第4話 調理の下準備として包丁さばきは大事だ

 さて、学校での調理実習の最初は様々な食材を包丁で切ること。


 包丁をすばやく正しく使え、食材を調理に適切な形に切るのは料理人としての基礎の基礎だ。


 というわけで今やってるのはキャベツの千切り。


 キャベツはレタスなどに比べて繊維が多くて硬い。


 なのでロールキャベツのように煮るという方法もあるが、千切りにすることで火を通さなくても柔らかい食感になりサラダや添え物に使いやすくなる。 


 大量に千切りを必要とする飲食店では千切り専用の機械を使っていることも多いが小さい店だと包丁で切るのが普通。


 なるべく幅を細く揃えて手早く切るのが大事だが案外千切りは難しい。


 よく切れるように研いである包丁も重要なんだが包丁の手入れはまた別の時間に行うこと。


 半分に切ったキャベツをまな板の上に乗せて左手は指先を丸めて包丁は1㎜幅程度でまっすぐ下ろしていく。


「キャベツの千切りって簡単そうで案外難しいよなー」


 結構な人数が苦戦しているが桜田さんは余裕でキャベツを切り刻んでる。


「キャベツの千切りなんてなれれば簡単よ」


「さすが桜田さん、見た目も綺麗だ」


 幅が不揃いで広くなり見た目が不格好なやつも多いのに、桜田さんの千切りは見た目も綺麗だ。


「それはそうよ、料理は見た目も大事だもの」


「そうだよな、イタメシのディナーはそんなに安くもないもんな」


 具体的に言えば俺の普段の食費一週間分ぐらいは一食で軽く飛ぶ。


 それでも食べる人がいるというのはそれだけの価値があるってことだ。


「そうよ、包丁を上手くつかえるのは大事なことなの。

 だから相田くんもがんばりなさいな」


「あー、俺ケーキばっかりつくってたからあんまり包丁は触ってきてないもんな……」


「まあ、それは周りもそんなに変わらないし」


「そうだな、火にはなれてるぶん俺のほうが有利かも」


「だからって調子に乗らないの」


「へいへい」


 俺は製菓コース、桜田さんは経営者コースだから来年は別々になるはず。だけど、1年次他のコースも一緒くたに授業は受けるから和食板前さんも中華の料理人も洋食のコックさんも経営を学びに来てるものも、いまは一緒に授業を受けてるしキャベツの千切りとか大根の桂剥きとか魚の三枚おろしなんかもやってる。


 製菓だと包丁はあんまり必要なくてもやっぱり包丁の扱いは基礎として大事なのだろう。


「最近は冷凍食品や機械で調理することが多いって言っても技術は無駄にならないわよ」


「うん、おれもそうだと思う」


 一流ホテルと言われてるところでもハンバーグやオムレツ・スープ・グラタン・ピラフなどは冷凍食品である場合も増えてるけどそれだけ冷凍食品のレベルは上がってきてるのでハンドメイドのものが味で負けることもあるわけだ。


 そしてケーキもそれにもれず冷凍食品を解凍したものでも十分にうまかったりする。


 ハンドメイドより安上がりで味も均一なのでカフェや喫茶店ではそういったケーキが使われていることも少なくない。


「いろいろなことを知ることはきっと無駄にならないよな」


「そうそう」


 さて調理実習で切った物は別に食べるわけではなく普通に捨てたりするのだがもったいないので俺はそれを昼飯にまわす。


「ドレッシングは人参ドレッシングにするか」


 材料は人参・玉ねぎ・オリーブオイルに味付けようの醤油・酢・砂糖・味醂。


 それを混ぜ込んでフードプロセッサーを回して液状になれば完成。


「よーし、いただきます」


 今日の昼飯は山盛りのキャベツの千切りにたっぷりの自家製人参ドレッシングだ。


 あとは夜まで我慢すればきっとうまい賄いが……。


「やっほー差し入れだよー、って今日はキャベツだけ?!」


 そう言って桜田さんが部屋に入ってくる。


「おう、山盛りキャベツでお腹いっぱいになる事請け合いってね」


「ま、やっぱりそんなもんだよね。

 じゃーん今日の差し入れはヒレカツだぞ」


 キャベツの千切りを俺が食べると思って買ってきてくれたのか。


 なんていいやつなんだ。


「ありがたやありがたやー、でも俺の行動パターン読んでる?」


「それはまあね。

 で今日のシフォンはなにかな??」


 俺はつくってきたシフォンケーキを桜田さんの前に出す。


「今日はスライスアーモンド入りだぜ」


 にぱっと笑って桜田さんはいう。


「うむ、くるしゅうない予に献上せよ」


「はは、では上様お受け取りください」


 そんな感じで俺は山盛りキャベツの千切りにぴったりなヒレカツを桜田さんはスライスアーモンドの入ったシフォンを各々手に入れ各々堪能したのだった。


 それとちょっと心配だったので俺は桜田さんに言ってみることにした。


「トラットリアのバイトなんて初めてだけど大丈夫かな。

 包丁さばきとかあんま自信ないし」


 俺がそういうと桜田さんが笑っていう。


「大丈夫、大丈夫、誰だって初めてはあるんだから心配無用よ!」


「ま、それもそうか」


 桜田さんのお兄さんは厳しそうだったけど世の中不景気だしな。


 冷凍のケーキなんかに負けないように俺も頑張ろう。

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