非情戦隊ニワナレンジャー

フィガレット

第1話 非情戦隊ニワナレンジャー

 時は西暦2xxx年。この国は沢山の戦隊によって守られていた。


 公務戦隊、民間戦隊、国家機密戦隊、下請戦隊、悪徳戦隊、チェーン戦隊、様々な戦隊で溢れていた。


 そして、そんな数多ある戦隊の中でも密かに最強と謳われるある戦隊がいた。


 ここは、その戦隊『非情戦隊ニワナレンジャー』の楽屋・・・。



「昨日の怪人は強かったなぁ。ソロであそこまで頑張ってる怪人は久しぶりに見た」


 リーダーのレッド(38歳)は満足そうに語る。


「まぁ、俺らの敵ではなかったけどな。わざわざリーダーが一騎打ちなんてする必要はなかったのに・・・」


 チャラ男イケメンキャラにそろそろ限界を感じる根は真面目でフェミニストなブルー(32歳)はリーダーに苦言を呈する。


「まぁ、そこがリーダーのいい所なんだけどなぁ。相手の怪人も満足してたし。あれは多分、改心して暫くしたらどこかの戦隊にスカウトされるんじゃない?」


 食べるの大好き、好物はカレーの少しぽっちゃりイエロー(28歳)はフォローする。


「罪も軽かったしな。器物破損と傷害罪だが、強い相手に挑んだだけだし後遺症の残る様な攻撃も避けていた。リーダーの説得のおかげでスッキリした顔してやがったな」


 ニワナレンジャーの頭脳、グリーン(28歳)は今日も戦隊を支えている。


「リーダーの説教、僕にも沁みました。『自分の強さを試したくなったらいつでもかかって来い』とかマジで痺れました!」


 リーダーのレッドに憧れる地味で影が薄いが何故か保護欲が湧くと人気なブラック(18歳)は今日も目を輝かせながらレッドを見つめている。


 レッド、ブルー、イエロー、グリーン、ブラックの五人揃ってニワナレンジャーだ。


 最近、ピンクが寿退隊して空席になっていたが、怪人結社を裏切り正義に目覚めたブラックが拾われて今のメンバーとなった。


・・・


「しかし俺も、もう歳だなぁ・・・全盛期に比べるとパワーも落ちてきた。ブルーに最強の座を明け渡す日も近いかもな」


 レッドはもう38歳だ。彼は身体の衰えを感じていた。


「何を言ってるんだ?竜人たつじんとも称されるリーダーに俺が敵う訳ないだろ?技には、まだまだ磨きが掛かっていってるじゃないか」


 ブルーは笑いながら言った。レッドは以前、ドラゴンと一人で渡り合った事から竜人たつじんと呼ばれている。異界からはぐれたドラゴンをなだめて送り返したのだ。その時もレッドは皆が恐れ逃げ惑う中、一騎打ちで和解し穏便に事を収めた。


「あれは、相手が手加減してくれてたからだ。彼は武人だった」


 しかし、レッドもまた本気ではなかった事を皆もまた知っていた。


**


「で、今日の招集についてなんだが・・・」


 グリーンはホワイトボードに資料と写真を貼り付け、スクリーンにデータを映し出した。


「罪名は、窃盗と誘拐。相手は『エン・ザ・インテリジェンス』通称ETI。民間下請怪人結社だが、認可の取れた真っ当な結社だった様だ。だがこれがちょっとキナ臭くてな・・・」


 グリーンは少し意味深に話を言い淀む。すると、ホワイトボードに張り出された写真を見てブルーが叫んだ。


「え!?まさかあおいちゃん?そんな・・・バカな・・・」


 怪人結社の構成員の写真の中にあった一人。

 それは・・・ブルーが最近、よく相談に乗っていた女性だった。


「ん?まさか前に相談してきた、気になっている女性か!?」


 ブルーは以前、レッドに居酒屋で飲みながら相談を持ちかけていた。


ーーー〈回想〉ーーー


青「実は俺、今のチャラ男キャラに限界を感じているんだ」

赤「まぁ、お前も32歳だしなぁ」

青「しかも、気になっている人がいて・・・でもその子は怪人結社社長の娘なんだ」

赤「マジかぁ。でも許認可が取れてる所なら問題ないだろ?」

青「そのはずなんだが・・・実は親会社が非合法でやばい事やってるみたいでな」

赤「公務戦隊の俺らだと不味いかぁ・・・。親会社の方、潰すか?」

青「いや、俺の私的な理由で戦隊は動かせないだろ!?」

赤「表向きはな。だがお前は俺らの家族の様なものだ。理由なんて作ってやる」


「ありがとう。でもまだ、彼女からいい返事を貰った訳じゃないから本気で挑もうと思う。まだちゃんと相談された訳じゃないし、まずは信頼して貰える様にならないとだな。彼女の抱える悩みも全て受け止めて彼女を振り向かせるよう頑張ってくるよ」


