第15話自殺7

「重要なことは、佐藤貴代と飯田景子に一定の交流があったことを利用したということで、その点についても、高須は用意周到に調べ上げていた可能性が高い。かなり綿密な計画が立てられていると見ます」

竹下が更なる考察を加えた。

「つまり、殺された紫苑ちゃん、佐藤貴代、そしておそらく飯田景子もそうだろうが、その3人は、高須の実父殺害計画目的の中で殺害された。今の所、佐藤貴代と共に河川敷の監視カメラに映って、飯田景子であると誤認させた奴だけが、誰だかわからないが高須以外の犯人ホシの中で表に出て来ているという形か。無論そいつが佐藤を殺害したかは、正確なところは不明だがな」

西田は、タバコを止めていたにも拘らず、思わず刑事時代の考える時の癖でタバコを取り出すため胸ポケットをまさぐる仕草をした。ハッとしたが時既に遅く、バツが悪そうに空の手をテーブルの上に静かに置いた。竹下はその様子にチラっと視線をくれたが、何事も無かったかの如く、

「監視カメラの映像ってのは、余り鮮明ではなかったんですよね?」

と確認してきた。


「元々が河川敷の洪水監視用で、画像は鮮明である必要はない奴だったらしい。それを河川敷のサイクリングロードの保安監視用に転用した、年代的にも性能が劣る古いタイプで、佐藤貴代はともかく、サングラスしてる飯田景子っぽい女、まあ下手すると女装した男かもしれんが、それっぽく見えたというのが正確なところじゃないか?」

西田も実際に見たわけではないので、歯切れが悪かったが仕方ない。

「俺も部外者だからな……。実際にチェックしたって話じゃない。一方で、敢えて『見せた』んだとすれば、監視カメラの性能についても予備知識があった可能性はあるかもしれん」

言い訳しながらも更に推測を加えた

「問題は、それがただ飯田景子に見せかけるためのダミーなのか、佐藤貴代殺害の実行犯でもあるのか、西田さんもさっき触れましたがそこは重要です。もし前者なら、目的は告げずに相手、つまりカメラに映った奴を利用した可能性がある。但しその場合には、相手は悪意がない以上、警察側に告発しやすいとも言えるんで、やっぱり微妙ですかねえ……。おまけに時間的近接性から見て、ダミーを遠ざけた後で飯田景子を殺害したってのは、素直な考えじゃないかもしれません」

竹下にしては煮え切らない言い方で終わり、この点でのダミー説については半信半疑以上に怪しいと見ている様だった。


「ところで、飯田景子の偽物自体も消される、消されてる可能性もあるんじゃないだろうな?」

不意に口を衝いた西田の危惧はある意味当然のことで、佐藤貴代や三島紫苑の例を考えれば、死ぬ必要もない人間を平気で殺害しているのが高須義雄ということになるからだ。

「それは、普通にあり得るんじゃないですか?」

竹下は冷めた言い方だったが、常識的な考えである以上「言うまでもない」と思っていたのだろう。無論、それが事実だったとして、最近まで留置されていて、おまけにまだ警察の目も離れていない高須本人によるものではないことは確実だが。

「まあそうだよな」

西田も相手のリアクションの薄さにやや拍子抜けしたが、特に反論された訳でもなく、気を取り直して続ける。


「色々問題はあるが、高須の父親が自殺ではなく殺害されたんだとすれば、殺害可能性が高いのは、吉村の情報を前提とする限り、住み込みの家政婦ということになるかな」

「2人居たんでしたっけ?」

「ああ。高齢と若いのの2人だったかな、吉村の話だと」

「父親と高須の家は近くではあるが別でしたよね?」

「そうだったはず」

「そうなると、家政婦との関係という意味では、やや父親との方が近そうなのかな、勿論悪い場合も含めて」


 竹下が言いたいのは、家政婦が高須側に付きやすいのか父親側に付きやすいのかという意味であり、後者だとすれば、やや家政婦実行犯説は疑問符が付くという程度のことなのだろう。

「まあそこはどうとでもなるだろ? 家政婦も父親の義隆を嫌っていたかもしれんし。とにかく住み込みの家政婦なら、遺書の偽装から毒物の混入まで、そう難しいことじゃない。やはり最有力なのは家政婦だな。高須と繋がっていることは当然として、家政婦2人ともグルなのか、或いは片方のみの単独犯なのかはわからんが」

「家政婦が最有力候補である点は間違いないでしょう。しっかり調べた方がいいですね」

竹下も力強く頷いた。

「しかし、警察はこれまでの経緯もあって、なかなか動きにくいわな」

西田は西田で竹下に鋭い視線を遣った。

「でしょうね。無実の息子を捕まえて父親を自殺させたという十字架は、きちんと解決しない限りは背負い続けることになる」

「そういう意味じゃ、吉村に色々聞きながらも、この件で動くのは俺達、特にお前である必要がありそうだ」

西田の意見に竹下は、

「まあそういうことになりますね」

とだけボソッと言ったが、

「でも、仕事が別にありますから、残念ながら片手間になりますよ。その点の文句は受け付けませんよ」

とだけキッパリと言い切った後で口元を僅かに緩めた。

「とは言っても、完全にただのリタイアした爺とフリージャーナリストのお前じゃ、動ける範囲も立場も違う。頼りになるのは竹下なのは否定出来ん。おんぶに抱っこで頑張ってもらう」

西田もまた茶目っ気たっぷりに返していた。

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