第7話 桜田視点:やってみれば鯛をさばくのは全然怖くなかったわ
今日はびっくりしたことがいっぱいあったわね。
まずは鯛をさばく実習のときに過去のあれがフラッシュバックして気絶してしまったこと。
あれっていうのはずっと昔にパパの知り合いの漁師さんが釣ってきてくれた鯛の口の奥の内臓のそばに”タイノエ”っていう気持ち悪い虫が入っていたのを見ちゃったこと。
あれ以来私は魚をさばくのが大の苦手になってしまったの、だからキッチンに入ることも避けていたのよね。
私は今日の体調不良も有って学校を早退したけどその帰りに魚屋さんで鯛を買っていくことにした。
「おじさん、一番いい鯛を一匹頂戴」
「あいよ、一番いいやつだな」
「あ、鯛の口の中に虫は入ってないですよね」
おじさんは苦笑いしながらいう。
「タイノエかい?ああ大丈夫入ってないさ。
でもあれは鯛之福玉って言って縁起のいいもんでもあるんだけどな」
そうかもしれないけどやっぱり気持ち悪いものは気持ち悪い。
「でも、正直気味が悪いもの」
「たしかに若い女の子にはそうかもな。
大丈夫ちゃんと見てるから安心してくれ」
私は魚屋さんのおじさんに鯛を袋に包んでもらって家に向かった。
「でも、相田くんと約束した以上そんなこともいってられないわよね」
意識を失った私を相田くんが医務室まで運んでくれて……しかもお姫様抱っこでだって。
もー、恥ずかしいよね。
でもね、もっと恥ずかしかったのは私が魚をさばくのが怖いってことを彼に知られてしまったこと。
でも彼はなんで?なにが?って言ってくれた。
トラットリアの娘が魚を捌くことが出来ないのは恥ずかしい、そう私が思い込んでいたことを彼は壊してくれたの。
とはいえやっぱり頭を落としたら”あれ”がひょっこり出てくるのは怖い。
私は2階の住居部分の台所で鯛を前に包丁を握りしめていた。
「あれは出てこないって言ったから大丈夫よね……」
鯛の鱗をウロコ取りでこそぎおとしてエラの部分に包丁を入れる。
「大丈夫、怖くなんか無いんだから」
頭を落としエラと内蔵を引っ張り出す。
「だいじょうぶ、あれは居ない……」
うん、大丈夫、あれは居なかったしあの光景がフラッシュバックすることもなかった。
もしも居たらどうしようと思ったけど、これさえクリアできおれば後は大丈夫よ。
鯛を三枚におろしてサクにしてから適度な厚さに均等に切ってそれに軽く塩・こしょうを振ってから冷蔵庫で冷やす。
その間ににんにくを半分にきって、平皿にオリーブオイルを少し引いてそこににんにくの切り口を擦りつけていってにんにくの香りをつけ、そこに鯛の切り身をオリーブオイルにつくように並べていく。
その上にバジルやベビーリーフ、切ったパプリカなどを飾ってその上に柚子こしょう、塩、オリーブオイル、レモン汁、醤油をよく混ぜてドレッシングとしてふりれば完成。
「よーし、できたよ!」
えへへ、ちゃんとカルパッチョが出来たわ。
味付けをシンプルにするならオリーブオイルとレモン、塩だけでも良かったのだけど柚子胡椒や醤油を入れたほうがお魚には会うのよね。
そして、夕方バイトでやって来た彼にカルパッチョの乗った皿を差し出してみたの。
「じゃーん、約束の鯛のカルパッチョよ。
お昼に食べられなかった分いっぱい食べるといいわ」
相田くんが驚いたように言った。
「おおー、これ桜田さんが一人でつくったの?」
「そうよ」
「じゃあ遠慮なくもらうね!」
パクリとそれを口にした彼は嬉しそうに言ったの。
「最高に美味しいよ、さすがトラットリアの娘さん、プロの味だね」
「えへへ、そうかな?」
私がつくったものを彼が美味しそうに食べてる様子を見るのはなんか幸せね。
さて、体調も直ったし今夜は彼と一緒にウエイトレスも頑張ろうかな。
「じゃあ、今日もバイト一緒にガンバろうね」
「ああ、そうだね。
ホールのことを完全にできたらキッチンへも入れてもらえるかな?」
「うん、多分大丈夫よ」
「じゃあ、もっともっと頑張らないとな」
「ん、その調子よ」
私も頑張らないとね。
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