 チャラ男で女好きなキャラのブルーだが実は真面目で、チャラさは女性を大切にしながらも本気の一人以外を寄せ付けない、そんなブルーの決意の裏返しだった。

 彼を好きになった女性はみな口を揃えて言う。


『彼は初めから私に興味はなかったわ。ただ優しかっただけ』


 ブルーの女性ファンは多いが、ファンはみんなブルーが真剣に愛する一人を見つける事を願っていた。


ーーー〈回想 終了〉ーーー


「彼女は思い詰めた表情で、もう会えないと言っていた・・・まさかこんな事になっていたなんて・・・」


 ブルーは頭を抱えて項垂うなだれた。彼女が打ち明けてくれなかった事、打ち明けられる自分になれなかった事が悔しかったのだろう・・・。


「おい。何をしょぼくれてんだ?前を見ろ!」


 レッドはブルーに叫んだ。


「チャンスだぞー?他の戦隊に依頼が行かなかったのは奇跡だ。それにグリーン、キナ臭いと言ったよなー?なにかあるんだろー?」


 イエローはニヤリと笑う。イエローとブルーはライバルの様に互いを高め合ってきた。その実は、互いを信頼し合っている。その表情は俺も手伝ってやる、とでも言いたげだ。


「イエローは、何気に機転も効くから話が早くて助かるな。この件、多分この民間結社ETIは嵌められている。窃盗の件は親会社側の策略だろうな。誘拐については逃亡の際、むしろ救助した可能性が高い、が何故かそこが隠蔽されている・・・上層部を敵に回す事になるかもな・・・」


 グリーンは、通常は末端の戦隊が知るはずのない情報を直様かき集める。


「みんなにも迷惑をかけるかも知れないが、責任は俺が持つ。この案件・・・根こそぎいくぞ!手伝ってくれ!!」


 レッドは皆に熱い声で告げた。


「リーダー・・・ありがとうございます!」


 ブルーは目に涙を浮かべながら決意した。彼女を必ず助けると!


***


赤「さて、作戦を決めるぞ。上層部はどこまで根を張ってそうだ?」

緑「共産結社の一部と自由結社のごく一部だな。思った程、酷くはなさそうだ」


「お前が味方で本当に良かったよ。お前の情報力は何処ででも引っ張りだこだろう。

 俺はお前にさっさとリーダーを譲りたいぐらいだ」


 レッドは笑いながらも割と本気だった。


「冗談だろ?あんたがリーダーだから俺はこんなクソ面倒臭い事が出来るんだよ。引退したけりゃあんたが世界を面白くしろ」


「無茶言うなよ・・・」


・・・


緑「親会社の魔導結社は真っ黒だな。叩けばいくらでも埃が出るのをさっき言った上層部の連中が隠蔽してる。追ってる連中も結構いるけど難航してるみたいだな。黒い戦隊も結構いるし。タイアップして共闘出来そうな白の戦隊は『グルメ戦隊タベレンジャー』と『ストイック戦隊キントレンジャー』が連携をとりたい所だが・・・」


黄「その二組なら俺、仲がいいから直ぐに話を通をせるよー。こないだボヤいてたのはこの件だったんだなー。どっちもキッカケ欲しがってたから飛びつくと思うよー」


 イエローは交流が深く顔が広い。後輩からも慕われていてしょっちゅう飯を食べているからぽっちゃりだ。しかし彼の体脂肪率は、実は相撲レスラーより低い。努力家なのだ。


 戦闘力はブルーにも匹敵するが本人はそれをお首にも出さない。

 イエローもまた、この戦隊の中枢なのだ。


・・・


赤「よし!負けるぞ」


 潔くも力強い、なんとも謎な号令から作戦会議が再開される。


赤「とりあえず、今回の戦闘だが時間稼ぎの為にも、上手く負ける必要があるだろうなぁ」


緑「逃亡は、特許の認可が下りるまでの時間稼ぎの為だった様だ。社長はこの特許による収入で社員の生活を守る為に逃亡してるみたいだな。特許内容はフロートエンジンと魔導洗脳装置だ。どっちも多くの企業が喉から手が出るほど欲しい代物だが、こいつを奪う為に犯罪組織にして嵌めようとしているんだろうなぁ。だからこそ最強の俺らが当てられたんだろうけど計算が甘かったな。ウチのリーダーの甘さを見くびっていた様だ」


