第10話自殺2
「西田さん、忙しいところスイマセン!」
マチュアの店内で西田がランチの後片付けをしていると、スマホに吉村から電話が掛かって来た。先日の高須の父親の自殺の時と比較して、吉村の声の上ずり具合から、大きな問題が起きたのを察知した西田だったが、敢えて取り繕ったように落ち着き払って対応した。
「おう! 何かあったか?」
しかし、そんな気配りにも気付かないかの様に、
「え? ニュース見てないんですか? 殺されたんですよ! ミハルが……。ああ、ミハルじゃわからんか、佐藤貴代が!」
と矢継ぎ早にまくし立てた。
「うん? サトウタカヨ? 誰だそれ?」
西田はテーブルの上にあったリモコンでテレビのスイッチを入れながら、思い当たる節が全く浮かばずに、仕方なく吉村に問い質す。
「ええ? あっ……まあわからなくてもしゃあないか……。高須が捕まる前に相手したという風俗嬢ですよ!」
吉村にそう説明されて、西田はやっと状況を大雑把だが掴んだ。
ただ、
「ああ。高須の精液を持っていて偽装した可能性があるんじゃないかって、高須が主張してた女な……。それにしても、このタイミングで殺されたって?」
とは言ったものの、既に報道し終わったのか、テレビに映るワイドショー内のニュースコーナーでは、リアルタイムで取り上げられていなかった。詳細がわからないと
「少なくとも今テレビではやってない。仕方ないからおまえの口から詳しく教えろ」
と説明を求めた。
「いや、所轄は
吉村は相変わらず興奮気味だったが、直接女子児童殺害事件には関係ないと見られていたとは言え、一度事件で聴取した人物が殺害されたとなると、確かに気にならないということには到底なるまい。
「まさか女児殺害事件との絡みで殺されたんじゃないだろうな?」
西田は軽く探りを入れた。
「いやそれは何とも……。ただ正直全く関係ないとは言い切れない感じが……」
もっとも気になる問題については、吉村もやはり共有意識があったらしい。
「とにかく、何か判ったらまた電話しますから。これから捜査会議に出ないとならないんで、取り急ぎそういうことで!」
吉村はそう告げると一方的に電話を切った。西田としては、高須の件と関係あるかないかわからない状況で、平穏な昼下がりを勝手に荒らされてやや気分が悪かったものの、少なからず胸騒ぎを感じたのも確かだった。
※※※※※※※
夕方のニュースでは、吉村の報告通り、白石区米里地区の豊平川サイクリングロード沿いの草むらで、早朝のジョギングをしていた女性により、佐藤貴代が殺害されていたのが発見されたと報道されていた。だが未だ詳細についてはわからなかった。やはり、吉村からの続報が入るまではどうにもならないのだろう。そろそろ客足も落ち着いて閉店時間が迫った辺りで、やっと吉村から連絡が入った。
「白石署の知り合いに色々聞いたんですが、多分ハンマー状の鈍器で発見当日の深夜辺りに殺されたらしいですわ」
興奮気味の吉村に
「そうか……。撲殺か」
と、西田は対照的に小声で応じた。
ただ、西田も吉村も万が一女児殺害事件との関係で殺されたというその勘が現実化するとなると、話が複雑化するので厄介だという思いがかなり強くなっていた。無論、既に捜査権限も責任も無い西田と、現役刑事で責任ある立場の吉村のそれでは、懸念の度合いは段違いだったが。
「しかし、高須が自分に殺人を
西田の妄想に近い仮説を聞いた吉村も、
「そういう考えもあり得なくはないと思いますが、高須が本当に無実って可能性はちょっとねえ……」
そう言った直後に思わず絶句した吉村の心理状態は、西田にも手に取るように理解る。しかも、高須の父親が息子が逮捕されたことを苦に自殺しているという事実が、今度こそ警察側には重くのしかかりかねないという恐れはあった。
「一応、佐藤貴代本人はもちろん、近い人間についても、女児殺害に今の所関わった様子は、アリバイや監視カメラ映像からも見られないんで……」
そうは言っても、口調からして自信を持って否定しているという段階ではなさそうだ。しかも夜には、事態は最悪の形で進行し始めることになる。
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