第11話 ようやくキッチンに入れたけどやってることはあんまり今までと変わんない、連携とか段取りを覚えるのは大切なのか

 さて、せっかくオーナーから白衣コックコートを渡されて本格的にキッチンに入れることになったのは嬉しいけど、やることは今までとあんまり変わらない。


「相田ー、フライパン洗ってくれー」


 チーフからの指示で俺はフライパン洗いに取り掛かる。


「わかりましたー」


 調理に使った鍋やフライパン、包丁やお玉・菜箸、食べ終わった後の皿やシルバー類などを洗ったり、野菜や果物を洗ったり、ホール缶のトマトを缶切りで開けたり、皿やグラスを磨いたり、相変わらず床や流し・排水口などを洗ったりの雑用ばかりだ。


 小休憩中にため息を付いていたら桜田さんがやって来た。


「おんや、なんか疲れてるねー。

 いったいどしたの?」


 俺を見た桜田さんがそう声をかけてくる。


「うん、なんかさ、せっかくキッチンに入れたのに相変わらず雑用ばかりだなーって」


 桜田さんは小さく、くくっと笑っていった。


「あのね、見習いなんてそんなものよ。

 多分しばらくは今やってる作業に加えて野菜のカットとか下ごしらえまでかな。

 でも昔の和食は下積み3年で板前になるには10年20年かかるって言われていたけど、今は和食でも下積みは1年2年で5年位で板前になる場合もあるそうだし、イタリアンも同じよ。

 そんなに長い時間をかけていられないっていうのもあるけどね」


「へえ、そうなんだ」


「昔とは違って今は変化も早いしね。

 あ、でも状況を見て必要な器なんかを用意しておいたりするのも大事よ。

 そのためのホール経験でもあるし」


 桜田さんの言葉に俺はうなずく。


「なるほど、メニューによって予め必要な皿とかを用意しておけばそれだけ料理の作業もスムーズになるし配膳も早くなるもんな」


「そうそう、具体的に調理に携わる前に現状では周りがどういうことをしていて、どういうことを手伝えばいいか先読みして適切な行動を取る段取りを身につけるのものも修養として大事なの、ホールとキッチンもそうだしキッチンの中でもスムーズな連携が大事だからね。

 でも最初はちゃんと確認をとってやったほうがいいけど」


 そうか、メニューによって必要な器を覚えてそれを出しておいたりするのも大事なんだな。


「なるほど、そうだよね。

 桜田さん教えてくれてありがとう」


 桜田さんは苦笑していう。


「本当は自分で気がついたほうがいいんだけどね。

 でも、私が紹介したわけだし」


「たしかにね。

 でも、調理技術だけではなく段取りを組む力も重要なのかぁ。

 たしかにそうだね」


「そうよ、で、そのうちまかない作りが任されたらある程度はパパやお兄ちゃんに認められたと思っていいと思うわよ」


「まかない作りかぁ。

 先はまだまだ遠そうだな」


「遠くなるか近くなるかは行動次第だと思うけどね。

 あ、まかないは当然だけどなるべく安く、でも美味しく作るのが大事だからけっこう大変よ」


「安くて美味しくね。

 そのあたりは貧乏人だから俺に任せてほしい」


 そういうと桜田さんは楽しげに笑った。


「あはは、それはたしかにね」


「いや、たしかにって言われるとそれはそれで複雑な気分だけど」


 まあ、焦ってもしょうがないような気もするし今はお店の中の作業を覚えていこう。


 そして出来ることをしていくんだ。


 キッチンにもどってオーナーやチーフがやってることを見る。


 チーフがつくってるのは前菜アンティパストか。


「チーフ、用意する皿これでいいですか?」


「おう、そいつでいいぞ」


 オーナーは帆立貝を外して下処理してるみたいだ。


 やり方は……あんな感じなのか。


「オーナー、それやらせてくれませんか?」


「ん、いいよやってご覧なさい」


 俺は見よう見まねで帆立貝の下処理を一つやってみた。


「うん、いいんじゃないかな、じゃ後の残りも任せるよ」


「はい!」


 よっしゃ、調理そのものはまだまだとしても段取りとか下処理をやらせてもらえたぜ。


 もっともっといろいろ覚えていかないとな。

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