第21話自発6

 その後も竹下はまた何か調べていたが、大して間も置かず、

「おお! やっぱりか!」

とかなりの角度で仰け反った。

「何だ何だ? 今度はお前か……。何があったんだ?」

西田は吉村に続き、竹下が妙な態度を見せたので訝しげに尋ねた。

「それがですね、今その店舗名で調べて、住所をまずチェックしたんですよ。そしたら、ASABU CENTRAL URBAN BUILDINGのテナントとして入ってたことがわかったんです。その上でそのビル名を調べたら、こんな結果が出ましてね……」

竹下はそう言いながらスマホの画面を西田と吉村に見せた。そこには、ビルの所有会社と管理会社の名前が記載されていた。そしてその名前は、所有会社が高須リアルティであり、管理会社が高須マネージメント札幌北支社となっていた。


「高須マネージメントは、高須リアルティの中の不動産管理部門を担ってる子会社だったはず」

そう付け加えて再びスマホで調べた竹下だったが、やはり正解だったので改めて検索画面を見せた。決して笑顔ではなかったものの、先程以上にかなり満足そうな顔付きだった。そしてその意味は目の前の両名にも自然と伝わっていた。


「なるほど! 高須の強姦騒ぎは、おそらく虚偽だったってことですね!」

吉村が快哉を叫んだ。

「そういう可能性が高まったと思う。つまり高須の強姦事件は実はただの狂言で、その目的は、一度逮捕されることで自分のDNAデータを警察に押さえさせる目的が裏にあったと……。他にも援助交際をやっていた様な節はあるが、いきなり援助交際開始直後のレイプだと不自然なこともあるので、その不自然さを消す為の布石だったんだろう。そして狂言の強姦事件を企てる前から、被害者の両親が経営する美容室の状況は芳しくなかったことを知っていたんじゃないか? その情報は、おそらくだがテナント料の支払いが滞ったことなどを元にしていたんじゃないかと思う。高須はそれ以前から狂言事件で被害届を出すか、告訴してくれる相手を探していた。そして、テナント料の支払いに困っているテナントの経営者情報を子会社から報告させ、更に興信所など使って家族構成を調べ上げ、年頃の娘なんかが居る人物をピックアップし、表向き示談という名の大金を払うことを約束した上で、狂言を持ち掛けたんじゃないだろうか?」

竹下がそこまで詳細に解説してみせたが、ここぞとばかりに西田が口を挟む。


「年頃の娘を狂言とは言えレイプ事件巻き込むとなると、一見親としては拒否反応が出やすいかもしれない。だが、娘が高校生ぐらいだと、将来を考えれば高校を無事卒業させるのは勿論、場合によっては大学や専門学校への進学も視野に入ってくるからな……。実際にレイプされる訳でもなく、あくまで被害者として届け、しかも早期の示談という形で裁判にもならなければ、大して娘の人生に対する傷も負わなくて済む。渡りに船というと言い過ぎかもしれないが、娘が同意してくれればだが、そう悪い条件じゃない。実際、吉村の話だと1千万ぐらい動いたって話だしなあ。無論、それ以上の金額が裏で動いたかもしれない。だがそれでも結局は復活出来なかったと……」

自分にも娘がいただけに、知らず知らず実感のこもった口調になっていた。


「そんな感じだったと自分も思います。それで、娘についてだが、すぐに高須が逮捕されたということは、事情聴取はともかく、婦人科でのチェックなどはまともにしなかったんだろ?」

その推測を受けて竹下は吉村に確認を求めた。

「お察しの通りで。遠藤の娘……、本人は遠藤絵美という当時17歳の高校2年だったはずですが、彼女がラブホテルで相手の男からレイプされたとホテルから電話してきまして。西署うちの署員がホテルの部屋に駆け付け事情を聞くと、相手は高須だと言う話だったんです。まあおそらく『援交』絡みだとは思われましたが、取り敢えず電話番号を女子高生から聞いて高須本人に確認するとあっさり認め、要請に応えすぐに出頭して来たんで、そのまま署内で逮捕です。女子高生から事情聴取こそすれ、ボディチェックなどは行いませんでした。と言うのも、レイプと言っても普通の性行為の途中から揉めた、まあ金銭絡みだったことは高須も当初から自白して……、当然この話自体が嘘だったということになりますが、その自白もあった上、高須がコンドームはしていたと女子高生も現場での聴取で証言していましたから。そういう意味でも婦人科の世話になることはなかったし、特に強い暴力なども受けたと証言してなかった訳ですから、他の分野の医学的チェックも受けることはなかったんです」

吉村は、ゆっくりとした口調で丁寧に当時の状況を回顧した。


「なるほど。女子高生としては、高須に殴る蹴るなどの暴力まではいかない程度に無理にやられたと警察に訴え、それらしい証言をすれば、後は高須側が一々争わずほとんど処理してくれる形になるって話か。女子高生相手なら警察も余り根掘り葉掘り聞く訳にもいかんしな……。このご時世警察へのセカンドレイプ批判もあるから……」

西田は自分で言いながら何度も頷いた。

「しかしこうなってくると、今まで我々は深く意識しないまま、高須の逮捕歴を後から利用したのがこの一連の事件と考えていたものの、実はかなり周到に用意されていたという風に認識を改めないといけなくなったと言えます。もう一度、事件を考え直すというか、洗い直す必要があるかもしれませんね。この事件、更に根が深いかもしれない」

それまでの表情から一変し、竹下は眉間に皺を寄せ始めていた。同時に、互いに何か言うことはなかったが、西田と吉村はこの竹下の推測がおそらく当たるだろうという認識に、内心かなり切り替わりつつあった。と言うよりはむしろ確信し始めていた。

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