 グリーンは笑いながら言った。


赤「褒めてねぇなぁ・・・」


緑「俺らが裏切れば、敵さんも必死になるだろう。正直、表立って裏切るのは面倒そうだぜ?一応、ETIは犯罪者扱いで令状まで降りちまってる。冤罪を晴らす前に特許を奪いとる算段も付いているみたいだから捕まったらアウトだ。しかし、俺らが裏切ったら国が全力で動く。そうなるといくら俺らでもお手上げだ」


赤「魔導洗脳装置は兵器として完成してるのか?なら、それを使わせれば自然に裏切れるかもだが・・・」


緑「実用段階ではなさそうだな。だが悪者からすれば喉から手が出るほど欲しい技術だ。ETIの社長は社員を操っていた事にして社員に罪がいかない様にする為に、完成したと偽っているみたいだ」


赤「立派な社長じゃないか。ブルー、お前のお義父さんは素晴らしい人みたいだぞ?」


青「気がはええよ!!」


・・・


赤「よし!ブルー、お前だけ裏切れ」

青「はぁ!?さっきの感動を返せよ!!」

赤「まぁ、落ち着いて話を聞け。まず、お前は愛の為裏切るんだ」

青「その言い方は、こっ恥ずかしいな・・・」


 この国では民間視聴者の意見が最優先だ。つまり、民間視聴者が納得して続きを見たければ、国は介入してこない。


赤「チャラ男ブルー、一世一代の熱い熱い情熱の裏切りだ。

 視聴者は絶対に応援する」

緑「いい作戦だな」


 一同ニヤニヤが止まらない。


青「恥ずか死ぬ・・・」


・・・


緑「ブルーだけ裏切っても正直、リーダーがいるからこっちの優位は揺るがないぞ?

 手を抜いて視聴者にバレたらアウトだ」


 レッドが強すぎて、負ける方が難しい。


赤「この前、開発局から送られてきた究極矛アルティメットランス完全盾パーフェクトシールドがあっただろ?あれってぶつけたらどうなる?」


緑「盾は壊れないが、持ってる奴がぶっ飛ばされて無事じゃ済まない。盾は欠陥品だ」


赤「俺が盾を持ってたら怪我するか?」


緑「ん?ちょっとシミュレーターで計算する・・・うわぁ・・・リーダー人外だなぁ。無事っぽいかも?でも気絶はするかも」


赤「よし、ブルー。お前、究極矛を持って裏切れ、で俺にぶっぱで。後はブラックも裏切らせよう。ブルーの事情とETIの裏情報を握らせておけば自然と裏切れるだろう」


青「無茶苦茶な事を言ってるなぁ・・・」


黒「マジ!?僕、空気かと思って心配してましたが出番があって良かったです♪」


赤「いや、空気ってお前ルーキーのNo. 1だろうが。俺の歳になる頃には俺より強くなってるよ」


黒「ご冗談を♪」


****


 こうして作戦会議を終えたニワナレンジャーは戦闘に赴いた。

 予定通りブルーとブラックが裏切りブルーがレッドに究極矛をぶっぱ。

 レッド失神後、フロートエンジンを詰んだ飛空艇により逃亡した。


『この話は、近年の最高視聴率を叩き出した。』


 その後、タベレンジャーとキントレンジャーも巻き込み、何より視聴者を完全に味方に付けたニワナレンジャーは親会社の魔術結社を完全に制圧し、また上層部の今回の件に絡んでいた者たちを一斉検挙した。


『こうして、今回の件は無事めでたしめでたしと相成りましたとさ。』


 そしてブルーと葵ちゃんは交際を始める事に。

 ファン一同は、皆ブラボーと見守った。


『社長は無事、冤罪が認められた。』


 そして、特許を取ったフロートエンジンシステムは世界中を震撼させた。

 ETIは上場し、国屈指の大企業へと変貌していく。

 しかし、社長の人情味は変わらない。

 そして、ニワナレンジャーへの感謝を忘れなかった。


 ニワナレンジャーへの技術提供を惜しまないETIのバックアップは、彼らの最強の座を更に盤石にした。


 元々、視聴者から圧倒的支持を受けていたニワナレンジャーは、更なる不動の人気を博して行くこととなる。


 非情戦隊ニワナレンジャーは今日も戦う。


 しかし・・・


*****


赤「よし!負けよう」


 非情戦隊ニワナレンジャーは、今日も非情戦隊にはなれない。


 そんな、ニワナレンジャーの勝率は7割そこそこ。


 でも視聴者のみんなは、そんなニワナレンジャーが大好きだ!



ーーーーおしまい♪ーーーー

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