第5話 トラットリアのバイトはホールのウエイターからかぁ
さて昼飯で差し入れの美味しいヒレカツを食ってエネルギーも補給したし、その後の午後の実習も終わって、バイト初日のトラットリアパラディーゾに向かう。
そして俺は駅の切符売場で悩む。
「うーむ定期を買っておいたほうがいいのか……交通系ICカードにチャージするだけでいいのか」
悩んでる俺に桜田さんが言った。
「定期なら交通費がすぐ出ると思うよ」
「よしなら定期にしよう」
くくっと笑う桜田さん。
俺が極貧なのは知ってると思うんだけどな?
「それにその方がこっちも経理的な処理が面倒じゃないしね」
「なるほど、さすが経営学科所属」
そんな事を言いながらとりあえず一ヶ月定期を買って俺は桜田さんと一緒に改札を通り電車に乗り込むと、あっという間に横浜に到着した。
あとは徒歩でお店に向かう。
「あー、今更ながらドキドキしてきたよ」
「大丈夫大丈夫、そんな構えないでも」
そして店に到着し中に入るとオーナーがニコニコ顔で迎えてくれた。
「ん、よくきてくれたね。
今日からよろしく」
「はい、本日よりよろしくおねがいします」
こういった家庭的な雰囲気もこのお店が今でも営業を続けられる理由なんだろうな。
「んじゃ、相葉くんこれに着替えてね」
先に更衣室でウエイトレスベストの上にエプロンの姿に着替えていた桜田さんに渡されたのは白いワイシャツにサテンのスーツと蝶ネクタイ。
「え、ええっつ?!これって何?俺コック見習い何じゃないの?」
くくくっと笑う桜田さんがしれっと答える。
「だからまずはホールからなんだよ。
メニューとかお客さんの動線とか私の接客を見て覚えながら、暇な時に厨房の仕事も見ながら覚えていってね」
まあそう言われれば納得だ。
「まあ、調理専門学校を卒業もしてない調理師免許も持ってない人間をいきなりキッチンに入れられないよな」
「まあ、それもあるけど、コックだってフロアに出てサービスすることも結構あるのよ」
「そ、そうなんだ、じゃあ着替えてくるけど更衣室はどこかな?」
「あ、そっちの奥のドアの右側だよ、左側は女子更衣室だから絶対はいらないこと。
入ったら社会的に死ぬから」
「言われなくてもわかってるって」
更衣室の中のロッカーに俺の名前がテプラで貼ってありそこを開けて服を着替える。
「蝶ネクタイなんて締めたことないんだけど大丈夫かな……」
ロッカーの中の鏡を見ながら何とかそれっぽく身につけた後フロアに戻る。
「これで大丈夫かな」
藤崎さんはニコニコ笑いながら言った。
「大丈夫、とっても似合うわよ」
「そ、そうかな?」
「売れっ子の芸人みたい」
げ、芸人かよぉ……桜田さんめ俺をからかって楽しんでるな。
「おーい、相田!」
「は、はい、チーフ」
そういって俺の前にメニューを置くチーフ。
「ちゃんとメニューの一覧は暗記して覚えろ。
メニュー表はお客さんに渡すものだからな」
「は、はい」
やっぱりチーフは厳しいな。
そこへかかるオーナーの声。
「あ、今はタブレットを使ったオーダーエントリーがあるからそこまできちんとしなくてもいいけどね。
昔はオーダーは暗記して伝票に書き写していたけど、その場でちゃんとオーダーの確認を取ればそうそうオーダーミスはしないはずだよ」
「あ、そうなんですか」
オーナーは笑いながらいう。
「時代の流れってやつでね。
でもその方が回転率もアップするしオーダーミスなどのヒューマンエラーも減るし。
レジの会計の間違いもなくなるし良いことだよ」
「ピークタイムにいかに正確にオーダーを取ってお客さんを満足させながら多くのお客さんをさばくようにするのが大事ってことですね」
「そうなんだよ、ランチタイムとかは11時半から13時くらいまでだけどやはり多いのは12時過ぎから12時半までくらいだからね」
「わかりました、がんばります!」
桜田さんが生暖かい笑みで俺の方をぽんと叩く。
「ん、その意気その意気、じゃあまずはテーブルと床と窓の清掃から始めようか。
ついでにテーブルの番号も覚えてね」
「リょ、了解」
最初は掃除からかぁ。
でも、掃除も大事だよな。
そしてオーダーのテーブル番号を間違えないのも当然大事だよな。
ディナータイムに入る前までに掃除はきちんと終わらせたしテーブル番号も覚えた。
そしてオープン後お客様が来たらまずは挨拶。
「いらっしゃいませ」
そして席を案内した後オーダーをとってオーダーエントリーに入力してオーダーメニューを確認してからキッチンにそれを通し、調理が終わったメニューをテーブルへ運び、お客様食べ終わったら、レジ会計もする。
レジ会計もバーコードで管理されてるから間違えないで済むのはありがたいな。
「ありがとうございました。
またのご来店をお待ちしています」
「ふふ、また来るわね」
そして22時には閉店して後片付け。
そして待ってましたの賄いは”絶望のパスタ”ことアーリオ・オリオ・ペペロンチーノ。
ニンニクとアンチョビとトウガラシのパスタだな。
貧乏人のパスタとか絶望のパスタとか名前はあれだがとても美味しい。
「うわ、すげーうまいっす」
そういうとオーナーが破顔した。
「そうだろそうだろ、息子の手打ち生パスタは絶品でね」
一方のチーフは渋い顔。
「今はこれくらい普通にできないと生き残れないよ父さん。
冷凍のパスタでもそれなりに美味いんだから」
桜田さんもおいしそうに食べてる。
「でもお兄ちゃんのアリオリオはいくらたべても飽きないよ」
「ま、そうでなけりゃ食いに来てもらえないからな。
お客様に店の味を飽きられるのは怖いぞ」
桜田さんはウンウンとうなずいている。
「たしかにそうかもねー」
そんな感じで後はホールの片付けや掃除をして今日はアパートに帰った。
「はーバイトは疲れたけどいろいろ勉強になったな」
バイトを斡旋してくれた桜田さんとオーナーには本当感謝だ。
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