第20話自発5
「色々大変って、今一体何やってんですか?」
そんな竹下の表情を探る様に吉村は尋ねた。
「今は自己破産者のルポ(ルタージュ)やってんだと」
イライラしているのか、やや表情が硬い竹下に代わって西田が返したが、吉村は意に介さず、
「自己破産者に直接取材とか、そりゃ確かに取材相手も見つけにくいでしょう?」
と、先輩への気遣いか、やや大袈裟に同情して見せた。
「まあ取材対象そのものはすぐに見つかるんだが、相手が実際に取材させてくれるかどうかは別だからさ……。そこが今回の仕事の最大のハードル。連載もあって最低5名に取材することになってるが、現状でまだ2人しかOKもらってないんだよ」
吉村の配慮に、意識してイラつき気味の口調を普段のそれに直した感のある竹下だったが、愚痴気味であることに変わりはなかった。
「あれ? 取材相手に接触することまではそんな難しくもない!? どうやって自己破産者を調べる上げるんですか?」
大層不思議そうだったが、西田がまたも先回りして答える。
「官報で調べるんだよ官報」
とは言っても、先日も竹下に指摘されるまではよくわかっていなかったのも事実。そのバツの悪さもあって、吉村を相手にしているにも拘らず、いつもと違いどやしつける様な口調は鳴りを潜めていた。一方の吉村は言われた時点ではよくわかっていなかったらしく、
「カンポウって、あの薬の!?」
と頓珍漢な発言をしていたので、竹下が呆れて、
「行政が発行してる官報だよ」
と溜息を吐きながら訂正した。さすがの吉村もここに至っては自らの不明を恥じたか、
「ああ、そっちですか……」
と俯き加減で苦笑いしていた。
「これに載ってるんだよ」
そんな吉村を諭すが如く、竹下はポンと机に持っていた官報を数冊置いた。これだけでも極最近の自己破産者開示の分でしかない。誰に促されることもなく、早速吉村は手に取ってパラパラとめくり始めた。
「どうだ、札幌地裁分だけでも思ったよりたくさん居るだろ……。俺も最初はここまでとは思わなかった。実際、調べている内に何人か知り合いが居て驚いたぐらいだ」
「確かに結構居ますね」
竹下の真面目なコメントに社交辞令程度の感想を述べた上で、吉村はしばらく官報を眺めていたが、突然官報に顔を近付けて食い入る様に見始めた。そして、
「ああ……。やっぱり駄目だったか……」
と呻く様に呟いた。それまでの読み方と対照的だったので、目の前の2人からするとかなり奇異に見えた。
「何だ? 誰か知り合いでも載ってたか?」
当然の如く西田が尋ねると、
「まさにそれですよ。知人というよりは捜査で知り合った人ですけどね……。しかも今回の事件にもちょっと関わってると言って良い人ですわ」
と言い出した。さすがにこの発言を聞いて、聞き流す様な西田と竹下ではない。
「何だそりゃ? ちょっと説明してみろよ」
西田がまず命じたが、当然竹下も同じ気持ちだった。
「これちょっと見てください」
吉村はそう言うと、官報を2人の方に向けて、該当箇所の人物を指し示した。
「この人、高須がレイプした女子高生の父親なんですよ……」
今回の事件関係者とは聞いていたが、改めて具体的に言われると、西田も竹下も思わず軽目とは言え驚きの声を上げていた。一方の吉村は気にも留めず説明を続ける。
「この『遠藤
「しかし、美容室をやってたってことは、経営状態が良くなかったってことなのか?」
西田が更に説明を求めると、
「確かに、ビルの3階にあってかなり広めの店舗だったんですが、訪ねた……確か2回共、客は居なかった記憶があります。時間帯は平日とは言え午後1時から3時だったと思うんですよ、両方とも」
吉村は目を細めながら、当時のことを思い出して答えた。そんな中、これまで口を挟んでいなかった竹下が突然質問し始めた。
「店の名前は?」
「カットスタジオ FAR AWAYだったかな。ファーアウェイは英語表記です」
吉村は質問の意図がわからず戸惑っていたが、何故店名を聞かれたかについては触れずに、すぐに竹下が望む答えを返していた。すると、竹下はすぐにスマホで店名を検索し始めた。
「自己破産してるんですから、既に店は閉じてる可能性が高いだろ?」
その様子を横目にしながら、西田は懸念を伝えたが、
「仮に閉めているとしても、ウェブサイト上の情報はキャッシュとしてしばらく残りますからね」
と気にする素振りも見せなかった。しかし、間髪を入れずに、
「これか」
と口にしたので、店の情報はどうやら取れたらしい。しかしながら、竹下が調べていたのは店自体の情報ではなかった。
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