第23話自発8
「それでその後はどうなんだ?」
西田が促すと、
「三島建設は、同僚と結婚することになって就職から4年で退社し、そこから2年程して離婚しています。離婚原因についてはわかりませんが、子供は居らず、離婚後は母親の実家でブラブラしていたとか。そして1年後から義隆の家の家政婦として働き始めたようですね。今から8年ちょっと前のことです。まあ、実の父である義隆からの提案でしょうか、こちらも 事情は よく わからないですが。因みに母親は5年前に亡くなっています」
吉村は資料を凝視しながら、つっかえつっかえ話す。そんな吉村に遠慮することなく、
「再婚とかそういう話もなかったのか?」
と西田が問う。
「西田さん! 正直言って、そういう細かい事情までは探れる状況じゃなかったから!」
珍しく吉村が苛つきを隠さなかったが、確かに取り調べや事情聴取もなく、探っていることを知られない様にしながらでは限度がある。
「ああ、悪い悪い……」
さすがの元上司も正論の前には引かざるを得ない。
「そこまで調べてくれれば上出来だ。それ以上情報がなければ、飯田景子の方に移ってくれ」
竹下が宥める言葉と共に、上手いこと話を先へと進めようとし、吉村もその意図を察したか冷静に続ける。
「じゃあ飯田景子の方について。こちらは、1997年の5月に札幌で生まれています。母親は『
黙って聞いていた2人だったが、
「美智子も結構ヘビーな人生送ってるが、こっちも更にキッツいな……」
と西田は思わず呻いた。
「確かに。大学に通う為に風俗嬢までやって、波乱万丈ですよねえ」
竹下もそう言って、口を真一文字に結んだまま頬を軽く膨らませた。
「ただ、最初に羽振りが良かっただけじゃなく、両親が亡くなって実家に景子が戻ってからも、経済面では問題なかったみたいなんです」
思わぬ展開に竹下は、
「じゃあなんで大学の学費も足りなかったんだ?」
と前のめりになって尋ねた。
「それがどうも、08年のリーマンショックが大きかったみたいですね」
「リーマンショック?」
「そうです。元々それなりにおそらく義隆から得た金がまだ残っていたのと、死亡保険金もあって、実家の生活水準自体は事故以降も十分高かったそうなんですが、なまじ金があったばっかりに、祖父母が株に突っ込んで、あの暴落で大損したとか。まあ株で損しただけならいいんですが、そのストレスもあったんでしょうか、祖父が心臓患った挙げ句、祖母もガンになったようで、医療費が相当掛かったんですね。それで一気に経済的に苦しくなったようです。余程優秀でなければ、奨学金も限度がありますから、私学の理系だと経済的負担も大きい」
「そういうことか」
事情を理解した2人だったが、余韻に浸る間もなく吉村が見解を述べ始める。
「竹下さんはわかった上で自分に調査を依頼したんだと思いますが、これは高須の遺産独り占め計画の一環だと見て良いんですね?」
と確認してきた。
「一応その可能性を前提にしていたが」
思案げな竹下を前に、
「つまり、これは生存している久田美智子についても、遺産相続と口封じの両方を兼ねて、いずれ殺される可能性が十分あると見て良いんでしょう? この流れだとすぐに関係者を殺害するのは悪手だと言う、竹下さんの前の考えを前提としても、いずれ動き出す可能性は高いでしょ?」
と軽く詰め寄った。
「勿論、美智子の命の危険は高いのは確かだ。高須に近い人間が死にまくってる中、更に今すぐどうこうはないと思いたいが、警察側も現時点でそれなりにマークはしておくべきかもしれん」
竹下は自分が想定していたよりは深刻な状況だと再認識したのか、表情は硬かった。
「一方で、美智子は自分も殺される可能性があることに気付いてないんですかね? どういう形で高須が事件に協力させてるのかわかりませんが、高須が相続権者を減らす目的なら、自分にもその
吉村はそこまで言うと押し黙った。
そんな中、意を決したように竹下が思わぬことを口にし始めた。
「ところで、科捜研に紫苑ちゃんのDNAのサンプル残ってるか?」
「それは断言は出来ないですが、検死してるんで何らかの検体は取ってる可能性はあるんじゃないですか?」
怪訝そうに答える吉村に、
「紫苑ちゃんと高須に血縁関係……、具体的には兄妹(きょうだい)の関係があるか調べて欲しいんだ」
と言い出した。これには、黙って聞いていた西田が、
「お前、本気で言ってんのか? 確かに紫苑ちゃんの実父は今の父親とは違う上、誰だかわからないという話を吉村から聞いてはいるが、お前の話だと実父は死んだ高須義隆だということになるだろ? ということは、自分の娘が義雄に殺害されたことに気付いてしまうんじゃないか? そうしたら遺産目当ての件も義隆にバレかねないぞ、義隆を殺害する前に」
と興奮気味に尋ねた。
「実はその点は自分も弱いと思ってます。だからひょっとしてとは思いつつ、吉村には今回頼まなかった……。しかし、自分の読みがここまで当たっていた以上、やはり調べてみる必要があると思います。知らない可能性がなかったとは言い切れないですから」
竹下は西田を見据えながらも、珍しく弱気含みだった。しかし、吉村はそんな竹下の態度も気にすることなく、というより気にする余裕がなかったのだろう、
「万が一、否、十が一そうだったとしましょう。すると事件に対するこれまで見立てから180度は言い過ぎだとしても、かなり構図が違ってくることになりますよね?」
と早口で捲し立てた、
「その通り。今日までは、一応は、父である高須義隆を自殺に見せかけて殺害する目的で、三島紫苑ちゃんを殺害したように飯田景子に陥れられ、収監させられていたという事実を創り出すために一連の事件があったと考えていた。その過程で、紫苑ちゃん、佐藤貴代、そしておそらく飯田景子自身も消されることとなった。そして義雄の協力者として異母兄妹の久田美智子が加担していたという見立てだ」
間髪を入れずに吉村が話の続きを継ぐ。
「しかし、実際には義隆の自殺偽装に対する動機付けや義雄の鉄壁のアリバイ工作だけでなく、相続権主張が可能な義隆の隠し子を同時に始末しようという目的もそこには隠されていた……。そういうことになります。しかしながら、義隆には義隆殺害前にその意図を知られてしまう恐れがあって、当然それについては説明が付かないなど、問題も多々あるのも事実じゃないですかね?」
「勿論そうだ。しかし断定的なことは言えないが、俺はその確率が高いんじゃないかと思ってるんだ、問題が色々あるにしても……」
竹下の口調は、発言内容よりは先程よりは力強さが戻っている様に西田には思えた。
「紫苑ちゃんと高須に血縁関係があって欲しい様な欲しく無い様な……」
吉村の呟きを耳にしながら、西田は渋い表情を浮かべていた。
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