど……私はアンダール王子がわるい人じゃないって知ってるもの!ちゃんと話して理由が知りたい」


 寝る前だからいつも身につけるアレは外してるにも関わらず、白い手が寝巻きの胸元を握りしめる。気分を落ち着けたい時や感情がたかぶった時によくやる仕草しぐさだ。


 さて、と。

 最終確認も済んだことだし、気を楽にしてもらおう。胸元にある手とは逆の左手に許可をもらって触れる。


 元々の子供体温と室内のぬくい風によって丁度良く温まった手はちょっとした湯たんぽみたいになっていて笑ってしまう。ああ……不思議そうにまたたくダリア様が尊い。

 ってこんなこと考えている場合じゃなかったな。就寝時間も近いんだ、用事を終わらせなくては推しの健康によろしくない。私が原因で体調崩しでもしたら切腹ものだ。


「でしたらしつこいくらい話しかけましょう」

「いいのかな?」

「私としては、ダリア様が何か悪いことをされたと思っていませんので、理由がわかるまで突撃あるのみかと」

「じゃあ気づいてないだけで、私がアンダール王子に何かひどいことしちゃってたら?」

「その時は謝ればいいんです。アンダール王子を傷つけてごめんなさいって、本気なら伝わりますよ」


 こういった作戦をあれやこれやとねくり回しても大体は逆効果ぎゃくこうかになりがちである。シンプルイズベスト。相手が折れるまで真っ向からコミュニケーションをとるべし。


 キツイ態度をとられても。


 冷たく振り払われても。


 酷い暴言を吐かれたても。


 こっちが胸の内をさらけ出していかないと始まらない。ダリア様も突き放されようともあきらめないようす。ひねくれ顔だけ王子に体当たりしようじゃないか!


 悪いことをしていたら謝る、簡単なようでいて意外と難しい当たり前のこと。それでののしられたって、理由がわかれば直していける。私達幸せにし隊がフォローするし、関係改善の協力はしまない。本来結婚する許嫁なんだから当然だ。


 ただし……ダリア様が全く悪くなければ別。


「ダリア様に悪い部分がなく、理不尽な理由であの態度をとっているなら一発殴っても許される筈です」

「そんなのダメよ!」

「では平手を一発」

「それもダメ!痛いでしょうっ」


 いや、私は殴る程度許されていいと思う。


 王子というさからえない立場の人間が、理不尽に許嫁へあんな態度をとっていい訳がない。国を守り動かす、国民の見本となるべき王子が?たとえば八つ当たりみたいなくだらない理由で?やっていたとしたら……うん、やっぱり殴ってもいいんじゃなかろうか。一人頷く。


「ですが、本当にどうしようもない理由だったら怒るくらいはした方が二人のためだと思います」

「ううん……それは、そうなのかなぁ?」

「王子といえど甘やかしてはいけません」


 うんうん可愛らしくうなっていたが、妥協だきょうしたらしい。

 でもまぁ、本気で怒れずに許してしまう絵面えづらしか湧かない。多少の注意はまだしも全力で怒るイメージか……眠気に負け始めた、全世界に見て欲しい最高最強の推しからは想像出来そうになかった。


 はーい寝ましょうね。おやすみなさい。


 ふかふかベッドに顔以外が埋もれたダリア様の、お腹辺りを一定のリズムで叩く。しばらくそうした後、うつらうつらしたダリア様が私に問いかけた。


「いっしょに、いてくれる?」


 半分夢の世界に突入していても寝言ねごとではないだろう。

 多分、アンダール王子と会う時のことを示しているとは思うが他の意味もふくめて私は自信をもって応える。


「勿論です、ダリア様だけのメイドですから」


 これが今にとって私の誇り。


「そっかぁ……いつも、ありがとう」

「はい」

「んふふ、ねぇウェンディ?」


 ベッド近くで腰を屈めて耳をかたむけた私に、横向きになったダリア様のとろけきった笑みがクリティカルヒット。


 思いっきり心臓をぶち抜く破壊力。



「だぁいすき」


 

 

 ──── ──── ────


「っふー……(可愛いにもほどがあるだろ!!)」


 眠るのを見届けるまで叫ばなかった私を誰か褒めてほしい。素早く部屋から退出たいしゅつして、一人身悶みもだえる。

 どうしてもニマニマしてしまう口元をそっと手で覆い隠して、私はなんとか自室に辿り着けたのだった。


 今日も私の推しが世界一可愛い───!!


 


 









 


 

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