第3話 トラットリアの面接に何とか受かったんでよかった
さて、バイトの面接の日曜日、電車で横浜に向かい15分前には”トラットリアパラディーゾ”に到着した。
俺に気がついたらしい桜田さんがにこやかに店の入り口からから出て来た。
「お、15分前行動だね偉い偉い。
じゃちょっと早いけど入って入って」
「あ、ああ、失礼します」
「ンー、そんな緊張しなくても大丈夫だって」
店は割とこじんまりしててテーブルが10席、カウンターが5席くらいかな?
「面接をお願いしました、相田洋平です。
よろしくおねがいします」
まずはナイスミドルなオジサマといった感じの人に挨拶をする。
ニコリと笑ってぽんと肩に手を置かれた。
「娘から話は聞いてるよ。
僕がオーナーの桜田彩一郎(さくらださいいちろう)。
ケーキが絶品って絶賛していたし、娘の舌は確かだから期待しているよ。
早く仕事を覚えてね!」
え、そんな簡単に決めちゃうわけ?
「あ、は、はい、履歴書とかはいいんでしょうか?」
「コックのバイトに履歴書はあんまり意味はないからね」
そこにオーナーと顔が似ているけど明らかに若い男の人が声をかけてきた。
「でもまあ、全く使い物にならないと困るし自信のある物をなにか一つつくってもらおうか?
あ、俺はオーナーの息子でチーフの桜田始(さくらだはじめ)だ」
うわ、実践試験か。
「自信のあるものですか?
ケーキでもいいんでしょうか?」
「ああ、ドルチェでもいい。
器具と材料はあるものでやってもらうが」
「では、シフォンをつくらせていただきます。
シフォン型はどこでしょう?」
「あ、ここにあるよー」
桜田さんが17センチのシフォン型やボウルなどを出してくれた。
シフォンケーキのレシピはもう俺の頭に入ってる。
材料になる卵、グラニュー糖、牛乳、サラダ油に薄力粉はあるな。
まず薄力粉をだま出来ないようにフルイでふるってから卵を割って卵黄と卵白に分ける。
卵黄を入れなければ白い生地に、卵黄を入れれば黄色い生地になる。今回は普通に卵黄は入れよう。
「予熱のためにオーブン借りますね」
オーブンをあらかじめ200度で予熱しながら、黄身にグラニュー糖を小さじ1杯くらい入れて混ぜさらに、水とサラダ油少しずつ混ぜて最後に薄力粉を少しずつ混ぜながら卵黄生地を均一になるように混ぜる。
卵黄生地が均一になったら卵白にグラニュー糖を1/3ずつ加え泡立てながらメレンゲの状態を確認しつつグラニュー糖を加えていき、ピンと角が立ち、先が少し曲がるようならメレンゲの完成だ。
後は卵黄生地にメレンゲを卵黄生地にメレンゲの1/3ずつを加えてなじませ、せっかくつくったメレンゲの泡をつぶさないように、木ヘラで混ぜ、なるべく少ない回数で均一に混ざるようにする。
後はシフォン型に流しこんで、かたを軽くトントンとテーブルに打ち付け余計な気泡をぬいて焼成に入る。
200℃で10分焼いて表面に焼き色が付き割れ始めたらナイフで5ヶ所切れ目を入れる。
アルミ箔をかぶせ180℃で20分焼く。
最後は自分の鼻だよりでもあるけどな。
「ん、焼けたかな」
ミトンをはめて型を取り出し竹串を刺してきちんと焼けてることを確認したら、コップの上にシフォン型の中央の筒を載せてケーキを冷まし、ナイフで型から外す。
そして皿の上に乗せて切り分ける。
「どうぞ皆さん召し上がってください」
「では、遠慮なくいただこうか」
まずはオーナーから試食。
「うん、甘味もまろやかだし口触りもいいね」
「あ、ありがとうございます」
次はチーフ。
「うーん、たしかにうまいけど無個性っていうか、レシピ通りの味だな」
オーナーと違って結構手厳しい。
「あ、はい、そう、ですね」
「でもまあ、下手にアレンジしないで基本を守ってるのはいいことだ。
父さん彼は採用でいいんじゃないか?」
親子の間で視線がかわされ二人がニコリとなった。
「うん、お前が納得してるなら俺も問題はないとおもう。
早速だけどいつから来れるかな?」
ぶっちゃけ先の予定なんて俺にはない。
「俺は学校が終わった後の夕方なら明日からでも大丈夫です」
「じゃあ、明日からよろしく頼むよ」
「はいっ!」
やった、無事採用決定だ、これで夕食は賄いが食えるしバイト代も出て極貧生活から脱出……できるといいなぁ。
「んふふふ、じゃあ、明日からよろしくね」
桜田さんもやけに機嫌がいい。
「うん、俺頑張るよ!」
「ん、その意気で頑張れ」
いろいろ忙しくなりそうだけどこれも修行と金のためだ。
ケーキを焼かせてもらえれば最高だけどそんな甘くはないよなぁ。
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