第9話 レシピ通りからそれに加える一工夫か難しいけど大事なんだな

 さて、飲食店では衛生と外見の清潔さの維持は最も重要なことだ。


 飲食店を見るポイントは当然メニューの味や接客サービスなども重要だが、店舗の“清潔感”というのは重要だ。


 今日は学校で”食品の安全と衛生”についての授業を受けている。


「まな板は食虫時の原因である細菌などが意外と繁殖しやすいです。

 特に鱗付きの魚などをさばいた後はまな板は温水で軽く下洗いした後に、中性洗剤を使用してスポンジやブラシで丁寧に洗ってください。

 まな板に包丁の傷がついている事も踏まえて横にではなく縦に傷の奥に入り込んだ細菌を掻き出すことも念頭に入れて。

 洗剤が十分浸透したら流水でよくすすいで乾いた清潔なダスターで水分を拭き取り、全体に除菌用のアルコール製剤を噴霧して除菌を徹底してください」


 これ意外と大事なんだよな。


 これから暑くなっていくから魚をさばいた後でサラダ用の野菜とか生でで食べるものを切ったりすると食中毒の原因になったりする。


「また毎日の料理終了後にはまな板は温水で軽く下洗いした後に、中性洗剤を使用してスポンジやブラシで丁寧に洗ってください。

 洗剤が十分浸透したら流水でよくすすいで乾いた清潔なダスターで水分を拭き取り、まな板にキッチンクロスをかけて、そこに所定の濃度に希釈した塩素系漂白剤をまんべんなくかけて、そのまま一晩おいて、次の日にキッチンクロスを外して温水で洗い流せば、包丁の傷跡などから染み込んだ汚れも真っ白に漂白できます。

 除菌を徹底するのであれば所定の濃度に希釈した塩素系漂白剤に浸漬するか煮沸などで加熱殺菌するのもよいです。

 そして使用する前までは清潔な場で保管することを徹底してください」


 食中毒は怖いからな。


 起きると保健所が来て営業を停止させられちまう。


 まあ、実際に飲食店で働いてみると客席やトイレの見栄えや匂いというのは評判につながるのがわかるんだがな……。


「現在厚生労働省のデータから食中毒の約60パーセントは家庭などでなく飲食店で発生していることがわかっています。

 食材の管理、食材を保存する冷蔵庫や冷蔵庫の管理、食器やまな板、包丁など調理道具、スポンジやキッチンクロスなどの衛生管理など全て重要なことです。

 美味しいものをお客様に提供するだけでは片手落ちになりますので十分理解した上でこうした衛生管理の徹底の重要さを覚えてください。

 では本日はここまで」


 座学の授業が終わって午後からは調理実習。


 座学と実習はだいたい半々くらい。


 その前に昼飯なんだが今日はボンゴレバジルを作ろうと思う。


 このスパゲティの別名はヴェルデで緑の意味合い。


 ボンゴレはアサリのことで今の季節のアサリは旬だからとても美味しい。


 当然だがあさりは塩水につけてちゃんと砂抜きをしてある。


 砂が残ったままだとジャリジャリして最悪だからな。


 パスタを塩を入れた熱湯でゆで、フライパンにオリーブ油を引いて切った鷹の爪とにんにくをいためてオリーブオイルにになじませ、そこにあさりを入れていためて、あさりの口が開いたらゆであがったスパゲッティを加えて市販のバジルソースを加えて、手早く混ぜれば出来上がり。


「よし出来たな、いただきます」


 食べてみたがチーフのつくったまかないのボンゴレバシルと比べてやっぱイマイチだ。


「うーん、やっぱりイマイチだなぁ」


 そしていつもどおり桜田さんがやってくる。


「やっほー差し入れだよー。

 おや今日はボンゴレバジル?」


 俺はうなずきつつ答えた。


「うん、そうなのだけどなんかいまいちなんだよな」


 桜田さんはボンゴレバジルの入った皿を見ながら言った。


「そうなんだ、ちょっと私も食べてみていい?」


 桜田さんなら何がだめなのかわかるかな?


「どうぞどうぞ」


 桜田さんは自前で用意してきたフォークで俺のつくったボンゴレバジルを試食する。


「じゃ、一口……うーん、まあお店と違うのは当然ね」


 あっさりそういう桜田さんに俺は聞く。


「何が足んないんだろう?」


「辛口白ワインとバターね」


「ワインとバター?」


「まあ、ワインも安物だとかえってまずくなりそうだし、しょうがないと思うけどね?」


 お店のワインだと隠し味と言いつつ、結構いい物なんだろうな。


「そっか、安くあげられるレシピでつくったんだけど良いワインは難しいなぁ」


「ワインにこだわることもないと思うわ、味醂とかでもいいんじゃないかしら?」


「味醂?」


「味醂もアルコール調味料だし、ワインに比べれば安いと思うし」


「確かに味醂なら安いと思うけどあうかな?」


「一度試してみたら?」


「試す?」


「そう、私がつくったカルパッチョにも醤油を入れてるけど、イタリアンでのレシピ通りより日本のお客さんに合わせたより美味しくなる味付けをすることも大事なことよ」


「なるほど、それもそうか」


「相田くんのシフォンケーキ、確かにおいいいけど、自分だけの一工夫を加えてもいいと思うの」


「自分だけの一工夫?」


「具体的に何をすればいいかはわからないけど、多分大事なことだと思うよ」


「そっか、うん、そうしてみるよ。

 ありがとうな桜田さん」


「そういうわけで今日のシフォンは何かな?」


「今日はクリームチーズのシフォンだよ」


「ほほう、なかなかいいところをついてくるわね」


 シフォンケーキをシフォン型から外して皿に取り分ける。


「ではお嬢様どうぞお召し上がりくださいな」


「うむ、よきにはからえ」


 ちゃっかり紅茶を用意している桜田さんにシフォンケーキを取り分ける。


 桜田さんが早速一口と口にしていう。


「うん、ちゃんとメレンゲが立ってるね。

 クリームチーズを入れるとメレンゲが弱くなるから結構難しいんだけど。

 いいんじゃないこれ」


「お嬢様にお褒めに預かり恐悦至極」


 金をかけないでもできる一工夫か。


 たしかにそれも大事なことかもしれないな。

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