第17話自発2
「背、気になりませんでした? 自分は全身を見られた訳じゃないですが、ドアの高さと比較して、女性としてはまあまあ高いタイプかと推測しましたが」
竹下の指摘を受けて、
「ああ。確かに170前後はありそうだったな」
と思い返した西田。しかし、そこから竹下の意図を理解するまでの時間は掛からなかった。
「あれ? 竹下はもしかして、佐藤貴代の殺しについて考えてるのか!?」
「ええ。ご推察の通りで」
「確かに、飯田景子は170超える、女性としては高身長だったな。ただ、髪型はニュースや新聞で見た手配写真を見る限り、飯田は割とロングヘアだが、久田美智子はショートカットだぞ?」
「否、それについてはウィッグというかカツラで何とかなるでしょう」
「うーん……。それはそうだが……」
思わず考え込んでしまった西田に畳み掛ける様に、
「あの手配写真を見る限り、顔の造りの雰囲気もそう遠くないでしょうし、監視カメラの画像が粗いなら、十分似て見えるんじゃないですかね?」
と語り出す。
「そりゃ、高須の父親の自殺に関わり、更に佐藤貴代の殺害に関わったとすれば、かなりスッキリ繋がって来ることは来るが……」
相変わらず思案げな西田を
「西田さんは、豊平川の監視カメラに映った、飯田景子と思われている女の画像は実際に見てないですよね?」
と質問してきた。
「ああ、見てない。警察の直接の資料を持ち出させるのは、OBとしても越権だしなあ」
「しかし、もし久田が変装して映っていたとするならば、色々警察の捜査力で調べてもらいたいこともありますし、吉村に協力して欲しいってのが本音ですよ」
竹下はキッパリと言い切った。この男がそこまで言うのだから、かなり確信があるのだと西田も察し、
「まあ、お前がそこまで言うのなら、頼んで見る価値はあると思う」
と頷いた。そして躊躇なくサッとスマホを取り出すと吉村に連絡を入れた。
すると吉村もタイミングが良かったらしく、すぐに電話に出てくれた。
「西田だ。忙しいところスマン」
「西田さん、忙しいって言ってもこんな状況ですから、充実感の無い、正直徒労というか……」
口ごもった吉村の気持ちは痛い程わかったので、それ以上言わすまいと、
「ちょっと頼みたいことがあるんだ」
と間を置かずに切り出した。
「頼みたいこと?」
「ああ。お前には何にも言ってなかったが、俺と竹下でちょっと捜査ごっこし始めてな」
「捜査ごっこ?」
相変わらずピンと来ていない元部下に、
「高須の親父の自殺、高須が殺しを画策したんじゃないかと」
とストレートに伝えた。
「ああ、そういうことですか……」
吉村は特に驚くこともなく、想定していたかの様な口ぶりだった。
「あんまり驚かないんだな?」
思わず問い質す。
「確かに、高須が佐藤貴代が殺害された後までアリバイを主張しなかったことは、強制猥褻絡みのエクスキューズがあるにせよ、我々もずっと引っ掛かってないと言えば嘘になりますから。言い掛かりと言われればその通りかもしれませんけど」
「警察に留置されているという鉄壁のアリバイと同時に、父親の自殺の理由としてもっともらしいという2つの要素が、高須が警察に勾留されたままだと上手く成立するからな」
西田の解説に、
「まあそんなところですよね。ちょっと不自然というか、上手く行き過ぎているというか」
と力なく同意した。そして、
「先日、西田さんから家政婦の情報を求められたことも、その目的だと納得ってのもあります」
と付け加えた。
「それでだが、竹下がちょっと吉村に協力して欲しいと言ってるんだわ」
そう言うと西田はサッと竹下にスマホを渡した。
「忙しい所悪いな。早速だけど、貴代が殺害された時の豊平川の監視カメラの、飯田景子と思しき画像、それ見せてくれないか?」
前置きもなく要求する竹下に、
「いきなりですか……」
と、元先輩刑事の要求に、今度こそ戸惑いを口にした吉村だった。しかし、
「竹下さんがそこまで言うってことは、必要不可欠なんでしょう。わかりました。何とかしてみましょう」
と案外素直に応じてくれた。
「他にも頼みたいことはあるんだが、その点については会った時に話す。で、お前としては何時が都合が良い?」
矢継ぎ早の竹下の攻勢に、吉村は電話口で苦笑いを浮かべたまま、
「画像の件はデータの転送という形だとバレる恐れがあるんで、プリントアウトした実物として持ち出す必要があります。だから明日以降ということにしてもらいますが……。こっちの都合では明後日の夕方以降ということになりますね。勿論マチュアで集合ということになるんでしょうけど」
と返してきた。
「西田さん。明後日の夕方以降なら、ここで落ち合うという形が可能と言ってますが? 自分の方はOKです」
竹下がお伺いを立てて来たので、
「ああ。こっちは完全に暇人だから、現役2人の都合に合わせるぞ」
と伝えた。
「西田さんもそれで構わないそうだ。ではよろしく頼む!」
改めて竹下が吉村の都合を受け入れることを告げると、
「しかし、お二人が動き出したということは、細かいことはよくわかりませんが、まだ逆転の目が何かあるのかもしれないという意味で、ちょっと元気が出てきましたよ」
そう言って、吉村が必ずしも空元気とは言い切れない、多少陽気な声を出していたことに、竹下も悪い気はしていなかった。
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