第3話 火曜日
朝、母上様は器用にヘアアイロンを使いこなしていらした。若いころ美容に携わっていただけあり、今でも身なりには気を遣っていらっしゃる。私は三十三歳になっても、ときおり母上様にファッションチェックをしていただいている。
この日私は黄色のレースTシャツ、青地にミモザ柄のワンピ―ス、白のサンダルという出で立ち。木材のイヤリングを着けるも、アクセサリーが地味とのお叱りを受けた。三十代の割には色彩が豊かなコーディネートなのに。私はカレッジバスの時間を理由に、母上様の貴重なお言葉を流した。
「だから早めにチェックさせろって言ってんのに」
かくいう母上様は、それほどご立腹ではない。
火曜日と木曜日に通っているデイサービスにて、先週届いたばかりの柄マスクをお披露目することで『
母上様はこれまでデイサービスを二回変えたが、そのたびに自己主張が強くなった。
車いすに乗る前から気が強い方ではあったがその傾向が増すと同時に、若者志向も強くなった。
言うまでもなく、デイサービスは一般的に、身体が不自由な人や恒例の方が利用するもの。個人差があるとはいえ、やはり集まる人の価値観は昭和時代前期からそれ以前に偏る。
例えば、一般的な七十代の話題といえば身内が多い。夫の保険金や遺産相続、長男の嫁の働きぶり、未婚の実子に結婚を迫っていること。母上様にしてみれば、顔も名前も知らない利用者の身内について話されたところで、面白くも痒くもないという。結婚についても、今の時代に強要するものでもないし、何より話し手の視野が狭くて好きになれない。
その点については、私も同意見だ。決して、母上様に逆らいたくないからだけではない。私自身、母子家庭で育ったので、結婚しなければ! という強迫感がない。結婚したい人がいればするだろうな、程度の認識だ。母上様も、私に一度も恋人ができていないことについては何もおっしゃらない。何しろ、型にはまることが大嫌いなお方だから、それを一人っ子の私にも求めていらっしゃる。その遺伝子が、私たちのファッションに表れている。話は逸れるが、私も大学では現役入学した生徒より派手で発言もためらわない。ハロウィンやクリスマスの時期は特に、私が騒ぎの中心になる。年上だから、三十四歳だから、女だからとか一切関係なく生徒や先生方に接する。生徒との相性は両極端だが、私は気にせず過ごせている。これも、母上様の教えと遺伝子があってこそだ。
そんな私にも、学内で気を引き締めることだってある。火曜日と木曜日、何が何でも大学の課題を終わらせてから帰宅せねば。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます